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十七室目 鐵湖大郎くん 能力の発現とヴァルハラ

 本日も朝から激しい雨に見舞われております。

 湖大郎くんが学校へ来なくなって一週間が経ちました……。幸慈もかなり心配をしていましたが、体調を崩してお休みしているとだけ、担任の先生から伝えられたのだそうです。

 

 私は朝の掃除も出来ずに、心晴れぬまま過ごしていますと、

 

「……ゔニャアーん……」

 

 夏丸がずぶ濡れになりながら、帰って来たのでございました。水に濡れる事は苦手ですから、雨の日に出掛けるなど絶対にしないはずですのに……。出掛けていた事に驚きながらも私は慌ててタオルとお風呂を用意しようとしましたら、

 

「風呂は沸かすんじゃねーゾッ! こんなん舐めときゃすぐに乾く! それよか緊急の話があるんだ!! あの湖大郎とかいうヤツ、やべぇ状態だぞ!? お前、予知とかの把握能力は来てねぇのか!?」

 

「その能力は不安定なんですよ……波長を受け取る時もあるし、全くのスルーな時もありまして……。とりあえず、タオルで体を拭きましょう」

 

「おぉ、済まんな。でもよ、強く波長を読み取ってみりゃ出来たりとかはしねぇのか?」

 

「こればかりは自分の思うように、なかなかうまくいかないんですよ……」

 

「そうなのか……。あ、いやッ、そんな事よりもアイツ!! 顔面が腫れ上がったまま、布団に寝てたぞ!?」

 

「えっ!? 夏丸がどうしてッッ……」

 

「今朝、ユキに懇願されたんだよ……。どうしても状況が知りたいって、泣きじゃくりながらさぁ……」

 

「あぁ、だから泣き顔で朝の食卓に来てたんですね……。それでどうやって知ったんですか……まさか?!」

 

「キッチン窓が空いてたからな! 留守を狙って入ってみたんだよ。そしたら、意識ないまま顔を腫れ上がらせて寝てんだよ! 動かないし、早く知らせないとと思って、慌てて帰って来たんだよッ!」

 

「それはマズい状況ですね……。急ぎソラを呼んで下さいッ」


 私は夏丸に空生を呼びに行ってもらい、それから桜々さんに事情を話をして、うちの空いている部屋を整えてもらうようお願いをし、空生が慌てて駆け付けてくれたまま、すぐに湖大郎くんの部屋へと行ったのでございました。

 

 すると、そこには顔の腫れ上がった湖大郎くんが何とか息をしている状態で寝ておりました。母親と男性はこの状態の湖大郎くんを放置して二人で出掛けているようでございました。こちらにとってみましたら好都合でございましたが、……この小さな体で痛みと苦しみにひとり耐えながら過ごしていたのかと思うと、涙が出てくるのでございました。

 

「……父さん」

 

「あ、あぁ、ごめんね……」

 

「……私の方こそ……ごめんなさいッ! ……こんな事になったのは……」

 

「うん……そうだね。違う……とは言えないですね。少なからず意に沿わぬ片棒を担いでしまったようです……。二度とッ……同じ轍を踏むのではないのですよ?」

 

「はいッ。……ウッ、……ウッ……ごめん、ごめんね、湖大郎くん……」

 

「さぁ、二人が帰ってくる前に運びましょう……」


 ゆっくりと湖大郎くんを抱えましたら、非常に軽く、……私はまた涙が込み上げるのでございました。空生も涙を止める事が出来ず、二人で泣きながら、湖大郎くんを抱え、自宅へと戻ったのでございました。

 

 それからすぐに顔を冷やしたり、桜々さんの能力で痛みをコントロールして貰ったりしていましたが、腫れ上がった顔はそのままで力なく、呼吸も辛そうに横たわっていたままでしたが、少しは落ち着いたようでありました。その間に、空生と倭久には湿布や塗り薬などを、桜々さんには着替えや必要なものの買い出しに出て貰い、そこへ幸慈が早帰りの日だった為、帰って来たのでございました。バタバタとしていた私に気付き、すぐさま何があったのか把握したようで、湖大郎くんが寝ている所へと駆け込んで行ったのでした。

 

「コタッッ!!」

 

「ユキ! 帰って来てすぐに悪いのですが、みんな出ていますので、見ていて貰えますか? やはり病院へ連れて行こうと思います。連絡をしてみるので……」

 

「分かった! みてるからッッ」

 

 そう言って、真剣な顔をして湖大郎くんへ必死に呼び掛けていたのでございました。私はそのまま幸慈に任せ、病院を探して、連絡をしようとしかけた時、

 

「父さんッ! 父さァアアんッッ!!」

 

 幸慈が叫び、私を呼んだのでした。最悪な事態が起こったのだと慌てた私は、すぐさま部屋へと駆け付けました。するとそこには、腫れ上がった顔ではなく、いつもの湖大郎くんの顔に変わっていて、穏やかにスヤスヤと寝息を立てており、唖然としたのでございました。確かに先程までは顔が腫れ上がり、呼吸も辛そうにしていたはずでしたが……。私には何が起こったのか分かりませんでした。唖然とする私に幸慈が、

 

「あ、あのね……手を握って、話し掛けていたら、スーッと顔がね……いつものコタになったの……。僕、ビックリしたから、お父さんを呼んだんだけど……。何が起きたんだろう……」

 

「ユキが手を……?」

 

「うん、握ってたの……」

 

「ッ!? もしかしてッッ……。いや、でも……」

 

「どうしたの?」

 

「いや、あり得るッ……ユキ! 湖大郎くんの左腕のここに青アザがまだあります。その青アザが消えるように願いながら、手を握ってあげて貰えますか?」

 

「う、うん……」

 

 そうして手を握って、願うように幸慈が目を瞑ると、スゥーッと青アザは消えていったのでございました。驚いた私は、すぐさま幸慈を抱き寄せ、

 

「おめでとうッ、ユキ! 能力が発現しましたねッッ」

 

「えっ? えっ……ええッ!?」

 

「ユキの能力はヒーリング治癒なんです! 人を癒し治す力なんですよッッ。ユキは、父さんの父さんであるお祖父さんと同じ能力ですッ」

 

「えっ、……本当に? 僕、本当に能力が??」

 

「間違いありませんッ! おめでとう、ユキッ」

 

「ウソ……だって……僕……」

 

「言ったでしょう? 慌てる事はないって。……まだ信じられませんか?」

 

「……うん」

 

「では、ユキ。湖大郎くんに残るアザや傷の全てを綺麗に治してあげたいと願いながら、手を握ってごらん……」

 

 恐る恐る手を握り、目を瞑ると、右腕や体に増えていた無数のアザや傷が流れ消えゆくように綺麗な状態へと変化していったのでございました。

 

「……納得、出来ましたか?」

 

「……うん、……うんッッ!!」

 

「おめでとう、ユキィー!!」

 

「ありがとう、お父さんッッ」

 

 そうして、二人で喜びながら抱き合っているところへ、桜々さんが帰って来て、(はしゃ)ぐ私たちを見つけ、怒って、

 

「二人とも何を燥いでいるのよッッ! 苦しんでいる湖大郎くんの側で何を騒いで……ッッ!? えっ、何ッ!? どう言う事ッ!? 顔が……ッ」

 

「母さんッ! 僕だよ、僕ッ! 僕が治したんだよッッ」

 

「え……」

 

「綺麗に治りますようにって願いながら手を握ったらね、スゥーッて!!」

 

「えっ……ユキが……? 時士さん……一体……」

 

「能力が発現したんです。それも今し方! ユキはヒーリング治癒の能力を発現させたんですよ」

 

「本当にッ?! ユキッ……ユキがッ……。……おめでとう……おめでとう、ユキッ! ……ウッ……良かった、良かったねぇ……ウッウッ」

 

「……お母さん、……泣かないで……」

 

「これはね、嬉し泣きなのよ。心配しないで……ウッ……本当に……良かった……」

 

 そうして幸慈を抱き締め、笑顔で涙を流すのでございました。桜々さんも表面上は気にする素振りを見せずにいましたが、母としてやはりとても心配していたのでしょう。

 買い物を終えた空生と倭久も帰って来て、部屋に入るなり驚いたのでございました。幸慈の能力が発現した事によって救われた旨を伝えると、呆然としていた空生はその場に泣き崩れ、幸慈を抱き締めてお礼を言うのでございました。湖大郎くんの惨い姿は自分の責任でもあるとかなり落ち込んでいたようでもありましたので……本当にいい方向へと向かい、安堵したのでございました。


 そこから次の朝まで目覚める事はなく眠っていましたが、目覚めてすぐに湖大郎くんは混乱したようで、

 

「お母さんはッ!? どこに行ったのッ……お母さんはどこに行ってるのッ!? ……迎えに来てッッ、迎えに来てよ、お母さんッ……お母さんッッ……」

 

 と、そう叫びながら泣いたのでございました。その悲痛な声は痛々しく、状況を話すと落ち着いてくれはしましたが、かなり落ち込んだような様子でございました。何日も食べていなかったようでしたので、起き上がって帰れる状態にもなく、時折、寝床から聞こえる小さく呟く〝お母さん〟と呼ぶ声が私の胸へと深く……深く突き刺さったのでございました。本日の雨が湖大郎くんの心模様を表しているかのようでございました。居ても立っても居られなくなった私は、暫くは動けるようになるまでは安静にすること、そして治れば帰りましょうねとだけ伝え、部屋を後にしたのでございました。


 あの母親の元へと帰すべきか、これからどうしたら良いのか……夕方まで悩んでいた私に、

 

「俺の出番かな?」

 

 そう言って学校から帰って来た幸雅から声を掛けられたのでございました。

 

「コウ……。そう……ですね。それしか方法がないかもしれません……」

 

「……んー、それともう一つだね! 離れているお父さんに連絡を取ってあげるってのはどうかな?」

 

「あっ……そうでしたね……。それも……」

 

「父さんさ……。……子どもにとってみたらね、お母さんは特別なんだよ。離れる不安もあるし、弱っている時に呼んでしまうのは当たり前の事なんじゃないかな。……入り込みすぎても良くないと思うよ?」

 

「コウ……」

 

「父さんもこの年頃にお母さんと別れてしまったから、入り込むのも分からないではないんだけど、……手を差し伸べてあげれる側にいるのなら、冷静に判断して、どうしたら湖大郎くんにとって良いのか、しっかり考えてあげないと! 頭をスッキリさせてさ」

 

「そうですね……。本当に……その通りですね……。……うん、よしッッ! まずは父親探しですね! ヴァルハラにお願いしてみましょう」

 

「ゲッ!! ……ヴ、ヴァルハラに?」

 

「一番情報源の多い組織ですからね。父親探しなんてすぐですよ」

 

「俺はちょっとぉ……苦手なんだよねぇー……」

 

「アハハハ! 大丈夫ですよ。今回は私が連絡して行きますから。留守を頼みますね」

 

「ふぅー、良かった。留守は任せて!」

 

 そうして、私はすぐにヴァルハラへ向かいながら秘書の方に連絡をし、すぐさま施設長へと取り継いで貰い、情報を頂いたのでございました……が、代わりに血液採取に協力をさせられたのでした。注射嫌いなのに……ぴえん。

 えっ!? この前からぴえんと言ってるのは古いと思ってたですとッ!? オッサンが使うと可愛いから良いんですッッ!! 失敬なッ!

うーん…改行( ´ʖ̫` )

お読み下さり、ありがとうございます!

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