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三室目 羽柴小葉様 波乱の仕置き

 さて、今宵は月明かりの綺麗な夜でございます。

 素敵な月に照らされながら、桜々さん、空生、倭久、幸雅の五人でお散歩を兼ねて、外出しております。


 夏丸に会社周辺のパトロールをお願いしていましたところ、やはり会社近くに潜んで居たようでして、夏丸がすぐに追い払ってくれました。夏丸には逃げ帰ったヤツの家も突き止めて貰うようお願いもしていましたから、交代して私たちがヤツの家へと向かう為に外出しているのであります。あ、夏丸には幸慈と一緒にお留守番をお願いしているのです。


 えっ、何で歩いて移動しているのかですって?! 我が家の移動は基本、徒歩となりましてね……いや、その、実は空生がまだ怒っているのか、一言も口を聞いてくれず、黙ったままでして……。瞬間移動の能力を使ってくれそうにないですから、頼みにくくてッッ!!


 目的地へ向かい、無言で歩いていると、


「んで? 今回の仕置きはどういう経緯?」


 幸雅から事の詳細を求める声が上がった。


島浜(しまはま)様は羽柴様の元ご家族となる方でして、数日前にやっと戸籍から離れる事が出来ましてね……」


「あ? 元旦那の家になるの?」


「左様です。元旦那様の、そしてお姑様のダブルDVにより、羽柴様は酷い状態でして……。声は届いたりしていたのですが、暫くは見守っておりました。ですが、元旦那様の手が子どもの蓮織くんにも向き始め、羽柴様がやっと心から救いを求められましたので、YADOCALIへとお連れした次第です」


 すると聞いていた桜々さんは、

「もっと早く助けなさいよ、トッキー!」


「助ける事は簡単なのです。ですが、心の底から、本当に助けを求めて貰わなければ、……動けないのです。中途半端に助けても繰り返されるだけですから……」


「そうだったわね……。ごめんなさい、トッキー。失言だったわ……」


「いえ……。夫婦の仲というものは……本当に難しいものです。他人同士が一緒になる訳ですから。……余所者が介入しても解決できる事は少ない。DVというものは特に……」


 思い出してしまった……あの笑顔はもう……。グッと堪えて私は続けました。


「自分にも悪かった所があったから殴られた。優しくなった相手がこれで変わってくれるかもしれない……などと。そんな事は絶対にございませんのに……淡い期待を胸に日々を過ごし、また事が繰り返される。どんな理由があるにしても、相手が自分に手を上げるなど、……決して許してはならない行為なのです。そうした場合、加害した者が反省するなど、まず無いに等しい。悲しいかな、少なからずそうした人間はいるものです。そういった輩には根本的なものを変えて差し上げる必要があるのです。本日もその一端となります。皆さんのお力をお貸し下さいね」


「「「「承知ッッ!!」」」」


 そうして、島浜家へと辿り着きました。セキュリティー万全の物々しい門構えからして、とても高級そうな豪邸であります。それよりも……何やら、空生の顔が先程から般若の様になっておりまして、恐ろしいのですが……アワワワワ。お、落ち着いて参りましょう。


 ピンポーン♪


「……ハイ……どちら様?」


 男性の……比較的若い声。元旦那様のようです。

「私、マンションYADOCALIの管理人をしております、押上と申します」


「あぁんッ!? 小葉がいるマンションのヤツかッッ!!」


「左様でございます。少しお話を……」


「あっ、何だよ、母さん……」


 ガチャガチャ! ザザッ、ヒソヒソヒソ……。


 話し口を手で押さえ、何やら向こうで作戦を練っている様ですね。すると、


「オホホホ。失礼致しましたわ。息子は少し忙しかったようでして、些か気が立っておりまして……アラッ、まぁそんな大人数で?! ……何なのかしら。あ、いえ失礼しましたわ! さぁさぁ、どうぞ、中へお入り下さいな」


 余計な言葉が口から漏れ出るセバスチャン二号ですね……。そのセバスチャン二号のお陰で、セキュリティーのある物々しい門は難なく開きました。


 すると、桜々さんは、

「ふーん……すぐに通してくれるんだ」


 すかさず私は、

「私たちを取り込んで、上手くいけば、また羽柴様を取り返せると思っておいでの様でしたよ?」


「えぇー?! そんな都合の良い解釈する馬鹿がどこにいるのよぉ……。まさか、トッキー……予知して?」


「ええ、先程……。こちらの奥に……都合良く解釈なされるお方が二名ほど……」


「はぁー……救いようの無い馬鹿どもね。よく分かったわ! 指先を滑らかに磨いておくわッ」


 おや、珍しく桜々さんもお怒りのご様子ですね。まぁ、そうでしょうね……。羽柴様と可愛い盛りの蓮織くんの痛ましい姿を見ていますからね。至極当然のお怒りでございますね。

 

 私たちは玄関からリビングへと通してもらい、ソファへ腰掛け、すぐに本題に入りました。


「失礼を承知で単刀直入に申し上げますが、羽柴様の周辺を彷徨かないで頂きたく、お願いにあがりました。大変、ご迷惑となりますので、お控え下さいますか?」


「小葉が言ったのかッッ!!」


「いえ、羽柴様は何も……。私どものお願いでございます」


「ハンッ! 何様だよ、お前らッッ。お前たちは小葉の何なんだよ!!」


「同じマンションの住人ですが……」


「たかが、同じマンションの住人が他所様の家庭の事情に、アレコレと口出しをすんじゃねーよ! あれはオレのモノだッッ!! お前らには関係ねぇだろォがッッ」


「……モノ……ですか」


「そぉーだよ、オレのモノさ! 天涯孤独の可哀想な小葉を貰ってやったのに、逃げやがって。……そういや、どうやって逃げたんだ? それにあのマンションにもどうやって潜り込んだのか……まぁ、いいッ! とにかく、近くまで連れ戻しに行ったのに、猫かなんか分からねぇヤツに邪魔されるし、連れて帰る事も出来やしねぇッ。こっちが迷惑してんだッッ」


 私は思わず、


 ―― 夏丸、ナイッスゥーッ!――


 心の中でガッツポーズをしたのでございました。続けて私は、


「羽柴様はお優しい心をお持ちの尊いお方と思われるのですが、モノ……という表現は如何なものかと……」


 人をモノ扱いする言葉に対して、反論したのでした。すると、嘲笑うかのように元旦那様は、


「ハハッ! 馬鹿そうな黄色頭の眼鏡は面白れぇ事を言うなぁー。アイツが尊いお方だと? 笑わせるッッ。鈍臭ぇし、頭も要領も悪りぃ。それなのに、母さんや俺にも生意気な口を聞くから、一から教育し直してやってたんだよッッ。良いのは顔だけだなッ! ガハハハハッッ」


 どうしようもないですね……。そう思いながら、フッと空生を見ると、ハワワワ……空生の顔がッ。体がプルプルし始めたッッ。いけませんね、時間がないッ!! 慌てた私は最後の望みに賭けました。


「蓮織くんは……? とても良い子のようですが、愛情をお持ちで?」


「そりゃそうさッ! アレは俺の息子だからな。親父と同じように育ててやってたのに、小葉が奪いやがったッ!! アイツもオレのモノなのにッッ。馬鹿な小葉には全部、任せられないだろ? 時折、俺が厳しく教育と躾をしてやらないと、道を間違えたら男として情けないからな。お前みたいな馬鹿な男になっては困るんだよ、島浜家の男としてなッ!! ガッハッハ」


 今度はアレ呼ばわりですか……。少しでも蓮織くんを思い遣り、愛情ある言葉が出るのであれば、穏便に済まそうと思っていましたが……、ハイッ、やめましたッッ! 空生さん、良いですよー。レッツゴー!


 ガシャ、ガシャーンッッ!!


 机が真っ二つに別れましたー! 気持ちの良い割れ方でございますねッ! ……ん真っ二つ?? と、思っていたら、小僧ッ、お前の仕業かッッ!! ……まぁ、空生の様子を見て、止むに止まれなかったのでしょうね……。本当に、仕方の無いヤツだ……。抑えの修行が足らんな。


「な、何しやがる、テメェッ!! つ、机がッッ」


 言葉を重ねるようにセバスチャン二号も、


「まぁあああー、なんて事ざましょ!! 小葉さんは乱暴な方とお知り合いですのねぇー。どうりであたくしに楯突くはずですわ! あたくしの若い頃なんて、逆らうなんて持っての他でしたのに。よく分かりましたわッッ! 駿ちゃん、警察よ、警察ッ!!」


 今度は静かな怒りを幸雅が、

「屑だな……。これ、人格破壊して、病院に送り込んだら良いんじゃね?」


 冷静な冷たい口調の幸雅が何より一番恐ろしい……。分かっていましたので、私は、

「やめなさいね、コウ。……同じ事を繰り返すのですか?」


「あー……ごめんなさい。でも屑過ぎてさ……」


「分かりますよ。でもね、ここは桜々さんに委ねましょう。桜々さん、お願い出来ますか?」


「承知!」


 そう言うとすぐさま、磨かれた指先から見事なコントロールボールが作られ、大きなシャボン玉……と表現したら良いのでしょうか。見事な円を描いた綺麗な透明のボールは見る見るうちに、漆黒の色へと変わり、禍々しくなっていったのでした。指先をセバスチャン二号と駿ちゃんの方へ向けたかと思うと、焦点を合わせたボールは素早くその頭を捉え、瞬時に移動し、包み込んだのです。エクセレェーントッッ!!


「ウワァッ! な、何だこれッッ!! 触れないッ。取れないッッ! あ、あ……あがががガァーッ、ギィじゃぁぁあー」


「駿ちゃんッ、ちょっとッッ! 大丈夫?! ママの頭にあるこれは何ッ?! 周りが見えないわッ。取って、取りなさいよッッ……う、ギィギャァあああー」


 煩く騒ぎ立てていた二人はやがて、断末魔の様な叫びへと変わっていきました。そうして暫くすると大人しくなり、白目を剥いて座り込んだのでございました。どうやら、精神苦痛の最高レベルを放ったらしいですね。さすが、我が妻ッッ! 格好良いぃぃぃー!!


「さて……と、幸雅。今のうちに羽柴様との思い出塗り替えと記憶の改ざんを頼みますね」


「分かった……けど、消去じゃなくていいの? 全てを忘れさせないで大丈夫?」


「大丈夫です」


「……ぶっちゃけ、面倒くさいんだけど。消去の方が簡単だし……」


「そこはホラ! コウの力でさ、チョチョイのチョイって!! あ、私たちの事は消去で!」


「軽く言うなよー。難しいんだぞぉ……」


「ごめんね、そうだよね……。でも、全てを忘れさせ、消す事は私は違うと思うんです」


「何で?」


「自分たちがしてきた事、それに伴った別れを覚えておくというのは、学び、やり直すチャンスだと思うんですよ」


「……学べる力があるなら、こうはならないと思うけど?」


「だから、大事なのは記憶の改ざんの方でしてね。昔から穏やかな生活をしてきた様に書き換えて欲しいのです……。元旦那様は多分、同じように育てられ、陰で母に助けて貰いながら、……体型を見るからに、勉強以外は何もさせて貰えず、必死に我慢をしながら幼少期を過ごしてきたんだろうと思うのです。セバスチャ……お母様の方もまたお姑様からの嫌がらせをかなり受けていたのでしょう。……彼らだけが悪いんじゃない……。……そこの仏間にいるお父様が元凶か、はたまた上に飾られたご先祖様方なのか……。悪しき習慣を断ち切れず、繰り返すのは良くない事ですね……」


 こうして仕置きの時間は完了したのでした。

 仕置きが終わり、ベットへ寝かせた二人は穏やかな顔となっていました。翌朝に目覚めたら、きっと新たな、そして充実した人生を歩める事が出来るでしょう。これまでも二人は一生懸命に手を取り合い、過ごして来たことと思うのです。それは素晴らしいことです。……ですが、他所様の大切な娘さんに己が受けた苦痛の悪しき習慣を持ってして当たり散らし、蹂躙するのは頂けません。自ずとそれらを断ち切れる事が出来たならば、大切な我が子の手を離し、二度と抱き締める事も出来ないような状況になってしまう事などなかったのにと……それが残念でなりません。


 悲しい結末ではありましたが、それぞれが幸せだと感じる道へと進めるよう願うばかりでございます。

読んで頂き、ありがとうございます!

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