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八室目 天沢五郎様 コウの分析結果と接触

 本日は少し雲の厚い晴れ間のない朝でございました。

 日課の掃除をしていますと、


「父さん!」


「コウ、おはよう! あれ? 今朝は早いですね」


「あー、バグらせた事で睡眠の方に影響があったみたいでさ。明け方の三時には目がバッチリ冴えてしまって! これから朝のランニングに行こうかと」


「おや! それは良い方の影響でよかったですね。朝の清々しさが脳にも良い影響が与えられそうですし、ランニングも気持ち良いですからね」


「学校あるから、少しだけだけどね……。あ、あとさ、記憶分析した内容を箇条書きにして、机に置いておいたからね!」


「えっ!? もう?」


「朝、かなり早く起きたからさー、やる事なくて……。勉強しても、今は入っていかなさそうだし」


「確かに……。脳を疲れさせるのは良くないかもしれませんね」

「でしょ? だから、そっちを早く書き出して、脳を正常化させたくてさ」


「なるほど……。早速ありがとう、コウ。掃除が終わったら、すぐに読ませて貰いますね」


「うん!」


 そう言ってコウと別れ、私は素早く朝の掃除をこなしていくのでありました。掃除も終わり、自宅へ戻ると、桜々さんが先に読み始めていたのでした。私が帰って来た事を確認すると、


「やっぱり……隠れheel(ヒール)がいそうだわ……」


「そう……でしたか……」


「假谷さんはいたって真面目で誠実な優しい人よ。幼い頃から顔の事を怖がられて、誤解される事も多かったみたい。大人になってからも同じで、仲良い会社の同僚の梶山さんって人がいつも親身になってくれているみたいね。今は部長補佐的な位置にいて、假谷さんを支えてくれている事が救いになっているようよ?」


「左様ですか……」


「奥様にもまぁ……昔から虐げられているようだけど、本人は何の魅力もない強面の顔をした自分みたいなのと結婚してくれたのだからって、一生懸命に尽くしているみたいよ……。おかゆ君を助けて飼う時もかなり反対をされて、高い治療費も毎月二万の少ないお小遣いの中で、貯めていたものから出していたらしいわ。でも、おかゆ君が疲れた自分を癒してくれるって、家ではおかゆ君の存在が救われているみたいね……」


「……そうでしたか」


「その先はトッキーが読んでみてね、私まだ途中だけど、朝食の支度も途中までだったから、これから用意してしまうわ」

「分かりました、ありがとうございます……」


 桜々さんから手渡された記憶分析書を受け取り、すぐに目を通したのでございました。分析してくれたものを読む限り……假谷さんという人は本当に慎ましく生きて来たのだなと、思うような内容でございました。人に嫌がらせや優秀な同僚を蹴落としたり、パワハラなども無縁で、会社に広がっている自身に関する噂も分かっていないようでございました。それに奥様との結婚も婚約者から奪っていったのではなく、奥様が何故か強面の假谷さんに一目惚れゾッコンとなってしまい、奥様の方から当時婚約していた相手方に破棄を申し入れたらしいのです。それも、その相手は……同僚の梶山でした。ですが、梶山は気にするなと優しく声を掛けてくれ、奥様と自分の結婚を快く祝福してくれたのだと、そう思っているようでございました。……何かが結び付いたような気が致しました。とても悲しい結末に向かいそうな気がして、心が痛くなるのでございました。


 読み終わり、物思いに(ふけ)っていると、


「父さん……大丈夫?」


「ん、お? コウ! ランニングから帰って来たんだね。お疲れ様! 汗を流して、シャワーも浴びて、リセットは出来たような顔ですね」


「あ、うん、まぁ……。……あのさ、父さん。……分析している時の事で、まだ言ってなかった事があるんだ」


「うん? そうなのですか??」


「前に分析した時はさ、とても禍々しくて嫌な雰囲気のものが映像と一緒に頭の中に入り込んできて、すごく……暗く怖い感じだったんだけど、今回は暖かな日向ぼっこをしているような……そんな優しい感じだったんだ……。これってさ……」


「その方の持つマインドオーラでしょうね」


「やっぱり、そう思う? だからさ……」


「そうですね……。假谷さんは天沢様が陥れられた元凶ではありません」


「だよね……。この人、強面でちょっと猫に対して可笑しい人だけど、……人に何かをして傷付けるような人ではないと思うんだ。幼い頃に自分が言われたり、揶揄われたりして……深く傷付いてたみたいだからさ……」


「そのようですね……。真の姿というものは、目には見えないものですからね。コウが分析を引き受けてくれたお陰で明確になって、確実に真実へと辿り着けそうな気がします。ありがとうね」


「どう致しまして! あとは任せるね。……あ、それから父さん! 何かあれば、また言ってよ? 無理を押し付けて……なんて、俺は思ってないからさ」


「コウ……。……そう言って貰えて……心が軽くなりました。ありがとう……」


「うん! じゃあ、朝ご飯、食べよう? みんな、待ってるよ!」


 そう言われて、食卓の方を見ますと、


「おや! ユキも起きて来ていましたか」


「父さん、おはよー! 何か考え事してたの?」


「うん、少しね……。お待たせしてごめんね! さぁ、みんなで桜々さんの美味しい朝ご飯を頂きましょう」


 そうして、いつものように朝食を済ませて、私はすぐさま夏丸に用を頼み、夏丸はすぐに行動に移してくれたのでした。その後、私も假谷さんとの接触を試みる事にしたのでした。幸いにも本日の夜、会社帰りに少しだけなら会えるとの事で、猫同士の対面は後日に回し、とりあえず早々に接触を図ったのでございました。


 最初に待ち合わせに指定してきた場所は……ンフッ、〝いニャし〟というカフェでございました。ものすっごく分かりやすいのですが、……要は猫カフェでございますよね……。どれだけ好きなのでしょうか……フフッ、和みますね。ですが、違う猫のにおいをつけて帰宅するのはおかゆ君にとって大丈夫でしょうか? と、さり気なく指摘をしたところ、すぐさま假谷さん家近くのファミレスへと変更になったのでございました。おかゆ君ラブのようでございます。宜しゅうございました。


 夕方になり、私はお礼の品を持って、待ち合わせ場所のファミレスに訪れますと、


「あっ、押上さーん! こっちです、こっち、こっち!!」


 先に来て、待ってくれていたのでございました。待ち合わせより十分は早く着いたはずですが……。


「申し訳ありません! お礼を伝える為に来ましたのに、私の方が遅くなりまして……」


「いやッ、違うんですよ! 私は仕事の癖で、待ち合わせには十五分前に必ず着くようにしているので、押上さんは遅れてなんかいませんよ。すみません、私が早く着いていただけなんです」


「左様でしたか。では、改めて……この度は夏丸が大変お世話になりまして、ありがとうございました。気持ちばかりですが、ご笑納下さると嬉しいです」


 持っていましたお礼の品を差し出しますと、


「そんな気を遣って貰わなくても……本当に良かったですのに……。……ですが、これも何かのご縁かと思いますので、ありがたく頂戴いたします……。ありがとうございます」


 丁寧に言葉を選びながら、立ち上がり、頭を下げて受け取って頂けたのでございました。渡し終えて、椅子に座りながら私は、やはりこの方は噂のような人ではない……そう思ったのでございました。すると意を決したように假谷さんが、


「それでですね! あのッ……」


「はい、何でございましょうか?」


「名前ッ、お宅の猫の名前は夏丸くんと言うのですか?」


「はい、左様です。夏という漢字に丸と字を書きまして、〝カマル〟と言いまして、三歳くらいになります」


「三歳……くらい?」


「夏丸は拾い猫でして。劣悪な環境で飼育されていて、見つけた時は酷い状態で……瀕死だったところを助け出したのでございます」


「ええッッ!? そう……だったん……ですか」


「……そんなに驚かれましたか??」


「いや、だって、俺ベンガルっていう猫種(びょうしゅ)かと思ってて……。毛並みも綺麗だし、血統書付きの立派な猫ちゃんだと思っていたもので……」


「助け出した猫ですので、私も詳細は分かりかねますが、ミックスと思われます……。でも血統ではなくとも、今は我が家の立派な一員ですから。性格も自由気まま気質のようでして、この前の様な脱走もたまにするのですよ。困った子ですが、可愛い我が子ですね……。おかゆ君は?」


「おかゆも拾い猫で……多分ミックスです。子猫の時は、野良ちゃんだったんです。近所ではよく見掛けていて、小さな可愛い白猫がいるなぁと思ってて。野良生活をしていたから、最初は近づく事さえ出来なかったんですけどね」


「野良さんは警戒が強いですからね」


「そうなんです! そうして数日が過ぎた頃、この前の公園入り口付近で毒餌を食べたらしく、丸まっていたんです……。最初はわからなかったんですが、その子だと気付いた時には慌てました……。病院も夜間しかないし、どこにあるのかも知らなかったし、とにかく探しまくって! それで、ようやく見つけて受診させる事が出来たんです……」


「そんな事が……」


「幸いにも量を食べていなかったんで、何とか持ち堪えてくれて! 妻にはかなり反対をされたんですけど……自分が責任を持って面倒見るからと必死に懇願して、許して貰えたんです」


「毒餌を食べたというなら、食事が……」


「はい……カリカリ類のキャットフードや缶詰も食べてくれなくて……」


「なるほど……それらを混ぜた物に毒が入っていたんですね。可哀想に……」


「そうなんです! 誰がそんな事したのかと、すごく憤りましたし、何よりも悲しくなりました。その毒餌のせいで、おかゆはなかなか食べようとしなくて……。何を与えたら食べてくれるのかも分からなくなって、二日ほど絶食だったので、その間はすごく気を揉みました。ですが、ある時、私が白米を食べているとその茶碗を目掛けて、走ってきて! ガッツいて食べ出したんです。あ、お行儀は悪いですが……」


「いいえ! お腹をかなり空かせていたんです。仕方ない事でございます」


「で、ですよね! 妻にはかなり怒られたのですが、おかゆが食べてくれる物が分かったような気がして、そこから白米を食べさせてもいいのかとか、必要な栄養素とかを獣医さんに相談して聞いたりして、手作りのご飯を今もあげているんです。最初はおかゆにして……あ、名前もそこからなんです! 美味しそうに食べてくれてですね……」


「ハイ……夏丸も美味しいと……」


「えっ、夏丸くん!? 俺の作ったご飯をいつ……。ん? でも美味しいって??」


「あ、いえ! この前帰って来た時、毛艶が良くなっていて、ふっくらした様でしたので、おかゆ君に分けて貰って、美味しく食べていたのだろうと、私が勝手に想像して言ったまでてして……」


 あっぶなァアア!! 焦りましたッッ! 良い人過ぎて、ポロッと……気を引き締めなければいけませんね。


「あ、なるほどですね! いや、なんか、嬉しいです。ありがとうございます」


「こちらこそ本当にありがとうございました……。……それで、まだ少しお時間はよろしいですか? お話をしたい事がございまして……」


「あ、はい! 猫飼友だちが出来て、俺も嬉し……」


「天沢五郎様のお話をさせて頂きたいのです」


 私が名前をいきなり出した事に、假谷さんは驚いて固まってしまったのでございました。

読んで頂き、ありがとうございます!

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