すぐチェックメイトって言いたがる迷探偵
「なろうラジオ大賞4」応募作品です。
コメディー。
「ふーむ。下野さん。
被害者の男性は背後から後頭部を一撃。ほぼ即死のようですね。凶器は被害者の側に落ちていた大きな灰皿で間違いないでしょう」
「なるほどなるほど」
偶然殺人事件に遭遇する率全国ナンバーワン。彼がいると周囲がざわつく。
歩けば迷惑のかかる探偵。
人は彼のことを侮蔑の意味をこめてこう呼ぶ。
『迷探偵下野』と。
「金属製で重さのある灰皿。思いきり振れば相手を即死させることは可能でしょうね。現に灰皿はへこみ、大量の血痕もついています」
そして、そんな下野に説明しているのは彼を陰から支える助手の巽。
迷探偵の良心と言われ、唯一の常識人として毎度毎度下野をサポートしている。
「また、窓にもドアにも鍵がかかっており、完全な密し……」
「チェックメイトだ!」
「……はい?」
巽の説明を遮り、下野はビシッと巽に人差し指を向けながら声高に叫んだ。
「いくら金属製の灰皿とはいえ、この大きさの灰皿を持ち上げて被害者の男性の後頭部を叩くことができるのは男性だろう!
犯人は男性! これで決まりだ!」
鼻息を荒くし、ガン決まりの目をギラギラと見開きながら下野が叫ぶ。
「……容疑者は全部で4人。その中に男性は3人ですが……」
「……続けてくれ」
「……えー、部屋は完全な密室でした。抜け道の類いもありません。天井に換気口はありますが……」
「チェックメイトだ!」
「……で?」
巽は突っ込むのをやめた。
「犯人は換気口から部屋に侵入した! その換気口を通ることができたのは女性だけ! 容疑者の中に女性は1人! 決まりだ!」
「……お手伝いさんは他の3人の男性よりも、その、ふくよかです。あと、換気口は狭すぎて人が通れるようなものではありません」
「……もう誰でもよくね?」
「おおう……」
考えるのがめんどくさくなった下野。ため息を吐く巽。
「……では、私がさっさと解決してきてしまいますね」
「チェックメイトだけは僕に言わせてくれよ!」
そうして2人は容疑者が集まる部屋に赴き、巽が秒で犯人を特定し、下野は誰も聞いていないが「チェックメイトだ!」と叫んでご満悦だった。
「たつみー。僕が取っておいたプリン知らないかー?」
事件を解決して事務所に帰った2人。
下野は楽しみに取っておいたプリンがなくなっていることに気が付いた。
「ふふぃん? ふぃふぃふぁふぇん」
一口で頬張った何かをもごもごさせながら首を振る巽。
「チェックメイトだ~~!!」




