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二十二室目 ゴッキーな組織と夏丸の悲鳴

 帰ってきた幸雅の顔色が悪いのは一目見て分かりました。それは具合が悪くてという雰囲気ではなく、話しづらそうな何かがあったようでございました。すかさず私は、

 

「何か……あったのですね?」

 

「……うん。……体育館の…………屋根が吹っ飛んだ……」

 

「はいッ!?」

 

「体育館の……屋根が突風で吹っ飛んだんだ……」

 

「な、なんでッ!?」

 

「俺、帰りにお祖母ちゃんに似た女の人に呼び止められて、それで話があるって体育館裏に連れて行かれて……」

 

「素直について行ったんですかッ!?」

 

「うん……だって、タチの悪い連中の分析でその同じ顔の人がお金を渡して、俺を孤立させるように依頼をしてたから……。理由を聞こうと思ってついて行ったら、振り向きざまにいきなり俺を目掛けて突風が吹いて来たから、慌てて避けたら屋根だけ飛ばされて……」

 

「それでッ!?」

 

「ヤバいと思ったらしくて、その人はすぐに去ってしまったんだけど、轟音を聞いて駆けつけて来た先生たちに何があったのかって聞かれて……」

 

「どういう説明をしたんですか!?」

 

「そのまま突風が吹いてきてって言ったら……『竜巻の突然発生かッ!』って、なんか先生たち同士で納得しだして、俺もよく分かりませんで通したから、そのまま有耶無耶になったんだよ」

 

「そうだったのですか……。コウが無事で……はぁー、本当に良かったです。……済まなかった、コウ。そいつらは私の敵対する組織なんです……」

 

「エェッ!? 父さんが敵対する?」

 

「先日、ヴァルハラに行った時に情報は貰っていたんです。昔のグルーサムという組織がネファリアスという名称に変えていると……」

 

「グルーサムって……昔、父さんが連れ去られそうになったっていう……」

 

「そうです……その組織です……。昼頃に組織長である七鳳という人がYADOCALIにも来てね。……多分、コウが黒幕と言っていたナトリという人と同一人物かと思われます。風を操る能力者だと今日初めて知ったんですが、私たちと会った後に学校の方へ行ったんでしょう……」

 

「あーなるほど。だからか! 諸々納得だよ。操っていたタチの悪い連中の記憶を消去してたから、その七鳳って人が状況がおかしいと思って、直接、俺に接触してきたんだろうね」

 

「……すみません。私が早く話をしていたら……」

 

「いや、父さんも今日、相手の能力を初めて知ったんだし、初見だろ? 仕方ないよ」

 

「いえ……実は、先日のヴァルハラからの帰りに……多分、会ったはずなんですが……」

 

「ええッ!?」

 

「今日の……その女性の髪の色は明るいブラウン系でしたか?」

 

「うん、そうだったよ。お祖母ちゃんとそっくりの顔で……」

 

「ヴァルハラの帰りにあった人は……漆黒の髪色をしていたんですよ……。それにすぐ消えて居なくなってしまったから、見間違いか、白昼夢を見せられたのかと思っていたのですが……」

 

「漆黒の髪? その場から消えた? ……どういう事?」

 

「……分かりません。ただ、今日の七鳳という人は、私とは初対面だと言っていて……。あれは何だったのか、私も分からないままなのです……」

 

「……ねぇ、その組織って医療系に特化してる? ……お祖母ちゃんの……クローンとかは考えられない?」

 

「クローン技術ですか……なるほど。……その当時は詐欺のような事をしている悪徳且つ残虐な一面は持つけれど、チンケでお金に汚い組織だったとは認識しています。ですが、残念ながらそれ以上の詳しい実情までは把握出来ていないんです。ただ、新しく組織として立ち上がる余力があったという事は、裏にはまだ何かあるのかもしれません……。その大元の組織の資金集めとして、もしかしたら悪徳な活動をしていただけの末端組織だったかもしれませんし……」

 

「ヴァルハラはその組織を知ってるの?」

 

「情報共有は一切しない組織だと言っていましたから、詳しい事は分からないでしょう。ですが、水面下で活動を始めだしたから気を付けるようにとは忠告を受けていました。……まさかこんなに早く……」

 

「……なら、今一度ヴァルハラに情報提供のお願いをしてみたらどう? 少しでも情報があるなら、知っておいた方が良いと思うんだ」

 

「そうですね……。皇さんにまずは連絡してみましょう」

 

 そうして、私は皇さんに連絡をして、情報提供をお願いしたのでありました。切り終えると、倭久から下で舞乃空ちゃんがお礼に来ていると私の携帯に連絡が入り、すぐさま私と桜々さんは自宅を出て下りて行ったのでした。マンション前には舞乃空ちゃんだけがいまして、

 

「母と一緒に来るはずだったのですが、急患が入ってしまって……私だけですみません……」

 

 すかさず桜々さんが、

「お母様は医療関係者の方なの?」

 

「はい……」

 

「それは急患の方が最優先よ。それに、ここまで……」

 

「あの、母からこれをお渡しするようにと言付かりました。助けて頂いて、本当にありがとうございました」

 

「そんな……お礼なんてよかったのに。わざわざ来てくれて……ありがとうね。これからもコウをよろしくお願いね」


「はい! こちらこそよろしくお願いします。では、お忙しい時間にすみませんでした。失礼します……」

 

「あ、ちょっと待って! 車で送って……」

 

「いえッ、そんな……。母から倒れないよう体力向上の為に歩きなさいと言われているので大丈夫です!! 歩いて帰ります。本当にありがとうございました」

 

 そう言って深々と頭を下げ、帰って行ったのでした。私は、

 

「しっかりした娘さんですね」

 

「本当にね。……それはそうと……この前から思っていたんだけど……、どこかで会ったような……見覚えがあるような気がするのよねぇ……」

 

「そうなんですか?」

 

「んー……うーん……。……思い出せないわ」

 

「今は思い出せなくても……そのうち思い出すかもしれませんよ」

 

「それもそうね。じゃあ、お夕飯の用意に上がりましょうか」

 

 他愛ない話をしながら、私たちは自宅へと戻ったのでした。するとその日の夜遅くに、大量の資料を持った皇さんが我が家にお越し下さったのでございました。

 

「お忙しい中、申し訳ございません……」

 

「いえ、大丈夫ですよぉー! 施設長から預かってきた資料のコピーを置いて帰りますので、よくお読みになってくださいねぇーって渡したいところですが、コウ君はどちらに? 今回の資料は条件付きでお渡しをするようになっていますのでぇ」

 

 名指しを受けた幸雅は諦めた様子で部屋から出て来て、

「こんにちは、皇さん。お久しぶりです」

 

「コウくぅううん! 会いたかったのにぃ。私を避けるなんて悪い子ねぇ」

 

「いやッ、そういう訳じゃ……」

 

「まぁいいわ! この資料を渡すには条件があるのよ。コウ君、力を貸してくれる?」

 

「な、んでしょうか……」

 

「ある男の分析をして欲しいの」

 

「分析、ですか……」

 

「そう! 先日、我が組織に忍び込んでいたスパイをとっ捕まえたんだけどね。〝告白の間〟に突っ込んでもなかなか吐かったのよぉー。私も少ぉし仕置きしてあげたんだけどね。これがまた難しくってぇ」

 

「す、皇さんの仕置き……」

 

「ウフッ♪ 口から泡を吹いてはいたけど、正気は失ってないから、今のうちかなぁって!」

 

「あ、泡……。何したんですか……」

 

「えー?! ひーみーつぅー! 過去最高の素晴らしい仕置きだったのに、私も力が落ちたのかなぁ」

 

「過去最高……」

 

――これ以上、聞いてはならねぇッッ!!――

 

 私も幸雅も同じように、警報音が鳴ったのでございました。すかさず幸雅は、

 

「わ、分かりました! では次の土曜日辺りはどうですか?」

 

「オッケー! こっちはいつでも大歓迎だからぁ。じゃあ、悪いけれど、土曜日の朝に迎えに来るから準備しててねぇー! じゃ、私はこれでッ! お邪魔しましたぁー」

 

 とりあえず舌打ちがなく、話を終える事は出来ましたが、何やら物々しい状況になってきました。ヴァルハラに侵入するスパイなど手練中の手練。かなり強いバックも裏にいる事は間違いありません。現在ある他の組織でヴァルハラと敵対しようとする勇気のある組織などいるのでしょうか……。組織の中でもヴァルハラはピカイチの存在感とセキュリティーを誇っていますので、スパイとして入り込むにもそう簡単にはいきませんし、入れたとしても……〝告白の間〟で必ず撃沈し、己の正体を事細かに喋る者が多いのです。それすらもうまくいかず、相手が白状していないとなると……非常に難しい状況になるやもしれません。ムギは大丈夫でしょうか……。


 心配をしながら考え込んでいると桜々さんが、

「トッキー、ムギちゃんなら大丈夫よ……」

 

「ええ……。ですが、今までこのような事がヴァルハラで起こるなど一度もありませんでした……。それに潜り込んでいたなどと……何かおかしいのです……」

 

「確かに……」

 

「ヴァルハラに次ぐ組織といえば、GK(ジーケー)ですが、あそこは診療研究所ですし、穏やかで人の良い方が多いですから、喧嘩を吹っ掛けてくるとは思えないんですよね……」

 

「GKは小さい精鋭揃いの組織だし、人助けばかりしているイメージで悪徳とは正反対な組織よねぇ」

 

「組織の中でも頭ひとつ抜きん出る最強のヴァルハラに、戦いを挑むなど……そのような組織があるのかも疑問ですし、新たな組織でネファリアスもありますが、あの組織長がそんなスパイを雇っているとは思えませんし……益々分かりません……」

 

「とにかく警戒を怠らずに、状況を見ていくしかないわね」

 

「子どもたちもですが、……桜々さんもくれぐれもお気を付けて。以前……」

 

「分かっています……。あのような事にはならないように気を付けます……」

 

 すると、

「大丈夫さ。俺もまぁまぁ使えるようになってるはずだし、YADOCALI周辺の警戒は任せとけ」

 

 夏丸がそう申し出てくれたのでございました。

 

「すみませんね、夏丸まで……。三十年以上前の組織がまた出てくるなど思ってもいませんでした……」

 

「ゴッキーな組織はいつでも湧いて出てくるもんさ。俺がとっ捕まえてやるさッ!」

 

「ゴッキー?」

 

「ほれ! コイツだよ」

 

 そう言って前足を器用に使い、捕まえていた黒光りした油虫を差し出してきたのでした。

 

「「ギャァアアーッッ!!」」

 

 桜々さんと二人して驚きの声を上げたのでございました。

 

「お、おい! 夜中だそ、静かにしろって!! それにコイツは仕留めてるから動きゃしねーよッ」

 

「ど、どこにいたの!?」

 

 驚いた桜々さんが尋ねると、

「玄関前さ。入ってこようとしたから、仕留めといたぞ! 褒めてくれッ!!」

 

 そう得意気にしている夏丸をガッと捕まえ、そのままお風呂場へと直行した桜々さんでありました。きっと前足を洗うのでしょう……。お風呂場から二人の騒がしい声が聞こえてきました……。夏丸は水が苦手ですから、仕方ありませんね。

 

「ぎぃニャァあああーッッ!! 桜々、桜々ァアアッ! やめろッ、やめてくれぇええーッッ」

 

 夏丸の悲鳴がリビングまで聞こえてくるのでした。そうしてまた、騒がしい押上家の夜は更けていったのでございました。

お読み頂き、ありがとうございます!

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