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聖女召喚は重罪だそうです  作者: 恵ノ島すず


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第一二話 瞬発力が高い

 私が軽い現実逃避をしているうちに、室内にはずらりと女性が揃っていた。

 壁際に並んだ彼女たちはすすすと優雅に頭を下げていき、その前に立ったマライア王女が彼女らを手で示しながら言う。


「ざっくりと説明させていただきますね。こちらのドレス姿の者たちが侍女で、こちらのお仕着せを着ている者たちがメイドです。一応職務の違いはありますが、聖女様が気になさるほどのことではございません。部屋に備え付けの家具の一種だと思って、気軽に使ってやってくださいませ」


「いやそんな、スマートスピーカーじゃないんだから……」


 きょとん。

 ボソリと私が呟いたツッコミのうち『スマートスピーカー』がやはり通じなかったらしく、マライア王女はまたも小首を傾げた。

 こほんと1つ咳払いをしてから、私は言い直す。


「その、家具の一種と思ってと言われても、そういう文化で育ってないです、私。根っからのど庶民なので。この部屋もちょっと正直、豪華すぎて落ち着かないっていうか……。私、ご覧の通りの体格なので、こんな広さもデカさもいらないです。それにさっき言った通りど庶民なので、こんなに質も良くなくて平気です」


 見れば見る程、委縮してしまう程の豪華さだ。


 その時、きょどきょどと挙動不審にあれこれを眺めながらそう私が訴えたのを見た、侍女と紹介されたドレスを着た女性たちの一部が、ふっと笑った。

 完全にこちらを馬鹿にした表情で、あざけるように、私を見て笑った。

 その上、その意地の悪い様から更に続けて、笑った者同士でアイコンタクトを交わしてまたくすくすと笑う。


 すー、ぱたん、と、私の心のドアが閉まっていく。この人たちと仲良くできる気がしない。

 この落ち着かない部屋で、この人たちと暮らすの、嫌すぎる。おうちかえりたい……。


「お前たち、聖女様に対し……っ!」


 マライア王女が、怒りの籠った声で叫ぼうとした、その瞬間。


 スッ……ズッパーン!! ガン!


 俯いた私の視界の端で黒い何かが素早く動き、そして拍手系統のような気がしたのでもしや平手打ちの系譜だったのかもしれないがそれにしてはいやに大きな音と、壁に何かがガン! とぶつかった音が聞こえた。

 それからどさりと、成人女性ほどの大きさの何かが床に転がったような音とというかこちらは視界でも確認したので、女性が床に倒れた(断定)である。あ、よく見たらさっきの仲良くできる気がしない侍女の人だ。


 ガツン! ゴスッ! ガンッ!

 どさ、どさ、どさ。


 仲良くできる気がしない侍女の人だ、と私が確認している間に、更に三度。

 嫌な音のセットが響き、そして気が付けば、私を笑った侍女たちは全員床に倒れ伏していた。

 それを成したのは、背の高いクール系美人のメイドさんらしい。倒れた女性たちの前で、パンパン、と埃でも叩き落すかのように手を打ち払っている。


「え、え、ええ……?」


「よくやったわ。聖女様に無礼を働いたモノどもは、部屋の外に出して拘束しておきなさい」


「かしこまりました」


 戸惑っている私の目の前で、満足そうにマライア王女がメイドさんに声をかけ、メイドさんは軽くそれを了承した。

 メイドさんは床に倒れた女性たちの襟首をひっつかむと、ゴミ袋だってそんなに雑にはひきずらないぞという雑さでずりずりと引きずっていこうとする。


「ま、待ってください。あの、その、私はそんなに気にしていないので、お、おてやわらかに? というか……」


 既に全然おてやわらかではない。

 ではないが、私は精一杯訴えてみた。


 メイドさんはパッと手を離してちらりと私の表情を窺うと、ついでマライア王女にアイコンタクトを送る。

 すると、マライア王女はこくりと頷き、他のメイドさんたちを視線と仕草で促した。

 そして今度はメイドさんたちが二人一組になって、倒れた侍女の人たちを運び出していく。

 運び出すのは運び出すんだ……。まあ保健室的なところに連れて行くにしてもこの部屋からは出さなきゃか……。


 倒れた女性たちが運び出され、扉が閉まる。

 幾人か人が減った部屋の中は、空寒いような空気になっていた。


「ご不快な思いをさせて申し訳ございません、聖女様。深くおわび……」

「ああ、いやいや、私が挙動不審過ぎたのがそもそもなのでっ! ……あの、さっきの人たちって、どうなるんです?」


 深々と頭を下げたマライア王女を遮って私は尋ねた。

 すっと顔を上げ、にこりと春の日差しのようにあたたかな笑みを、王女様は浮かべる。


「聖女様に対して無礼を働いたのです。当然処刑……」


 ひゅっ、と私が息を呑むと、マライア王女はくすくすと笑った。


「処刑するのが、本来なのですが。聖女様が『おてやわらかに』ということでございますので、最大限穏便な処罰で済ませましょう」


「……処罰って言ってる時点であんまり穏便じゃない気がしますけど……」


「先ほどのふるまいだけで、この城で働く者としての能力が欠けているとはっきりわかりますもの。少なくとも、解雇はしなくてはなりません。聖女様は心優しく穏やかな方ですが、もし苛烈な性格のそれなりの身分がある方に同じことをしていたら、その場で殺されていたでしょうし。生きているだけ十分穏便ですわ」


「う、ううーん……、そう、なんですね。まあ、私じゃない人にやらかした可能性もあると考えると、しょうがない……? のかな……? いやでも、さっきけっこうな勢いで殴られていましたし、処罰ってもうそれで済んでない? って、私は思います……」


「あらあら。では先ほどのメイドは、侍女らの命の恩人でございますね」


 一応食い下がってはみたものの、王女様は一貫して穏やかな微笑みをキープしていて、私の言葉が響いたのか響いてないのかわかってくれたのかわかってくれていないのか……。


 いやしかし、聖女に無礼を働いた人って、大変なことになるんだな……。

 この国(もしかするとこの世界)、人の命が軽いんだか聖女の立場が重いんだかはわからないけど、聖女になんかあるとすぐに『処す!』ってなる。

 私も大いに反省しなければいけない。


 そもそも、笑われたり馬鹿にされたりしないよう、私はちゃんと堂々と振る舞うべきだった。

 偉い人はちゃんと偉そうにしておいてくれなきゃ、困る事もある。

 そんなつもりはなかったが、今回の事は私が侍女さんたちを罠に嵌めてしまったようなものだ。

 これからはできるだけがんばる、お互いのために。


 ……とりあえずまずは、この無駄に広くて豪華な部屋を、我が物顔で使えるようになった方が良いんだろうな。

 憂鬱な気持ちで見渡した部屋は、やっぱり無駄に広くて豪華だった。



 ――――



「いらっしゃいま……、おや騎士様! ようこそいらっしゃいました! ……お食事、ですか?」

「すまないな。本日はこちらのお嬢さんの事での訪問だ」

「う、うちの娘。……城でメイドをやらせてもらってる、うちの娘、の事ですね。いや、そうですよねぇ! 騎士様がこんな場末の食堂なんぞでお食事なさるわけがないですよね!」

「いやいや、今は勤務時間だからというだけで、休暇時は我々もこの辺りに食事に来ることもあるさ。……といっても、制服も着ておらず帯剣もしていない我々など、見分けがつかないだろうが」

「あははっ、いやですよぅ、そーんな鍛えた体格とビシッとした顔立ちの方がわからないわけないじゃないですかぁ! お休みの日だから気を使って声をかけないだけで、みーんなわかってますって! ……それで、ええと、うちの娘のこと、で」

「ああ、そうだ。お嬢さんが、この度……」

「はい。いつかはやると思っていました。あの子に城勤めなんて、土台無理な話だったんです。あの子はどうにも喧嘩っ早くて……。あ、あの、あの子はいったい、どこのどなたを殴ってしまったのでしょう?」

「え? いやまあ、確かに殴った……は殴ったな。子爵令嬢2名と伯爵令嬢2名を」

「なるほど。あの子の処刑はいつでしょうか? 執行前に面会は可能ですか? ああ、その場で斬り捨てられましたでしょうかね……?」

「いやいや、とんでもない! 話す順番が悪かったな! 今回はおたくのお嬢さんに対する褒賞の引き渡しで来たのだ! というのもお嬢さんが打ち倒した令嬢4名は、聖女様を愚弄したのでな。それをいち早く制圧した功績に対し、王家から褒賞が与えられる」

「せ、聖女様を……!? ひ、ひええ、そ、それはまた、神をも恐れぬというか、なんとまあ……。……いや、それは、殴るでしょうね。殴るに決まってますよ。あれであの子は案外信心深いんですから」

「ああ、実に素早い制圧だったと聞いている。そしてそのおかげで、令嬢らはそれ以上の愚行を重ねずに済んだと。また、聖女様からも、お嬢さんの拳に免じてと減刑の口添えをいただけたそうだ。令嬢らの実家からも、お嬢さんに対して感謝の言葉が届いている」

「それはその……、感謝という名の嫌味とかではなく、文字通りの?」

「文字通りの、掛け値無しの、心からの純然たる感謝だ。後日そちらからもなにかしらの品が届くだろう。お嬢さんは、4名の令嬢の命を救った大恩人であるのだから」

「あの子の喧嘩っ早さが役に立つこともあったんでございますねぇ。……あたしはてっきりあの子がなにかやらかしたもんだと思ったんですが……」

「ははははっ。まさかまさか。お嬢さんは戦闘技能も高い。聖女様からも『かっこいい』『自分のために怒ってくれたのは嬉しい』『瞬発力が高い』との評価をいただいているそうだ。このまま聖女様付きとなるだろう」

「まあまあ、なんて光栄な! 今度あの子が帰ってきたときには、盛大に祝ってやりたいと思います!」

「ええ、ぜひに」

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