インターミッション 偉大な母の勘と小さな手紙
夏丸目線でお読み下さい(^^)♪
あ、久しぶりだな! 今日はこれからおかゆと待ち合わせて、ルナのところへ行くんだよ。ついてくる!? 良いけど、見つからないようにな。ん? これか!? これは俺専用のリュックなんだ。俺が出掛けるって言ったら、なんか今日は桜々がニャロンを二袋も持たせてくれてさ。だから、今日はリュックを背負ってんだ。それにしても、なんか桜々はニコニコしてたな……。なんだろうか?
「夏丸にいやーん!」
「おう、おかゆ!」
「今日はどうしたの? 何かあるの?!」
「ああ、公園にな。お前に会わせたいひとがいてさ」
「えっ……」
「ん? どうかしたか?」
「僕……ちょっとやめておく」
「え? なんでだよ」
「一ヶ月前に……、初めて夜に、外に出た時にね、散歩していたら、猫集会の場所に入って行ってしまって。そこで……」
「そこで何かあったのか?」
「たくさんの猫がいて、『よそ者は去れッ!』って、すごく怒られた事があって……」
「えッッ!? そんな事があったのか!」
「うん……だからやめておく。にいやん、またね……」
「だあー! 待て待て! 今日は俺がいるから大丈夫だ! それに猫集会の場所よりも奥に入った所だから、違うかもしれねぇじゃねえか! 彼女は怖くはないからッッ」
「お姉さんなの?」
「そうだ。優しいから大丈夫だ、おかゆ」
「……うん」
「それにな、ニャロンを一緒に食べようと思ってんだ。彼女も口にした事がないって言っていたから、食べて貰いたくてさ!」
「ニャロンを!? 食べた事がないの!? お姉さんなのに?」
「ああ。ずっと……最悪な施設にいてな。まぁ、そこから逃げ出しても野良で生活を続けていたから、食べる機会がなかったんだと思うんだ……」
「そうなんだ……。……うん、それなら一緒に行ってみる」
「良かった! じゃあ、行こうか」
そうして、猫集会の場所より更に奥へと二人で入り、俺はルナを呼んでみた。
「ルナァー! 遊びに来たんだ! いるかー!?」
「……ルナ? ルナ、ルナ……」
おかゆは名前を聞いて静かに復唱しだした。そこへ俺の呼び掛けに茂みの中から、
「あ、夏丸だ! お久し……」
そう言い、姿を現したルナはおかゆを見た瞬間、驚いた顔をして固まってしまった。すると、
「やっぱり、ねねッッ!!」
「カブッ!!」
おかゆは勢いよくルナの元へ駆け寄り、ルナも駆け寄って行った。
「ねねッ、ねねぇーッッ!!」
「カブッ、ねえ、本当にカブなの!? 今まで……どこにッ……」
「ねねッ、ごめんなさいッッ。僕、あの日、自分で探検してみたくて、一人で外に出てみたら、カラスに追い回されて、迷子になってしまって……」
「そう……だったの……」
「そしたら、帰り道が分かんなくなっちゃって……一生懸命に鳴いたんだけど……」
「私も探したわ! でも鳴き声さえ聞こえなくて……どこまで行っていたの?」
「分からないの……。でも、何とか頑張って見覚えのある所を探し回って、見つける事は出来たんだけど、その時、僕すごくお腹が減っていて。それで近くに餌が置いてあってから……それを食べたんだ。そしたらお腹が痛くなって気持ち悪くなってちゃってッ……それで……それでッ……」
泣き出してしまったおかゆに代わって、俺は、
「毒餌を口にしてしまったらしいんだ……」
「毒餌をッ!? えっ、でも、なんで夏丸が知って……」
「今、おかゆは飼い猫として、假谷という家で飼われているんだ。そこの主人が話をしているのを聞いたんだ……」
「おかゆ……?」
「ああ、假谷家でつけて貰った……カブの新しい名前だ。毒餌を食べたおかゆは……多分、力を振り絞って、この公園の入り口まで何とか辿り着いたんだけど、毒が回ってしまって蹲っていたらしいんだ。それをその家の主人が見つけて、急いで病院へ運んでくれたんだ」
「そんな事が……」
「ねね! カカは? カカにもごめんなさいして……」
「……こっちに……いらっしゃい……」
ルナは墓の前へとおかゆを連れて行き、
「母さんはね、ここにいるのよ……」
「どこに!? ここには小さな土の山があるだけで……」
「この中で母さんは眠っているわ……。亡くなったのよ……」
「……カカ……死んじゃったの……?」
「ええ、二ヶ月前に……。亡くなる直前までカブの事を……おかゆをとても心配していたわ……」
「……カカ……カカぁー……ウッ……ウワァアアーンッッ! カカッ、カカぁああーッッ!!」
「……カブッ……ウッ……ウッ……」
俺は二人の泣く姿を見て、何もしてあげられない己の無力さを嘆くしかなかった。ひとしきり泣き終えたおかゆは、
「……僕が……僕がいなくなったせいで、カカは……」
「違うわ。病気になっていたのは、その前からだったのよ。でも母さんは何も言わずに黙ったままで、……私も暫くは気付いていなかったのよ……」
「カカに……カカに会いたいぃぃ……」
そうして、また泣き出してしまったおかゆに俺は、
「おかゆ……ちょっとついてこい……」
「夏丸にいやん……どこに……」
先日、假谷に誘導作戦を仕掛けた時に見つけていた建物へと連れて行った。綺麗に磨かれた窓を指して、
「そこを覗き込んで見ろ」
反射ガラスへ素直に覗き込むおかゆに、
「白くて良い毛並みをした目の大きい可愛らしいカカさんがいるだろ?」
「……夏丸にいやん、……これはカカじゃない。……僕だもん……」
すると状況を察したルナが、
「いいえ……おかゆ。よく見て。カカよ! 綺麗な白い毛並みに、大きな目と黒い艶やかな鼻をした可愛らしい顔は母さんそのものよ」
「ねね……」
「母さんは病気で寿命だったのよ。誰のせいでもない……だから、嘆いて悲しんで欲しくないって、亡くなる前によく言っていたわ……。私も悲しまないように堪えていたんだけど、カブ……おかゆを見たら母さんに会えたように思えて、嬉して久しぶりに泣いちゃったわ」
「ねねぇ……」
「……いつまでも泣いて悲しんでいては、カカが心配しちゃうわよ? だから、もう泣かないで……。カカはおかゆの心にも私の心にも思い出として温かく居てくれているじゃない」
「僕の心に……」
「亡くなった事を悲しむのではなくて、これからはおかゆと一緒に楽しかった母さんとの思い出をたくさん話したいと思ってるんだけど、おかゆはどうかしら?」
「……うん。僕、……カカに心配掛けたくない。だからもう泣かないッ! ねね! たくさんカカのお話をしようッ」
「うん!」
そうして二人は晴れやかな笑顔になってくれたから、俺は安心した。二人の楽しそうな思い出話を黙って側で聞いていたが、ニャロンを出し忘れている事に気がついて、リュックから取り出そうとしたら、ひらがなの小さな手紙が入っている事に気付いた。何だろうと手に取ると、そこには、
――いいひと、いるならつれておいでね。うちはいつでもだいかんげい!――
うぉおおおーッ! 桜々ァアアッッ!! な、何をッッ。何故、知って……あっ! 倭久がいらん事を言いやがったなッッ!! アイツ、帰ったら引っ掻いてやるッッ!!
赤くなって慌てている俺をよそにおかゆが、
「ねえ……ねね。これから、ねねはずっとここにいるの?」
「そうね……。母さんもいるし、ここは落ち着くから……」
「でも、外は雨も降ったりして大変で……それに怖い猫もいるよ? ……僕、ねねが心配で……」
「ありがとう、大丈夫だから! ねねは強いのよぉー」
それでも心配そうな顔をしているおかゆに、俺は安心を与えたくて思い切って、
「あ、あのさぁ! 俺も話そうと思ってたんだけど、押上家に来たらどうかと思ってんだ。その……ルナは半能力もあるし、押上家の人間は良い奴ばかりだから、えっと……ルナさえ良ければどうかな? 毎日のご飯もさ、困る事はなくなるし、おかゆもその方が安心するんじゃないかなって……」
「そんな……悪いわよ! それにいきなり連れて来たって、押上家の人たちが困るわ……」
すると、目を見開いてイキイキとしたおかゆが、
「ねね! それが良いよ! 絶対にそれがいい!! 僕はすごく賛成だよ。前にね、会った事がある人たちなんだけど、威嚇する僕に時間を掛けて、優しくしてくれた良い人たちばかりだったんだよ! 特にね、小さい男の子のブラッシングが凄く気持ち良くてね。あー僕もまたブラッシングして貰いに行きたいくらいッ! 絶対に良いと思うよ!!」
「……でも……」
躊躇うルナに俺は、
「連れて来ても良いって、実は……了承も取れてるみたいなんだ。だから、遠慮はしなくても大丈夫だ」
「ねね! そうしなよ! 僕、そうしてくれたら、とっても安心だよ」
「……おかゆがそう言うのなら……。本当にいいの、夏丸?」
「ああ。大歓迎だってさ」
公園を離れる前にミー母さんのお墓に御挨拶をした。押上家へと連れて行き必ずルナを守る事、そして出来るのなら大切な娘さんといつか一緒にさせて頂きたいと……そう伝えたんだ。すると墓前に咲いてあった一輪の花が揺れて、キラリと光ったのを見たんだ。風もなく、光を当てても光るはずの無いものが……。それは俺の願望というか、勝手な勘違いした思いなのかもしれないけど、お許しを頂けたように思えたんだ。
そうしておかゆと別れ、俺はルナと共に公園を後にしてYADOCALIへと戻ると、何やら一階のジムの中で言い争う二人を見つけた。俺はルナに慌てて、
「ちょっと、二人が揉めてるみたいだから行ってもいいか!?」
「え? あ、うん……」
了承を貰ってルナと駆け付けると、
「空生、お願いだ、聞いてくれ! 誤解してるんだよッ」
「何が誤解? 確かに女性の名前を呼んで、かなり親しそうな感じで喋っていたけど何が違うのッ!? もうその話はしたくないって言ってるじゃないッッ」
あー……まだ解決してなかったのか……。マズいところに来たかなぁ。
「だから、名前をッ! 名前を教えてくれって!! 何の事か俺は全く分からないんだよッッ」
「あんな穢らわしい事をしていたその女性の名前をッ、妻の口から言わせる気なのッッ!?」
な、何を寝言で言ったんだ、倭久……。そう思っていると倭久は、
「穢らわしいって……絶対にやましい事はしていないってッッ!! どんな寝言だったのか、ちゃんと教えてくれッ!」
「『ルナ! ルナ! やめろって。そんなとこを舐めるな、大丈夫だから』って言ってたッッ! 何をしていたのよッ! 何が大丈夫なのッ!? ルナって誰ッッ!!」
口早に喋り、激昂する空生にオズオズと、
「あの、……すみません。私なのですが……」
ルナは名乗り出たのだった。
「エッ!?」
「あ、ルナ……」
空生はかなり驚いて、倭久は安堵した声を出し、二人はルナを見たのだった。
「随分前に倭久の髪が乱れていて、毛繕いをと思って……ごめんなさい。貴女を怒らせてしまったようで……」
「ね……こ……。え、待って……夏丸以外で、猫が喋って……」
空生は混乱しているようだったから、俺が順を追って説明をしてやった。その間、倭久は心底安堵した顔となっていって、空生は段々と顔が赤くなっていってて、珍しい顔をしていた。
「まぁ、という訳だから。空生、それはお前の勘違いだ! 倭久に謝っておけよッ!!」
すると、空生はポロポロと涙を流し始めて、初めての涙する姿に俺は慌てた。
「オ、オイ……なんだよ、そんな強くは責めてなかった……はずだぞ。そ、空生……?」
「倭久に、倭久に……新しい良い人が……出来てしまったって……ウッ……私……そう思ってて……ウッ……ウッ……」
「あのなぁ、空生ッ! それはッッ……」
「夏丸、やめて! 彼女を責めないであげて!」
ルナはそう言うと、空生に向き直し、
「毛繕いをしてしまって……何も考えずにごめんなさい。違う匂いを付けて帰るのはひどく心配を掛けさせましたよね。本当にごめんなさい。彼とはそういう仲ではなくて、その……彼は私たちの手助けをしてくれていた恩人でもあったので、勝手に仲間意識を持っていて、毛繕いを申し訳ありませんでした……。では、私はこれで……」
去ろうとするルナに慌てた俺は、
「いや、待てよ! ルナ!! どこに行くんだよッ」
「だって、私が考えなしに毛繕いをしたせいで彼女は泣いていたのよ。私がいたら駄目でしょう? これ以上、悲しませるような事は……」
「違うよ! 違うッッ!! 空生はルナを人間の女性と勘違いをしていたんだよ! 毛繕いしたとか違う匂いがあったからとかではなくてッ……」
すかさず泣きながらも慌てた空生が、
「そうなの! そうなんです! 毛繕いが嫌とかではなくて、その……新しい人間の女性がいるのかもって思ってしまっていて!! 私の方こそ勝手に誤解をしてしまって、ルナさんにも、倭久にも……本当にッごめんなさいッッ!!」
猛省する空生を見て、倭久も、
「ルナ……俺の寝言が妻に誤解を与えただけだから君のせいじゃないんだよ。ごめんな、ビックリさせて……。だから、出て行かなくても大丈夫だ。……ところで、どうしてルナはここに……? あっ、もしかして、か・ま・るぅー……」
シャッッ!!
俺は最大限の爪を出し、倭久の顔の前で空気を斬るように空振らせたのだった。驚いた倭久は尻もちをつき、
「夏丸ッッ!」
「倭久ッ!!」
ルナと空生が同時に叫び、呆然としていた倭久に俺は、
「何の確証もない話をお前はベラベラと……分かっているよなぁ……」
俺の圧に、無言でコクコクと頷く倭久。
「茶化さないでいたら許してやるッ! お陰で良い方向に転がったからな……空振りで怒りを収めておいてやるわ」
「わ、分かった……。い、良い方向にいけて良かったですぅー……」
驚いたルナは、
「夏丸ッ! それは良くないわ!! なんて乱暴なッッ……」
「良いんだよ。いらん事をベラベラと喋るコイツにはこれくらいがちょうど良いんだ。倭久と空生ッッ!!」
「「ハイッ!!」」
「これからはお互いに思っている事はちゃんと言い合えッッ! 周りに迷惑を掛けんなッ、分かったかッッ!?」
「「ハイッッ」」
二人して良い返事を返してくれて、面白かった。それから自宅へと戻り、時士と桜々にルナを紹介したのだった。二人とも快く迎え入れてくれ、俺はそれがとても嬉しくて、ルナも安堵したようだった。
これから先は彼女の気持ちを聞かなければ分からないが、……どんな返事であったとしても、ミー母さんと約束をした。だから、それを守る為にも俺はしっかり研鑽を積んで励んでいく……そう誓いを立てたのだった。
お! 帰るか? ごめんな、こんなに長く連れ回した挙句に争いにも巻き込んで……。気をつけて帰れな! シーヤ!
お読み頂き、ありがとうございます!




