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二十五室目 轟音のイビキと真打ち登場

「桜々ぁ、……あんた何してんの?」

 

 散開した後にイベント会場を歩いていますと、私たちを見つけ、声を掛けてきたのは琴杜音さんでございました。変装は一瞬で見破られ、慌てた桜々さんは小声で、

 

「琴杜音ッ!? な、なんで分かったのよ……」

 

「そりゃ、あんた……目立ってるし……。何なにぃ? 何かおっ始める気!?」

 

「雑魚を一掃する任務中なのッ! もうッ、声掛けて邪魔しないでよ。舞乃空ちゃんは? 近くにいないわよねッ!?」

 

「あ、ごめん、ごめん! 舞乃空はツルピカ肌ケアの所で講習を受けてるから居ないわ! なんか面白そうな事に首突っ込んでんじゃない。手伝おっか?」

 

「エッ!?」

 

「見張っといてあげるわよ。危なくなったら、シールド張ってあげるわ」

 

「……いえ、大丈夫よ……」

 

「何でよ? 馬鹿な組織が潜り込んでんでしょ? 忙しいとはいえ、そこまで能力は衰えてはいないわよ?!」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

「なによ?」

 

「……」

 

「……あー、まぁ何か言えないものがあんのね? 別に言わなくてもイイわよ。私は関係ないように過ごしながら、ピンチの時だけシレッと手を出すようにしてあげるわ。その代わり、私がお役に立てたら、後でビールでも奢ってねん」

 

「琴杜音……。……ありがとう、お願いします」

 

「承知ぃー! まぁ頑張れぇー。近付かず、遠くで見守っとくわねー」


 すぐさま琴杜音さんはサッと離れ、ビュッフェの軽食とシャンパンを手にして、近くのテーブル席へと掛けるのでした。すかさず私は、

 

「事情をお話してもよかったのではないですか?」

 

「彼女は元GKよ。GKと縁を切ったとはいえ、彼女を表立って巻き込む訳にはいかないわ。それに舞乃空ちゃんは一般人だし、彼女には琴杜音しかいない。危険に晒す訳には……」

 

「そうですね……。トレーニングをしていない彼女たちをヤツらの前に出す訳にはいきませんからね」

 

「それよりトッキー……後方右斜め三十五度。まずは五人……かしら」

 

「そのようでございますねぇ……。全く物騒な気を放ちながら、困ったさんですねぇ。気を放つなど、基礎が成っていませんね、基礎が!! さて、どうしましょうかねぇ……」

 

「一番、単純な方法で……いきましょうか?」

 

「そうですね! じゃあ、桜々さん。まずは人気のない場所へ誘導しましょうか」

 

「承知ッ」


 そう言うと桜々さんは五人に近付き、不審そうな顔をしたヤツらに小声で、

 

「緊急指令コード、2736……第三施設内に集合せよ」

 

 驚いて目を見開きながらも、

「「「「「イエッサー!」」」」」

 

 そう素直に返事をして、第三施設へと急ぎ向かったのでございました。桜々さんと私は顔を見合わせて笑い、幸慈は夏丸に任せて、第三施設へと共に走ったのでございました。


 第三施設に着くや否や、リーダーと思われる人物が、

 

「指令ありがとうございます! それで我々はこの後はどうしたら……」

 

「じゃあ、少し眠ってて貰おうかしら!」

 

「「「「「はっ!?」」」」」

 

 すると指先よりコーラルピンク色をしたコントロールボールを五つ作り出し、素早くヤツらの頭へと次々に被せていったのでございました。エクセレェエーントッッ!!

 

 慌てた五人は、

「な、なんだ! これはッッ!!」

 

「ヤツらは能力者だッ! すぐにイヤホンマイクでッ……」

 

 あぁー……残念でした。速効性の安眠作用が効いたようですね。コントロールボールを被ったままその場に倒れ、爆睡モードへと突入したようでございました。それを見て桜々さんは、

 

「ふーん……イヤホンマイクを装着してるのね。気付かなかったわ。それにしても分からないような小型イヤホンマイクを作るなんて……凄い技術を持ってるのね、GKは」

 

「いろいろと……特化したものを作ってるのでしょう……」

 

「……トッキー。その、この前から思ってたんだけど……。もしかしたら、竜神七鳳さんって……」

 

「そうですね……医療系に特化した組織……。母の、クローンかもしれません……。診療しながら、裏ではそうした研究を行っていたのかもしれませんね……」

 

「やっぱりトッキーも同じように思ってたのね……。じゃあ真相を明かす為には、早く全員を捕縛しなきゃいけないわね! 終われば、きっと何もかも分かるはずだから……」

 

「えぇ……」

 

 母は確かに亡くなっていました……。ですから、その遺体を持ち帰り、母のクローンを作った可能性は大いにあり得る。桜々さんも私も同じように感じていたのでございました。我が母を冒涜するその行為に大きな怒りと悲しみが押し寄せ、固く握った拳が小刻みに震えるのでした。すると、そのしんみりとしていた雰囲気に突如、

 

「グゴォガガガガァアーッッ」

「グゴォー、ヒュー……グゴォー、ンゴッ!」

「ゴゴゴゴゴォオーッッ」

「ブヒィーゴガガガガァアー……ブヒィーゴゴゴゴゴォー……」

「プピィー……ゴゴッ……プピィー……プピィー……」

 

 一斉に五人がそれぞれもの凄いイビキをかき始めたのでございました。その轟音に桜々さんが、

 

「ンフッ! こ、この子たち……、寝不足だったのかしら。凄いイビキだわ。ンフフフフッ……」

 

「……ひとり、鼻詰まりのヤツがいるようですね……」

 

「プゥーッッ!! やっだぁ、トッキーったら! アハハハハッ!! ダ……ダメッ、お腹が……お腹が(よじ)れるわ! アッハッハッハ」

 

「とりあえず倉庫へと突っ込んで隠しておきましょう。そして全てが終わったら、耳鼻科にも突っ込んでやりましょう! では、次に参りましょうかッ!」

 

「ンフッッ……承知ッ!」


 そうして同じように私たちは粛々と任務を進ませ、全ての雑魚の一掃を終えたのでした。すると桜々さんは、

 

「ねぇ……。やっぱりこの子たち、基礎が成ってないわよ。イヤホンマイクがあるなら、緊急指令はイヤホンマイクから流れてくるはずって疑わないんだもの……。素直に引っ掛かるなんて……何かおかしいわ……」

 

「時間稼ぎの為にかき集めた素人警備兵かもしれませんね。ならば、ムギや皇さんの方が大変でしょうから、そちらに合流しましょうか」

 

「そうね!」

 

「皇さんはソラと倭久に任せられるから、私たちはムギの方へと急ぎ行きましょう!!」

 

「承知ッ」


 そうして幸慈を迎えに行き、飛行船のある施設長室へと急いだのでございました。しかし、そこに麦乃介と幸雅の姿は無く、慌てた私たちは必死になって探したのでした。すると

 

 ドガァアアアーンッッ!!

 

 一般の方がいるイベント会場の方から爆発音のような音が聞こえてきたのでございました。

 

「桜々さん、ユキ、夏丸ッ!! 戻りましょうッ! どうやら表立って動き出したようですッッ」

 

「「「承知ッッ!」」」


 急ぎ走り、戻っている最中、

「父さんッッ!」

 

 空生と倭久が走りながら追いかけて来たのでした。止まる時間は惜しいので、走りながら、

 

「ソラッ! そちらは終わったのですね!?」

 

「うん! 第三施設の倉庫に一緒に閉じ込めてるわ!! アレ、父さんたちでしょ?! ドアを開けた瞬間、イビキの大合唱が凄過ぎて、皇さんと驚いたわよッッ!! 何人仕留めたのよッ」

 

「アハハハ! まだイビキをかいていましたかッ!! ザッと百人くらいでしたかね。彼らは全員、寝不足のようでしたから、積み上げて寝かせてあげていたんですよ」

 

「めちゃくちゃ驚いたわよッ! あんな轟音のイビキ大合唱なんて初めて聞いたわッッ!!」

 

「アハハ、そんなに凄かったのですね?」

 

「そうよッ! 全くもー……」

 

「その様子ですと、調子も良くなったようですね?」

 

「……まぁね!」

 

「……そうですか。それで皇さんは?」

 

「雑魚どもを縛り上げて、整理してから向かうって!」

 

「そうですか! では任せて、私たちはムギとコウの元へまいりましょう!! ……あの爆発音はヤツらの仕掛けたものでしょうから急ぎますよッッ」

 

「「「「「承知ッッ!」」」」」


 走りながら、私は倭久を密かに呼び、横に走らせながら耳打ちをしたのでございました。

 

「倭久……空生の調子は分かってるな。お前が守れッッ。お前だけが今は頼りだ……」

 

「お、お父さん……」

 

「……今回だけその呼び名は許そう。……守れよッ!」

 

「承知ッッ!!」


 倭久は嬉し泣きしそうな顔をして、返事をしたのでございました。この顔は……いつ見ても可愛いものです。幼き頃の倭久を思い出しますね……。私は空生の様子がまだおかしい事には気付いておりましたが、本人が頑なに守ろうとする何かがあるように思えて、敢えて黙ったままにスルーしたのでした。……ですが、この時の判断を私は間違えてしまっていたのでございました。また幼き頃の後悔と同じような……胸を引き裂かれる事態が待ち受けているとはその時の私は思いもしなかったのでした……。


 爆発音から五分もせずにイベント会場へ着いたのですが、着いた時にはすでに一般の方々はほぼ逃げ出していて、倒れている方以外はいませんでした。そしてそこには、ボロボロになった麦乃介と幸雅、そして涼しい顔をした田嶋が睨み合い立っていたのでございました。

 

「父さんッ……倒れている人たちを安全な場所へ助け出してッッ!」

 

 幸雅は肩で息をしながらそう言うのでした。あの田嶋とかいう男は何故、あのように涼しい顔をしているのか、私には分かりませんでした。とにかくまずは巻き添えになった方々を助け出さねばと手を出しかけた時、

 

「お前の相手は……私よ……」

 

 田嶋の後ろに隠れていて、見えなかった相手が凛とした姿で優雅に歩きながら出て来たのでした。それは漆黒の髪色をしたヴァルハラの帰りに見たその人でした。その姿にまた驚いて止まってしまった私に、突如として大量の瓦礫が襲いかかって来たのでした。

お読み頂き、ありがとうございます!

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