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三十室目 それぞれの道へ

 本日は晴天なり。ヴァルハラでの騒動後、二週間をかけて全員で後片付けを行ったのでした。八鳳が念力を使い、大きい瓦礫などの撤去をし、私たちは壊れていなかった施設などの点検やヒビの入った壁や柱の修復を手伝うのでした。セキュリティー上、琴杜音さんと田嶋さんは参加のお断りをしました。何故なら、お二人はその後話し合いを兼ね、正式にご夫婦となられる予定だからでございます。ですので、参加出来ないお二人にはヴァルハラのイベント参加者の方々へ新商品のお披露目が台無しとなった経緯の説明と謝罪、そして犠牲となった能力者の方々へのお詫び行脚に出てもらったのでした。新商品お披露目イベントはGKが持ち込んでいた機材の爆発であったとの事で騒動を納め、賠償はもちろんGK持ちとなりました。


 そうして二週間が経ち、ある程度の修復を終わらせ、先の見通しが立った本日、ヴァルハラより七鳳と八鳳が禊の森へと出発したのでした。麦乃介が配慮してくれ、禊の森へと立つまで二人の寝食の面倒を見てくれていたのでした。禊の森へも行かなくていいのではないかと私も引き止めていたのですが、もう一度、自分たちを見つめ直して、今まで働いた悪事を洗い流してきたいと言われ、納得せざるを得ませんでした。そして七鳳は何故かあの後から空生と意気投合をし、お腹の子を愛おしそうに撫でながら名残惜しそうにしておりましたが、八鳳に引き摺られながら出発したのでした。すると幸雅は、

 

「父さん……いいの? 行かせて……」

 

「良いんですよ……。ゆっくりお互いに考え直す時間も必要ですし、会えなくなる訳ではない。あの様子ですと、きっと元気に戻ってきますよ……」

 

「そっか……」

 

「それより幸雅! お前はいつから舞乃空ちゃんを……」

 

「コウが入学式で一目惚れしたんですってぇーん! やぁーん、ア・オ・ハ・ルゥー」

 

「なんでムギが……」

 

「あたくしがLEIN(レイン)や電話で相談に乗ってあげていたのよ!? 知らなかったの、トッキー!?」

 

「はぁ!? ムギに?」

 

「そうよぉー! あたくしの恋愛必勝法ッ、ぅ男ならガツンと行かんかぁッッ!! ってねん」

 

「お前の……その、時々イケボで吠えるのはやめてくれ……。無駄に良い声だから余計ビックリする……」

 

「やぁーん、ごめんちょ! でもその通り、うまくいったでしょう? ね、コウ?」

 

「でしたね! はぁー……マノが〝うん〟と返事してくれて本当に良かったぁー」

 

「えッ……確信無くいったんですかッ!?」

 

「少しだけあったけど……こればっかりは言わないと分かんないし……」

 

「ンフフッ……本当に父子だわねッ! まるで昔のトッキーと桜々を見てるようだわぁーん」

 

「えっ!? 父さんと母さん?」

 

「あの二人もねぇー……」

 

「おい、ムギ! それ以上、言うんじゃねぇぞッ!! ったく、余計な事をベラベラ喋るんじゃありませんッッ」

 

「えー……ざんねぇーん! コウ、また今度、コッソリ教えてあげるわねん」

 

「うぉい! 子どもたちに余計な事は言うな、ムギ!!」

 

「馬鹿ねぇー。そういう話も誰かが聞かせてあげないとー」

 

「……お前、話してみろ? 作ったベビー服、全部燃やしてやるからなぁッッ」

 

「ひっどー!! もうッ仕方ないわねッ! コウ、コッソリLEIN(レイン)するわね。あたくしは戻るわー、まったねーん!」

 

「あ、ハイッ!」

 

「ゴルァ、ムギィーッ!! ……あーもう、足早に逃げやがった。あのヤロウッ……」

 

「心配しなくても大丈夫だよ、父さん! 何となく分かるしね……だって父子だもん」

 

「プッ……そうだな……。……コウ。自身の伴侶を見つける事が出来たのならば、大事に……大切にしなさいね」

 

「はい。……それも分かってます。ずっと二人を見てきてるから……」

 

「そうか……」

 

 嬉しい事を言ってくれる幸雅でありました。

 

 それからヴァルハラを後にする前にと、私はやらなければならない事がございました。私と一対一の対面とならぬように、必死にコソコソと逃げ回っていた倭久を第三施設内の袋小路に追い込み、引っ捕まえ、

 

「やっと捕まえましたッ!」

 

「あーッッ!! ……いやっ、あの、に、逃げては……」

 

「嘘をつけ……」

 

「……はい、すみません」

 

「何故、逃げる?」

 

「約束を……破ったからです……」

 

「ほぅ……それは分かっているんだな?」

 

「……すみません」

 

「どうせ、空生から泣かれたんだろう?」

 

「えっ! なんで……」

 

「あの子の考えている事くらい分かるよ……」

 

「本当に申し訳ありませんでしたッッ!! 最初は……最初は約束を守っていたんです。でも、空生に泣かれて、触る事も慰める事も出来ず……」

 

「お前な……」

 

「すみません。俺が半能力者という引け目を感じさせないものを見せられた時に認めて貰えると分かっています。でもッ……」

 

「私がどう感じようと妻が悲しんでいるのなら、手を差し伸べ、慰めるのは当たり前だろう?」

 

「えっ……」

 

「お前は家庭を持った男で、ましてや父となるんだ。堂々と過ごしていればいいんですよ。まぁ普段は戯れ合いみたいなもんだしな。それは分かっていたんだろう? それなのに何故、そんな事を考えていた?」

 

「俺が半能力者だから返事をして貰えないと思ってて……。俺、時士さんをお父さんと呼んで返事をして貰いたくて……」

 

「……何故、私が素直に返事を返さないか、それは分からないか?」

 

「俺が……半能力者の引け目を持っているから……」

 

「……ふむ。半分……正解かな……」

 

「半分?」

 

「誤解のないよう言うが、能力者であろうと、半能力者であろうと、一般の方であろうと……私には関係ありませんよ。空生を大事に思い、そして空生も大事に思う相手ならば関係ない。お前たちはちゃんと想い合っています。それは理解していますよ?」

 

「じゃあ、……何が……」

 

「……押上家の一員としての自覚です」

 

「え……」

 

「倭久はいつも家族から一歩下がり、ついてきていました。何故、下がる?」

 

「それは……」

 

「半能力者だからか? 婿養子だからか?」

 

「……」

 

「両方あるのだろう? 遠慮の気持ちが見えるんですよ」

 

「……はい」

 

「結婚して五年……なのに、仕置きとなると事前に話をしているにも関わらず、倭久はいまだに下がって自分から動かない……もしくは動けないのか。……私はそう感じるのですよ。あ、でも机は半分に割った事があったなぁ」

 

「ウッ……、はい。あの時もそうですが……、邪魔を……してはいけないかと……」

 

「邪魔とは事がうまく進まないようにする事であって、共に手を差し伸べようとしている事の何が邪魔となるのですか?」

 

「いや、俺は、考えとかいろいろが足りないですから……」

 

「足りないところは空生も同じ事……。それを私や桜々さんがフォローするのですから、みんなで手を出し合って、そのお困りの方が幸せへと進められれば、結果は良いのではないのですか?」

 

「……」

 

「……仕置きに自身の完璧を求めてはなりません。何故なら立場を考え過ぎて動けなくなるからです……。動けないというのは何も考えていない、していないのと同じ事なのです。自分の考える最善を行うのみ、ただそれだけです」

 

「……はい」

 

「倭久……お前はもう押上家の立派な一員です。動かないという事は……まぁ考えてもないだろうけど、私たち家族を信用していないとも取れる……」

 

「そ、そんな事は絶対にありませんッッ!!」

 

「ならば、自信を持って、考え、動きなさい。それが私が素直に返事をしない……お前の半分、出来ていない事です。理解は出来ますか?」

 

「……はい。……思い、当たる事です」

 

「お父さんと言われ……私に返事をさせて下さい、倭久……」

 

「時士さん……」

 

「期待していますよ、これからも。……ただー……」

 

 ゴォんッ!!

 

「約束を破るのにも限度がございますッッ! お前は破り過ぎだッ!!」

 

「ぃタァいいー。……す……すみませ……」

 

「しかも七鳳の攻撃から守り抜くと、桜々さんとの約束も破りやがってッ! お前は私がこれからみっちりトレーニングしてやるから覚悟なさいッッ!!」

 

「いや、そんなぁ……」

 

「とりあえずッ! ムギと皇さんにお願いして、〝悟りの間〟をお借りしたから、まずはそこからだッッ!!」

 

「ゲッ!! あ、あそこはぁー……。俺には悟らないといけない事は何も……」

 

「煩悩だらけの頭の中を洗い流して出直してこいッ! 行くぞッッ」

 

「いーやーだァアアー! 噂には聞いていますッッ!! あそこだけは、あそこだけは勘弁して下さいッ!」

 

「うるせぇッ! つべこべ言わずに来いッッ」

 

 そうして私は倭久の首根っこを捕まえて〝悟りの間〟へと突っ込んでやり、三時間後にヘロヘロの状態の倭久が出てきたのでございました。まだ元気そうなので、もう少し突っ込んでやれば良かったですかね……。

 

 フフッ……それにしても幾つになっても……可愛い子です。倭久も口ではそう言いながらも、手抜きを一切せず、一生懸命しっかり学ぼう、獲得しようとする姿勢があるものですから、空生を奪った憎き小僧ではある反面、私は楽しみが良いのです。そこは認めているのですけど、普段の戯れ合いから察知するのは……まだ難しかったですかね。ですが、将来はきっと胸を張って、押上家の一員としてやっていってくれる事でしょう……。そして、頼もしい父ともなってくれるはずです。……返事を返すのはもう少し先かもしれませんがね……。頑張れ、倭久。


 それから一ヶ月が経ち、お詫び行脚を終えられた琴杜音さんと田嶋さんは、天赦日と一粒万倍日の重なった良き日を選び、籍を入れられ、ささやかな食事会を開いたのでございました。舞乃空ちゃんはまだ少しわだかりもあるようでしたが、母の幸せそうな顔を見れて、何よりもそれを喜んでいるようでございました。私たち家族とヴァルハラ代表として麦乃介と皇さんも招待を受け、参席したのでした。


 ヴァルハラとGKの関係にも大きな変化がございまして、表向きは独立した組織として今まで通りとなっていますが、水面下ではヴァルハラの傘下組織として協定を結んだのでございました。皇さんがGK幹部たちの教育改革を引き受けられ現在、犠牲に……いえ、教育改革されトランスフォームした者たちで溢れ、良いスタートを切っていらっしゃるとの事でした。

 気のせいか、皇さんは非常にイキイキとした顔に変わられておりました。……皇さん親衛隊なるものまで出来たそうで……要は変態の集まりですよね……。

 麦乃介曰く、

 

「男の究極の浪漫よッ!!」


 と訳の分からない事を言っていて、私は理解出来ず、頷くに頷けませんでしたがね。ヴァルハラも賑やかとなり、楽しそうに過ごしているようで何よりでございました。


 それから七鳳も八鳳も元気に過ごしていると、毎日私に画像付きのLEIN(レイン)をくれています。顔付きも変わり、禊の森での修行は大変そうではありますが、笑顔の二人の画像を見ていると、母の面影を持つその幸せそうな顔に心が満たされていくのを感じるのでございました。禊の森へは最低でも八ヶ月程は入らなければなりませんから、終わる頃にまた押上家への招待を連絡しましょうよと桜々さんがご提案下さっており、私はありがたく思うのでございました。

 

 押上家もこれからまた更に賑やかな家へと変化していくのでございましょう。もうすぐルナさんも帰って来ますから、夏丸もソワソワしております。賑やかになるであろうこれからの押上家を想像すると、今から楽しみで仕方がなく、嬉しく思うこの頃なのであります。

 

 では、皆様。ここまで押上家の諸々にお付き合い下さり、感謝申し上げます。またお会いできる日まで皆様の幸せを心から願い、ご活躍をお祈り申し上げます。

 〝人生を最高に旅せよ〟私の好きな言葉を最後に、お別れの御挨拶とさせて頂きます。どうぞ、お元気で笑顔の日々をお過ごし下さいませ。

―― 終 ――

これにてハーミットホーム 〜ようこそ、YADOCALIへ〜は完結とさせて頂きます。最後までお読み頂き、ありがとうございました○┓))ペコリ

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