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二十九室目 ミクストレイスの能力

 皇さんの報告と琴杜音さんの言葉により、田嶋への疑いは晴れ、縄を解いたのでございました。これからGKは組織としてどうあるべきか、処分をどのようにするかなどの話し合いを後日ヴァルハラにて行うこととなり、今日は解散し別れようとしていたところ、舞乃空ちゃんが目を覚ましたのでした。

 

 荒地のような状況に驚いた舞乃空ちゃんでしたが、琴杜音さんから事の詳細や押上家と自分の能力の事、それに実の父との対面を果たしたのですが……、ここでも一悶着が起こったのでございました。

 

 琴杜音さんを思っての事なのでしょう、舞乃空ちゃんは相当なお怒りとなり、

 

「ま、舞乃空……舞乃空ッッ!! 違うのよ、話を聞いて! だからッ……」

 

「分かったって言ってるじゃないッ! その人はお母さんの話も聞かずに、私たちを捨てた事には変わりないじゃないッッ!! それをなんで今更、私が許さないといけないのよッ! 今までも関係ない人として過ごして来たんだからッ、これからも関係ない人よッッ!」

 

 すると落ち込む田嶋が、

「舞乃空……」

 

「気安く名前を呼ばないでッッ!! あんたの娘なんかじゃないッ! ……父親がいないって事がどれほど大変だったか、あんたに分かるッッ!? 幼い頃からいつも標的にされたイジメのサンドバッグよッッ!!」

 

「そんなッ……」

 

「父と母が揃わない仲間外れの私はいつもそうだったッ! 友だちも腫れ物扱いよッッ。近づく人なんていないのッ!! あんたにッ、あんたにその辛さが分かるッッ!?」

 

「……」

 

「それでも必死に耐えてやってきた……。それを押上くんだけが……ッッ。腫れ物扱いの私に普通にちゃんと接してくれて、庇ってくれたり、笑わせてくれたりして……。押上くんが救ってくれていたのッッ! あんたが何をしてくれたッッ!? 何もしてないじゃないッッ!!」

 

 すかさず琴杜音さんが、

「仕方ないじゃない! 知らなかったんだもの……。私も舞乃空がそんな扱いを受けていたなんて……ごめんなさい、知らなかったわ……」

 

「……お母さんは私を育てる為に必死に働いてくれていた。だから、心配はかけたくなかったッ!! ……なんで今更ッ……私がッ……なんで……なんでッッ……嗚呼ァアアアーッッ!!」

 

 言葉にならない叫び声を舞乃空ちゃんが上げると同時に、

 

 ゴッゴッゴゴゴゴォオオオーッッ!!

 

 地鳴りが響き出し、大地が揺れ始めたのでした。慌てた私たちは夏丸へと飛び乗り、麦乃介と皇さんは近くの安全な場所へと移動し、七鳳と八鳳は瓦礫の塊を作り、それに念力を移行させ浮かせて移動したのでした。その場には舞乃空ちゃん、琴杜音さん、田嶋が残され、三人の周りには巨大なクレーターが出来ていたのでした。

 

 大地の揺れは激しさを増し、下から突き上げるような土壁が幾つも上下しながら出てくるのでした。あまりにも不自然な出来事に私と桜々さんは、

 

「これはッ……」

 

「トッキー、もしかしてこれってッ……」

 

「ええ、間違いありません……ミクストレイスのアンコントローラブルでしょう……」

 

「アンコントローラブル……」

 

「文献にミクストレイスには突如として能力が発現する事が稀にあると書かれていました。ですが、発現したとしても威力が強すぎてしまうなど……自身の扱いがとても難しいと。それによってアンコントローラブルを引き起こし、最悪の場合はッ……」


「そんなッ……」


「計り知れない何かを持つ可能性があるのがミクストレイスの特徴です。……怒りによって、能力が発現してしまい、破壊のアンコントローラブルを引き起こしたのでしょう……」

 

「それってまずくね?」

 

 幸雅が聞いてきたのでした。私は、

 

「非常にまずいです……。止める方法は書かれていませんでしたし、本人が落ち着くのを待つしか方法はないようですが、……今すぐには無理でしょう。大地が壊れていく範囲が広がっていってますから、始まったばかりのようですし……」

 

「始まったばかりという事は、まだ止められる可能性もあるって事だな!」

 

「え? あっ……幸雅ッッ! 待てッ!!」

 

 私の静止を聞かず、幸雅は夏丸の背中から舞乃空ちゃんたちがいる場所へと飛び降りたのでした。そして、

 

「マノォー! おーい、マノッ!! 落ち着けって!」

 

「……押……上……くん……」

 

 幸雅の呼び掛けにより、少し威力が収まるような動きを見せたのでございました。

 

「怒るよなぁ、そりゃ! マノのお母さんの話も聞かずに一方的にさ! 酷い事するよなぁ……」

 

「コウッ! 煽るような事はッッ……」

 

 大地の轟音が鳴り響き、私の声は届く事はありませんでした。聞こえなかった幸雅は続けて、

 

「だけどさ、マノッ! これまでの事に怒っても、過去を変える事は出来ないんだよ。どうしようも出来ない事に固執して、怒る時間の方が無駄じゃないか? 俺は建設的ではないと思うんだ」


「で……も……」


「だからさ、未来をもっと楽しいものに変えようと、考え方のシフトをしてみないか? 俺も一緒に考えるからさッ!」

 

「……未……来……」

 

「そう未来だ! だからマノッ、俺と付き合って下さいッッ!!」

 

「ヘッ!?」

「はッ!?」

「えっ!?」

「ん?」

「……ばか」

「おぉー……言ったぁー……」

 

 幸雅のすっとボケた公開告白に、私、桜々さん、幸慈、夏丸、空生、倭久が一斉に変な声を上げたのでした。麦乃介と皇さんからは大きく激しい拍手が沸き起こり、そして七鳳と八鳳からは歓声が上がったのでございました。琴杜音さんと田嶋は呆然でございます。

 

 すると大地の轟音はピタリと止まり、真っ赤になった舞乃空ちゃんが、

 

「なッ、なッ、何をッッ……」

 

「え? 何って、一世一代の大告白なんですが……しかも初ッ!!」

 

「は、初!? いや、えっ……だって……」

 

「返事は?」

 

「お、押上くんの事は……安西さんが……」

 

「あーあの陽キャ軍団のボスかッ! マジで勘弁だわぁ。萎えるような事を言うなよぉー……」

 

「や、ごめん。いや、でも、……なんで……私なんか……」

 

「私なんかって言うなって前にも言ったろ? 舞乃空が笑ってくれると俺の心が落ち着くんだ……。あの笑顔は俺だけのものにしたい。それだけの理由じゃダメか?」

 

「だ、ダメじゃ……ないけど……」

 

 すると怒りに満ちた空生が、

 

「幸雅ァアアッ! あんった、馬鹿なのッ!? もう一回、ちゃんと舞乃空ちゃんの目を見て、真剣に伝えなさいッ!! 唐突過ぎんのよ、あんたは!! そんなんじゃ信じて貰える訳がないじゃないッッ」

 

「えぇー、そうなの!? ……ソラ姉がそう言うなら……ンンッ。……舞乃空さん、俺と結婚を前提にお付き合いをして下さいッッ!!」

 

「はぁああ!?」

「えぇーッ!!」

「結婚ッ!?」

「ほう……」

「……はぁー」

「すげぇ……」

 

 更に衝撃の言葉を追加した幸雅の告白に、私たちはまた一斉に変な声が出たのでした。さらに真っ赤となった限界の舞乃空ちゃんは、

 

「けッ、結婚ッー!?」

 

 再び、大地の轟音が鳴り始め、変な動きをし始めた土壁の大きな破片が、驚いて固まった舞乃空ちゃんへと当たりそうになり、私は、

 

「あ、危なッッ……!!」

 

 すかさず幸雅は舞乃空ちゃんを抱き締め、自身で庇い、間一髪で琴杜音さんがシールドを張ったのでございました。ガラガラとシールドを転がり落ちる中、幸雅は腕の中にいる舞乃空ちゃんを見つめ直し、

 

「俺の一生を賭けて守りたい人は舞乃空、お前だけだッッ! だからッ、〝うん〟と言ってくれッッ!!」

 

「押上くん……」

 

 強烈な告白に舞乃空ちゃんは呆然となりながらも、静かに涙を流し、

 

「うん、……うんッッ!! 私……私こそッ、よろしく、お願いしますッ……」

 

 そう言って、幸雅の胸へとまた飛び込んで行ったのでした。周りからはヤンヤ、ヤンヤとお祭り騒ぎのような歓声と拍手が鳴り響いたのでございました。我が子ながら、大胆過ぎて驚かされました。慎重派の奥手かと思っていましたが、……父子は似るものですね。隣にいる桜々さんも嬉しそうにクスクスと笑っているのでございました。この笑う顔も……困ったものですね、可愛らしくて撃沈です。


 状況が落ち着いて、周りは冷やかしや出会いの馴れ初めなどを聞いていましたが、青い顔をした田嶋が、

 

「こ……こっちゃん……」

 

「どうしたの? 寿一、青い顔をして……」

 

「ま、舞乃、舞乃空ちゃんは……能力者、なのか?」

 

「……そうみたいね。大地を操る能力者……といったところかしら」

 

「だったら、父親は……俺じゃ……ない?」

 

「はぁーッッ!? 寿一、貴方ねぇッ!! 父親じゃない人に、なんであの子を紹介するのよッ!」

 

 すかさず私は、

「ミクストレイス……所謂、一般の方と能力者を親に持つ子の能力の発現はかなり低いです。ですが、稀に発現することがあるんですよ。……田嶋さん、すぐに謝って下さいね、琴杜音さんに」

 

「えっ、そうなんですかッ!? こっちゃんッッ、ごめんッ! 俺、ごめんなさいッ……」

 

 それを聞いていた舞乃空ちゃんが、

「ふーん……私の父親にはなりたくないって事ね。良かったわ! お母さんを疑うような人はお断りだしッッ」

 

「ち、違うんだ……。だって俺は能力のない人間で……」

 

「お母さんがあんたの子どもだって言ってるんだから、それを信じなさいよッッ!! 何なの、まだお母さんをッ……」

 

 再び怒りを持ち出した舞乃空ちゃんに幸雅は、

 

「マノ、興奮するな、やめとけ? また地鳴りが始まるぞ? それにな、ミクストレイスの事は能力者文献の古い記述しかなくて、しかも少ししか書かれていないから、殆どの人は知らないんだよ。それにその文献は能力者協会員しか閲覧出来ないし、田嶋さんが疑うのも仕方ないよ」

 

「だからってまたお母さんの事をッ! ……あんたなんかッ」

 

「舞乃空ッ! それ以上、酷い事は言わないであげてッ」

 

「お母さん……」

 

「寿一……お父さんもね、とても……大変な人だったの。舞乃空のお祖父様にあたる方はとにかく厳しくて、その厳しさを何十年と耐え抜いてきたの。本当のお父さんは心優しい責任感のある素敵な人なの、それはお母さんが分かってる。だから、お父さんにはこれから幸せになって欲しいのよ。お願いよ……もう責めないであげて……」

 

「……だったらッッ! その人をそんなに庇うんならッ、お母さんがまた戻ればいいじゃないッ!!」

 

「えぇっ!?」

 

「私は絶対に嫌でお断りだし、こんな情けない人で能力もないらしいし、お母さんが戻って助けてあげれば? 私は遠慮するから、元のアパートの支払いだけしてくれたら、あとは自分で過ごしていくから! 今までとそんなに変わらないもん」

 

「な、何を言って……。それに貴女はまだ高校生よッ! 離れて暮らすなんてッッ……」

 

「じゃあ、うちに来たら?」

 

「桜々!?」

 

「自宅の部屋も余ってるし、コウの魔の手は阻止するから、安心して預けてくれていいわよ?」

 

「母さぁーんッッ!! それ、俺に失礼でしょう? 倭久兄と一緒にしないでよーッッ」

 

「えっ!? 俺ッ!? コウッ!! 話を蒸し返すのはやめてくれ! 時士さんがッッ……」

 

「大丈夫だ、倭久! ……帰ってから、ゆぅーっくりとなァアアーッッ!!」

 

「ほらぁー……これだもーん……」

 

「フフッ、帰ってからも騒がしくなりそうだわ。で? どうする? うちも妊婦がいるし、忙しくなりそうだから、舞乃空ちゃんが居てくれたら助かるんだけど……」

 

「押上くんのお母さん! ご迷惑でなければ、部屋をお借りしたいですッッ!! お願いしますッ」

 

「全然、ご迷惑じゃないわよー! だってよ? 琴杜音、どうする?」

 

「お母さん、お願いッッ! 一人でいるより良いでしょう? 絶対にご迷惑にならないように、お手伝いもするからッ」

 

「……ふぅ、分かったわ。桜々、時士さん、不束な娘ですが、どうかよろしく……お願いします……」

 

 すかさず私も、

「はい! 大切な娘さん、お預かり致します。……田嶋さんもよろしいでしょうか?」

 

「あっ……あっ……よろしくッ……どうか、よろしくお願いしますッッ!!」

 

 その場に勢いよく土下座をしてお願いをされ、慌てて起こし上げましたが、舞乃空ちゃんを含め、見ていた全員が驚いたのでした。可愛い娘の幸せを考えての行動だったのでしょう。近いうち、父娘の距離も近付くかもしれませんね。そう思う出来事でございました。

お読み頂き、ありがとうございます!

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