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二十一室目 竜神七鳳 新組織のポンコツ具合と不安

――……痛くない……痛くな……い……まだ……大丈夫……――

 そう微かに聞こえてきたのでございました。流れてきた映像には男三名程の生徒に殴られ、蹴られ、蹲りながら女生徒は防御をしていたのでございました。最後の男子生徒のひと蹴りが頭へと入り、彼女は気を失ってしまったのでございました。そこで波長と映像は途切れ、私は慌てて空生に協力をお願いし、桜々さんには部屋の用意をお願いし、幸雅の通っている高校の体育館裏へと連れて行って貰ったのでした。そこには鼻と口から血を流した女生徒がひとりで倒れておりました。すぐに自宅へと連れ帰り、ちょうど幸慈も帰って来た為、ヒーリング治癒を施して貰ったのでございました。帰ってきた幸雅に顔を見て貰い、すぐに保護者の方に連絡をしたのですが、一晩繋がらぬままでございました。

 

◆◆◆◆◆

 

 本日は暑い日差しが照り付ける朝でございました。

 日課の掃除をしていますと、空生が慌てた様子で私を呼びに来たのでございました。彼女が目を覚まし、錯乱状態にあるとのこと。急ぎ戻りますと、桜々さんがコントロールボールにて精神安定を施してくれておりました。終わりますと、落ち着いて周りを見渡したのでございました。

 

「す、すみません……知らない場所だったので、てっきり……」

 

「いえいえ、こちらこそ突然お連れして申し訳ありませんでした。私は押上時士と申しまして……」

 

「お、押上ッッ!? 幸雅くんの……お家……ですか?」

 

「はい! うちのコウとは同じクラスメイトなのだとか……。いつもお世話になっております」

 

「い、いえ! 私の方が……。あの、桐野江舞乃空(きりのえまのあ)と言います。お世話になったのに、取り乱してすみませんッ……」

 

 すると、幸雅がタイミングよく入ってきて、

「父さん、マノのお母さんと連絡が取れたって! お昼まで帰れそうにないから、よろしくお願いしますって」

 

「そうですか! 良かったです」

 

「……迷惑を掛けてすみません。うち、母と二人暮らしなので、昨日は当直だったから繋がらなかったのかと……」

 

「あーそうでしたか。いや、繋がってひと安心です。良かった、良かった」

 

「……すみません……」

 

 するとしんみりしていた雰囲気に幸雅が、

 

「それにしても、マノ! お前よく寝てたなぁー。寝不足だったのか? なんか学校近くで倒れてたらしく、うちの父さんがいきなり連れて来たんだよ」

 

「ええッッ!? 私、学校の体育館裏で……いや、学校から帰ったのかな……ん? 傷も……ない……あれ?」

 

「お前、夢でも見てたんじゃね?」

 

「そ、そうなのかなぁー……おかしいなぁ……。知らない場所だったから、てっきり連れ出されて……」

 

「はぁ? 誰にだよ?」

 

「あ、いや……その……」

 

「誰かに嫌がらせとかされてんのか?」

 

「……」

 

「黙ってても、何も解決になりゃしないんじゃね? 俺でよければ話は聞くぞ?」

 

「……ありがとう。でも大丈夫! 私の気のせいみたいだったから。かなり疲れてたのかな……本当にごめんねッ。ありがとう……」

 

「……でも……」

 

 私は俯く舞乃空ちゃんにこれ以上聞くのはと思い、幸雅の肩に手を当て、止めるように促したのでございました。その後、朝食を一緒に食べ、学校の支度に戻るからと言って帰って行こうとしたので、また倒れるといけない旨を伝え、倭久に車を出して貰い、桜々さんに送って貰うようお願いをしたのでした。


 私は学校へ出掛ける準備をしている幸雅に、

「コウ……彼女は何かを抱えている。学校でもよろしくね……」

 

「あー……。それは分かってるよ。昨日、ちょっと分析させて貰ったから」

 

「はっ!? いつの間に……」

 

「父さんが誰か分からないから確認してくれって言った時にね。事実確認でもと思ってさ、少しだけね……」

 

「ず、頭痛と吐き気はッッ!? 大丈夫だったんですか!?」

 

「今度はタイミング合ったから、全く! その代わり今は目がギンギンだよ……今日の授業、最後まで体力が保つかな。それが心配……」

 

「そうでしたか。それで……何故あのような事に?」

 

「それがさぁ、俺が原因みたいなんだよねぇ……」

 

「えぇッ!? コウがッッ??」

 

「そう……。マノってさ、女子の中でもかなり仲良くしてたから、それが原因みたいなんだ。暴行していたのは同じクラスでタチの悪い連中だったんだ。ヤツらが言うには俺を呼び出して来いって。でも、マノは言うことを聞かなかったみたいで、俺と話をするな的な感じで……」

 

「……それは……どっちなんでしょう? 近づいて欲しくない的な、もしくは仲間外れ的な……?」

 

「うーん……どっちかってーと、仲間外れ的な? それもさぁ……よく分かんないヤツが黒幕っぽくてさ……」

 

「よく……分からない?」

 

「なんかナトリさんっていう学校外の人みたいなんだ、黒幕。マノが暴行されてる時の映像の中で、主犯のヤツの携帯に連絡があった場面があってさ、『ナトリさん、順調に進めてますから大丈夫です』とか言ってたんだよねぇー。……誰なんだろう?」

 

「コウはそのナトリさんって人に覚えはないんですか?」

 

「うん……。そんな名前の人、知り合いにも友だちにもいない……」

 

「ますます分かりませんねぇ……」

 

「まぁ、外部からの嫌がらせって事みたいだから、ちょっと自分で探ってもみるよ」

 

「ですが……」

 

「父さん、大丈夫! 表立っては動かないから。それとタチの悪い連中の消去をしていた方が良さそうだし」

 

「また分析に、それから消去の方も?」

 

「マノの件とヤツらからナトリとかいう人の記憶の消去も必要そうだから、ナトリって人との関係分析後にやってみるよ。詳しく知るにはそれしか方法がないし、授業中なら頭を抱えてても見つからないだろうしね」

 

「あまり……ひとりで無理をしないようにね……」

 

「うん、分かった」


 そうして私は心配ながらも学校へと送り出したのでした。すると昼を過ぎた頃、何やら騒がしく空生がジムから自宅へと慌てて戻って来たのでした。

 

「と、父さんッッ!!」

 

「ソラちゃんッ! どうしたんですか、そんなに慌てて……」

 

「下ッ! ……ッマンション前に、お祖母ちゃんによく似た若い女の人がずっと立ってて、こっちを見てるのッッ!!」

 

「!?」

 

 私は先日の白昼夢を思い出し、慌てて空生と共にマンション前へ走り出たのでした。すると、そこには先日と同じ三十代半ばくらいの若い女性が立っていたのでした。しかし、髪の色が先日とは異なった明るいブラウン系であり、リビングに飾られている写真の母の容姿と全く同じでございました。私は唖然としてしまい、立ち尽くしていると、

 

「……お前が押上時士か?」

 

 声色もよく似ていましたが、母はそのような物言いをする人ではありませんでしたので、すぐに我に返り、

 

「……左様ですが?」

 

「そうか。……ならば、ククッ……グルーサムはよく覚えているだろう?」

 

「ッ!! 忘れる……はずがありません……」

 

「お前の父にめちゃくちゃにされたからなぁ。まぁそこら辺の話は、どうせヴァルハラ辺りから聞いているんだろう?」

 

「……さぁ? どうでしょう?」

 

「まぁ、いい……。とりあえず、我がネファリアスの傘下に降れ」

 

「……嫌だと申したら?」

 

「相変わらず頭の悪いヤツみたいだ。……はぁー、そんなだから、お前は親を見殺しにしたんだな? また家族を巻き込むのか、お前は」

 

「ッ!?」

 

「お前の間違った行動で散ってしまった命がある……。そんなお前のせいで失われた命があるのに、何故お前はのうのうと生きている?」

 

「ッ! 守られた命を大切にして生きる為だッッ」

 

「プゥーッ!! アッハッハ! お前が能無しだから犠牲になったんじゃないか!! 守られた命? 都合の良いように解釈して綺麗事を言うなよ! お前の命はな、人の命を犠牲にした上で成り立つ汚い命なんだよッ! そんな事も分かってないのか? アッハッハッハ」

 

「ッ……」

 

 あまりの衝撃的な言葉に反論の声が出ずにいますと、状況を黙って聞いていた空生が、

 

「ねぇ……大笑いしてるところ申し訳ないんだけど。元凶を辿れば貴女らだよね? 貴女んとこの組織が来なければ、今も健在だったと思うけど? 悪いのは貴女んとこの組織だけであって、父さんは何一つ悪くないんだけど……状況をちぁゃんと理解して喋ってる? それともお馬鹿なの?」

 

「はぁッ!? うちの組織は関係ねぇーよッッ!! それに馬鹿って……私に向かって言ったのかッ!?」

 

「え? うん! そりゃそうでしょ。貴女しかいないんだしさ。他に誰がいるのよ。ほんと……頭、大丈夫?」

 

「こんのぉ、小娘の分際でぇーッッ」

 

「え!? 小娘とか久しぶりに言われた、ウケるッ! ……お姉さん、幾つよ? 私と同じくらいじゃないの??」

 

「うるっさいッッ!」

 

 すると凄まじい威力の突風が吹き、空生は空高く吹き飛ばされてしまいました……が、すぐに瞬間移動で戻って来たのでございました。……当たり前でございますね。空生の能力を把握してないのでしょうか? 何なんでしょう、この組織は……。

 

「んなッッ!? お前ッ!! 小娘の能力は瞬間移動なのかッ!?」

 

「えぇッッ?! お姉さんッ! そんな事も調べてないの?! 仲間に引き込むつもりなら能力身辺調査くらいちゃんとしてから来なさいよぉー。はい、やり直しッ! 出直しておいでッッ」

 

「う、うるさい! うるさい! 今日は下見だから挨拶に来ただけだよッッ」

 

 すかさず私はその言葉に違和感を覚え、

「え……先日もお会いしたと思うのですが?」

 

「はぁ!? お前みたいな金髪頭を見るのは初めてだよッッ」

 

「?……?」

 

「まぁいい! 挨拶に自己紹介だけはしといてやろう……。私は竜神七鳳(たつがみなとり)。風を操る能力者でもある。更にネファリアスの組織を束ねている長で……」

 

 すると話している途中にも関わらず、驚いた空生が、

 

「えぇー! お姉さんが束ねているのッ!? ちょっとぉ……大丈夫なの、その組織はぁ。超しんぱぁーい……」

 

「やかましいわッ! 小娘は黙っとれッッ。……コホン。とにかくネファリアスの長として押上家の時士以外はまぁ歓迎してやるぞ。よく考えてから答えを出すんだな!」

 

「もーだからぁー!! さっき嫌だって父さんが言ったじゃない! 家族もみんな一緒ッッ! 本当に人の話を聞いてないね!? それとも理解力がないの!?」

 

「理解はしてるさッ!! うるさい小娘だねッッ」

 

「理解してるなら、分かるでしょうがッッ!! とにかく入らないから! そんなお馬鹿っちょな長がいる組織なんて」

 

「じゃあ、時士と小娘はいらねぇよッ!! ……ったく。また近いうちに来る。家族の為にどうしたらいいのか、よく考えることだなッ……」

 

 そう言って、風に乗って去って行ったのでした。空生の容赦ないツッコミといい加減早く立ち去りたかった感は否めませんが、まぁ宣戦布告のようでございますね。アイツが例のナトリなのでしょう。そうなれば、幸雅の周辺に嫌がらせが湧いて出てきている事も納得がいきました。押上家に狙いを定めたという事なのでしょう。私はまた家族を危険に晒す不安と恐ろしさが押し寄せてきていたのでした。そして帰ってきた幸雅からもまた衝撃の報告を受けたのでした。

お読み頂き、ありがとうございます!

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