第一話 異世界人覚悟ガンギマリ過ぎてこわい
「聖女召喚は重罪だ。お前をこちらの世界へ攫ってきた憎き敵である俺は、死刑が確定している。お前に聖女なんていう重すぎる運命を背負わせた俺は、必ず遠からず死ぬ。好きなだけ憎め。心行くまで罵れ。できる限りの苦痛を与えたいと望むならそれも受け入れよう。俺が死んだ暁には、ざまあみろと笑うといい。その程度は覚悟して、俺はお前を呼び出した」
そう言って彼は、凄絶に嫣然と笑った。
その笑顔と声音のあまりの晴れやかさと美しさと、だからこそ際立つあまりに物騒な発言。
混乱と困惑で固まる私に、彼は更に一歩、ずいと迫って、どこか恍惚と告げる。
「――ようこそ、聖女サマ。この世界の全てはお前を歓迎し、祝福し、敬愛し、感謝を捧げるだろう。俺の命と引き換えに、どうかこの世界を救ってくれ」
異世界人覚悟ガンギマリ過ぎてこわい。
思い浮かんだのは、召喚されたことへの恨みなんてものではなく、聖女と見出されたことへの歓喜でもなく、これだけだった。
後に師匠と仰ぐことになる偉大な魔法使い、それはもう聖女召喚なんていうとんでもない魔法をたった1人で成し遂げた程偉大な魔法使いバージル・ザヴィアーとのファーストインプレッション。
私はただただ、彼のあまりの覚悟キマリっぷりへの恐怖で、カタカタと震えることしかできなかった。