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二十三室目 黒幕の正体と愛情たっぷりご飯!

 本日は黒い雲に覆われた薄暗い朝を迎えました。土曜日となり、ヴァルハラからの迎えが来て、幸雅は乗り込んで行ったのでした。皇さんも幸雅の協力が嬉しいご様子で、かなりご機嫌なハイテンションでありました。

 

 幸雅が出掛けている間、昨夜に話せていなかった内容を空生、倭久、幸慈に話をし、それぞれがひとりで行動しないよう、そして万が一に備えるよう伝えたのでした。以前の連れ去られた件を覚えているのか、少し不安な様子が見て取れた幸慈に桜々さんは、

 

「ユキ……大丈夫よ。学校の登下校は私が離れてついていくし、状況が落ち着くまで行動は一緒にしましょうね」

 

「お母さん……。コウ君が言っていた事はこういう事態に備える為でもあったんだね……」

 

「そうよ。コウは苦い経験をしているからこそユキに同じ苦しみを味わって欲しくなくて言っていたのよ……。今なら……コウの伝えたかった事、分かるわよね?」

 

「うん……僕、もっともっと頑張るね!」

 

「そう……。頼もしいわ、ユキ。頑張ってね」

 

 すると倭久も桜々さんに向かい、

「空生は任せて下さい。僕よりもしっかりしているし、そう簡単にはヤツらの手には捕まらないと思いますが、必ず何があっても守り抜きますから……」

 

「倭久……ありがとうね。貴方なら安心して任せられるわ……。空生をよろしくね」

 

「はい……」

 

 すかさず私も、

「卑劣な上に酷い事までやってのけるのがグルーサム……いえ、ネファリアスの本性です。くれぐれも気を抜かぬよう、各々は万全の態勢で臨むように……お願いしますね」

 

「「「「承知ッ!」」」」


 夕方になると幸雅は無事に帰って来たのですが、その顔はとても良い状況に向かったとは言い難い表情をしていたのでした。すかさず皇さんに説明を求めますと、かなり驚愕の事実が判明したのでありました。

 

「端的に答えますと、黒幕はGKでしたぁ。まぁ意外でしたけど、何となく納得出来るような感じもありますし、分かって良かったですぅー」

 

 驚いた私は、

「G……K……でしたか……」

 

「まぁいつも二番手でしたからね。そうした劣等感があったのでしょう」

 

 皇さんはコロコロと笑っていました。しかし、まだ疑いが拭いきれぬ私は、

 

「ですが、あそこの人たちは穏やかで人助けを主とした活動をされていて……」

 

「……貴方がそれを言うのは違いますね。コウ君の分析に間違いはありません。……人は隠せるものですから。裏側で動いている人は、表向きのそうした人たちに隠れてカモフラージュしながら動いていたのでしょう。正統でない悪徳な組織は全て子飼いしているみたいで元締めはGK。この前お伝えしたネファリアスも傘下組織でした。それは間違いのない正しい情報です!」

 

「ッ! ……すみませんッ。……ごめん、コウ。決してコウの結果を疑っていた訳ではなく……」

 

「分かるよ、父さん……。俺も……まだ頭と気持ちの整理が追い付かないから……」

 

「コウ……」

 

 しんみりとした雰囲気に皇さんは、

「それにしても助かったわぁー! ありがとうね、コウ君!」

 

「……いえ」

 

「……ねぇ!」

 

「あ、はい……」

 

「あの分析報告書以外で、……隠している事は他にないわよね?」

 

「……」

 

「……あるのね?」

 

「……はい」

 

 皇さんはまだ幸雅の抱えている何かを見抜いているようでございました。

 

「はぁー……なんであの時に言わなかったのよ……」

 

「それは……ムギさんがいたので。本人を前にして……」

 

「施設長の暗殺かッ!?」

 

「……はい。それに……皇さんも……リストに入っているようでした……」

 

「へぇー……。なかなかやる気じゃない、そこまでとは。……ククッ、面白いッ! クソ野郎どもがぁッッ!!」

 

 ビシビシとした怒りが放出されている皇さんに幸雅は、

「すみません……言えなくて……」

 

「……優しいのね、コウ君。施設長に余計な気苦労を掛けたくなかったのよね。施設長とは仲良しだから言い辛いわよねぇ」

 

「……すみません……。計画は二日後、ヴァルハラでイベントがありますよね。それを利用して……」

 

「……なら、まだ我が組織に仲間が潜り込んでいる訳ね?」

 

「……はい。血液採取者と……遺伝子配列の解析者の二名で、中路(なかみち)さん、田守(たもり)さんという方です」

 

「そう。……分かったわ、施設長が襲われる前で良かった……」

 

 すると意を決したように幸雅が、

「皇さんッ! 俺も、俺もイベントに参加させて下さいッッ」

 

「ええッ!? コウ君が!?」

 

「ムギさんの……近くに居たいんです……」

 

 すかさず桜々さんが、

「……そうね、それがいいわ。そして皇さん! 私たちも協力するわ」

 

「ええ!? でも……」

 

 すると黙って聞いて空生も、

「そうだね! 母さんも私もヴァルハラ製薬会社の特別会員だし、新商品お披露目イベントにいてもおかしくはないでしょう? ほら、招待状も頂いていたし!」

 

 すかさず桜々さんも

「招待状を見てから行きたいと思ってたのよ! 新商品の中に確か〝ツルピカ肌ケア〟も入ってたわよね!? とっっても気になってたの!! ……それにGKトップとメンバーも来るんでしょ?」

 

「はい……。あちらのトップとメンバーの中にも特別会員の人が数名いるのでイベントには必ず来ます……」

 

「じゃあ、仲間は多い方がいいじゃない! 暫く泳がせておいて、一網打尽計画にしましょう! それに……私もコウがムギちゃんの近くにいてくれるのであれば安心だから……」

 

 同意見だった私も、

「そうですね。周りの雑魚は私たちが一掃しましょう。桜々さんやソラやユキには害が及ばないように。な、倭久?」

 

「そうですねッ!! 派手に蹴散らしましょー!」

 

 すると、珍しく嬉しさで感極まる様子の皇さんが、

「……皆さん……。ありがとうございますッ。施設長にはその旨伝えます。よろしく……どうか、よろしくお願いしますッ!」

 

 すかさず桜々さんが、

「任せて! 皇さんも暫くは気を付けなさいね。……能力者も居るはずだから接触してくるかもしれないし……」

 

「はいっ! バチコン蹴散らしますからッッ」

 

 涙ぐみながらも皇さんは笑顔でゾッとするような答えを口にしたのでした。そうして押上家は全員でイベントへと参加する事を決め、皇さんも信頼できる仲間が出来た事によって、気苦労が減ったようにご機嫌な様子で帰っていかれたのでした。

 

 それにしてもGKとは意外な黒幕でございました。やはりネファリアスの裏には大きな組織がついていました。GKの傘下組織とは……グルーサムが再起するはずですね。ならば当然、ヤツらもこの日にヴァルハラへやって来るでしょう。その時に全てを必ず壊滅させなければなりません。特に、このGKが存在する限り、私のような惨い経験をしてしまう能力者が後を絶たないと思われるのです……。それだけは阻止せねばと拳を強く握り締め、決意を胸にするのでございました。


 皇さんが帰った後も各々が考え込み、異様な空気感が漂う押上家でございましたが、その雰囲気を一掃したのは幸慈でございました。

 

「お腹空いたぁー! 腹が減っては戦はできぬッッ。お母さん、ごはーんッッ!!」

 

「あっそうね。もうそんな時間ね! ちょっと待ってね。今日は肉じゃがにしようと思って用意してたから、すぐに温めるわ!」

 

「やったぁー、肉じゃがぁ!! にっく、にっくぅー♪」

 

 すると(はしゃ)ぐ幸慈に呆れた幸雅は、

「お前……よく、食欲が湧くなぁ……。俺、入りそうにないから要らないわ……」

 

「ダメだよ、コウ君! お母さんの作ってくれる美味しいご飯を食べないとッ!! 来たるその時に最高の備えをしてなきゃ! だから、食べないなんてダメッッ!!」

 

「来たるその時にって……プッ! 何だよ、その言い回しッ。ウケんだけど」

 

「備えあれば憂いなしッッ」

 

「なんか、そりゃ! 母さんの料理が備えなのかッ!?」

 

「だって僕たちの血となり肉となり、パワーになるんだよッ! それって、最っ高の備えじゃないの?」

 

「あーなるほど。そういう事な! 確かにな。ユキも大人になってきたなぁー」

 

「えッ! コウ君、本当にそう思う!? 僕、大人ッ??」

 

「ああ、俺よかよっぽどユキの方が大人だよ。……そうだな、考え込んでいても仕方ねぇし。今、自分のやるべき事は体作りをしっかりとする事だな! ユキ、教えてくれてありがとうな」

 

「えへへ、どう致しましてッ!」

 

 二人の息子たちのやり取りに目を細めた私は、

「私たちの息子は……素晴らしい考え方を持った子たちになりましたね、桜々さん」

 

「そうね……。私が言おうとした事を幸慈が全て代弁してくれて、それを素直に聞くコウ。本当に良い子たちに育ってくれたわ……。大人の私たちもしっかりしなきゃね。さぁッ、出来たわよ! みんなで頂きましょうー」

 

 すると空生が、

「お母さん……私は肉じゃが、少し量を減らしてくれる?」

 

 ご飯は残さずによく食べる空生が量を減らすなど今までにない事で、驚いた私は、

 

「ソ、ソソソラちゃん、どうしたんですかッ!? ど、どこか具合でも?」

 

「ううん……。ただ、皇さんが心配で……。涙ぐまれていたから、ちょっと気になってて……」

 

「あぁ……そうでしたか。何とかの目にも涙ですからねぇ。まぁ、不覚にもヴァルハラ内部に潜り込まれて、仕置きもしてと休む事なく、常に気を張り詰めていらっしゃるのでしょう……。心配は分かりますが……」

 

「うん。今、自分にできる事を考える方向にシフトするつもり。ユキが言う通り、食べないのは良くないから、サラダとフルーツは多めに頂くから……。ごめん、少し量を減らすのは許して……」

 

 黙って聞いていた桜々さんは心得たように、

 

「……分かったわ、空生。貴女も皇さんとは懇意にしているものね……。心配は分かるけれど、考え方をシフトしなさいね」

「ありがとう、お母さん……」

 

「おれはササミ追加でよろしくなッ!」

 

「分かってるわよ、夏丸! カロリー計算して、ブロッコリーも追加して入れといたわ」

 

「さすが桜々! 分かってるねぇ。ありがとうな」

 

「どう致しまして! 夏丸にも栄養たっぷりで頑張ってもらわないといけないからね。よろしくね」

 

「任せろやッ!」


 そうして押上家は愛情たっぷりご飯で英気を養い、二日後に行われるというイベントに備えたのでした。

お読み頂き、ありがとうございます!

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