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二十四室目 琴杜音さんと薔薇のマスコットアニマル

 本日は快晴なり。ヴァルハラの新商品お披露目イベントが行われる日でございます。

 私たちはイベントが始まる一時間前に到着するよう、早めに自宅を出たのでした。空生の瞬間移動をすれば何なく行けるのですが、……あの日以来、顔色は益々悪くなり、桜々さんも私も考え方のシフトが出来ていないからダメだと止めたのですが、頑なに行くと言って聞かず、倭久に車を出して貰い、全員で出発したのでございました。行きすがら空生の顔色の悪さを心配した幸雅が、

 

「ソラ姉、……大丈夫か?」

 

「……うん、ごめん。心配掛けて……。着いたら、しっかり気持ちを立て直すから……今は許して」

 

「朝もあんま食べてなかったし、……無理はすんなよ」

 

「うん、分かった。ごめん、着くまでちょっと寝とく……」

 

 そう言って、リクライニングを倒して寝たのでした。いつもの様子と違う空生に、不安を強く感じた幸雅が、

 

「なぁ、父さん……。やっぱり、ソラ姉は家に帰した方がいいんじゃない? いつものソラ姉じゃないよ……」

 

「何度も説得したんですがね……。家で残ってても気になって、そっちの方が嫌だと。よほど皇さんが気になるのでしょう……。空生にとって、姉のような人ですからね……」

 

「……うん、分かるよ。だけど……」

 

「ソラも分かってますよ。もう子どもではありませんし、心配ですが、任せましょう」

 

「……うん」


 そうしてヴァルハラへと向かうまでしっかり寝たからか、到着した際には空生の顔色も幾分かは良くなり、気持ちを立て直して、気合いを入れたようでございました。すると車を降りるや否や、

 

「あれッ!? コウ君?」

 

「えっ!? マノ??」

 

「コウ君がなんでここに……。今日のイベントは新商品の化粧品とかになるのに、どうして……」

 

「あー……んー、……」

 

「私に付き合って貰ったのよ! こんにちは、舞乃空(まのあ)ちゃん」

 

 すかさず桜々さんがフォローを入れたのでした。

 

「コウ君のお母さん! 先日はありがとうございました」

 

「こちらこそわざわざお礼に来てくれてありがとうね。その後はもう大丈夫? 倒れたりはしていない?」

 

「はい! お陰さまで……あ、お母さーん! お世話になった押上君のお母さんだよ」

 

 呼ばれたその方は舞乃空ちゃんの後ろから颯爽と現れ、桜々さんとお互いに顔を合わせた瞬間、

 

「やっぱり桜々だぁー!! お久しぶりッ」

 

「えぇッ!? 琴杜音(ことね)ッッ!?」

 

 そう言い合い、抱きしめ合ったのでございました。その姿に驚いた幸雅は、

 

「母さん、マノのお母さんと知り合いッ!?」

 

「そうよー! 幼馴染なの!! 小学六年生の時に琴杜音が転勤になってしまって別れてしまったけど……」

 

「押上って聞いて、もしかしてと思ってたけど!! 懐かしいわねぇ! また木登りでもして、二人で怒られる?!」

 

「プッ! あれは琴杜音のせいじゃなーいッ。木から落ちて、校長先生の大事な盆栽棚を割っちゃって!!」

 

「だったよねぇー。アッハッハ!」

 

「電話の声だけじゃ分からなかったわ! まさか、琴杜音だったなんて。舞乃空ちゃんを見た時から、どこかで会ったような気がしてたのよぉー! 結婚して苗字が変わってたから、気付かなかったわ!」

 

「アハハ……違うのよ。母が離婚してね。母の旧姓なんだ……」

 

「そう……お母様はご息災なの?」

 

「去年、……頑張ったんだけど……ね……」

 

「そうだったの……」

 

「桜々は?」

 

「うちは二人とも早くに……。今は旦那さんと子どもたち三人で、上から空生、幸雅、幸慈に……あっ、長女の空生はもう結婚しててね。こちらは長女の旦那さん、倭久も一緒に同居してるの。愛猫の夏丸も含めて、ワチャワチャした毎日を送ってるわ」

 

「わぁ、楽しそうだね! 私は舞乃空と二人なのよ。 ……未婚でこの子を産んだの。うちが……片親だったから、相手のご両親に結婚を許して貰えなくて……。別れた後に分かったのよ……」

 

「そうなの……。大変だったわね……」

 

「うん、でも今はすごく幸せなのよ! この子が私の生きがいそのもので、……だから、舞乃空を助けてくれて本当にありがとう。急患が入ったものでお礼にも行けなくて……、失礼してごめんなさいね……」

 

「いいのよ! それより急患って……」

 

「医者をしてるのよ」

 

「じゃあ、夢を叶えたのね! 凄いわー!!」

 

「まだまだ半人前だけどね。何とかやってる」

 

「ところで今日は……?」

 

「ああ、……元の職場の時に、ここの製薬会社の会員になってたから、招待状が届いて……」

 

「あら、一緒じゃない! 元の職場って?」

 

「GKっていう診療研究所なの」

 

「あ……そうなんだ……」

 

「ん? なんかあった?」

 

「ううん! 病院に勤めてるのかと思ってたから……」

 

「最初は病院に勤めてたんだけど、そこで向こうから指名があって、希望されて行ったんだけどね……。ちょっと方針が合わなくて……。今はバリバリの大学病院勤めだよ!」

 

「そうなの? 今もGK診療研究所とは交流が?」

 

「全く関係ないわ。喧嘩別れして飛び出したようなものだから、合わせる顔もないし……。それにもう随分前の職場だからね……」

 

「そう……。あ、じゃあ、また今度お茶でもしましょう? 私たち、これから行かないといけない所があるから……」

 

「いいわね! 休みが取れそうな時にまた連絡するわ」

 

 そうして桜々さんは旧友との久々の再会を楽しんだようでございました。が、……別れてから暫くは難しい顔をしていたのでした。気になった私は子どもたちに気付かれぬよう、

 

「どうかしましたか? 何か……」

 

「うん……。彼女、……琴杜音はね、シールドの能力者なのよ……」

 

「ええッ!?」

 

「能力者だから、舞乃空ちゃんも能力者かと思ったんだけど……トッキーは救済察知の波長を受け取ったし、ユキのヒーリング治癒も受けられた……。能力者同士では効かないはずなのに、舞乃空ちゃんは能力者ではなく一般人って事よね? なんで……」

 

「ミクストレイスかもしれませんね……」

 

「あ、そうか……。お父さんになる方が……」

 

「まぁ詳しくは分かりませんが、その可能性は高いかと。能力者と一般の方を親に持つ子どもが能力者になる可能性はかなり低かったと記憶しています。だから、舞乃空ちゃんは一般人のままなのでしょう」

 

「そうか……そういうことね……。琴杜音のご両親は能力者同士だったから、てっきり……。離婚されていたなんてのも……未婚で産んでいたなんてのも……知らなかったわ……」

「小学生の頃に別れたのですから、無理もありませんよ。お互いの所在は分かったのですから、これからゆっくりとお話になっていけばいいと思いますよ」

 

「そうね……少し気になって……。ごめんなさい、先を急ぎましょう! もう一般の方々が集まり始めているわ」

 

「そうですね。ムギの元へ急ぎましょう……」


 私たちは急ぎ施設長室に向かったのでございました。緊張感漂う押上家とは真逆に、施設長室へ着くと脱力する声が聞こえてきたのでございました……。

 

「待ってたわーん!! 桜々、超久しぶりぶりね! 元気にしてたぁ? あらッ、少しヤツれたわねッ!?」

 

「そ、そう? 寝不足かしら……?? ムギちゃんは元気そうで良かったわ!」

 

「ありがとん。あたくしは元気満点よ! 寧ろ元気が有り余り過ぎるくらいよ……んふッ」

 

 麦乃介は指の関節をバキボキと鳴らすのでございました。

 

「ふふっ……相変わらずねぇ。綺麗なお顔が怖くなってるわよ!」

 

「やっだぁー! 見なかった事にしてぇーん」

 

「ムギちゃん、今日はうちの子たちも加勢に来たわ! よろしくね!」

 

「こちらこそ、ありがとう。押上家の皆さん、今日はよろしくお願い致します……ってぇ事でッッ! 皆さんには着替えてもらいましょうかね。皇ィッッ!!」

 

「はいッ! 用意しておりますッッ!!」

 

「あら、流石ねッ! じゃあ、それぞれ着替えに行ってねぇーん」

 

 こうして私たちは着替えを余儀なくされ、幸雅と倭久はSP風の黒スーツに髪型をオールバックにさせられ、空生は皇さんと同じヴァルハラの制服におかっぱ髪のカツラを被せられ、私と桜々さんと幸慈は招待VIP客として、桜々さんはモガ風スタイルで顔を隠すようにクロッシェを、私はロッビアを被り、幸慈はマリンキャップのような学生帽と学ランを着用し、大正モダンを思わせる高級な装いとなったのでございました。


 夏丸は……プッ! ヴァルハラのシンボルマークでもある立体になった薔薇のフードを被せられ、体の模様を隠すために緑のピッチリお洋服を着させられたのでございました。体全体で薔薇を表現し、イベントのマスコットアニマルと化していたのでございました。夏丸は憮然とした顔をしておりますが、とても似合っております……ククッ。

 

「良かったな、ルナがいなくて……プッ」

 

「……倭久。てめぇ、後で絶対にシバくッッ!!」

 

 すると満足そうな作り手の麦乃介が、

「ふぅーあたくし、渾身の作品を見事に着こなしたわねッ! 押上家、流石だわッッ!! じゃあ、トッキーと桜々とユキちゃん、それに夏丸は共に行動し、雑魚の一掃を。皇とソラちゃんと倭久はうちに潜り込んだ二名と幹部たちの捕縛と自白を。コウとあたくしはトップの田嶋寿一(たしまとしかず)の捕縛を。ヤツらを動かす緊急指令コードは〝2736〟よ! よっろしくぅッッ!!」

 

「「「「「「「承知ッッ!!」」」」」」」

 

 すると返事をせず憮然とした顔をした幸慈が、

 

「ムギさんッッ!! いつまでも僕をユキちゃんって呼ばないでッ!」

 

「あっ、ごっめーん! ユキ、よろしくねッ」

 

「ん! 承知ッッ」

 

「やあぁーん、かーわーいーいーッッ!!」

 

「可愛いって言わないで、ムギさんッッ!! んもうーッ!」


 不貞腐れる幸慈に全力で謝りながら、撫でまくり可愛がる麦乃介でございました。幸雅も同じように麦乃介が愛情深く、そして時には厳しく師弟関係のように関わってくれながら育ってきたので、側についていたいと幸雅が思うのは自然の成り行きでございますね。このような幸せなひと時をまたヴァルハラで過ごせられるように、各々が気合を入れ、散開したのでございました。

お読み頂き、ありがとうございます!

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