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連載未定の短編集

【短編】限界ダーリン!

作者: たみえ


 陽光も差さないようなマーブルで暗黒の世界。そこにぽつんと佇むふたつの光があった。

 一つは宙から見下し、もう一つは暗黒マーブルのような地面に膝を付き、宙の光を息絶え絶えながらも必死の形相で見上げていた。


「――はぁ、はぁ、」

「いい加減諦めて下さい、……ボクを」

「やだ!」


 そのやり取りを合図に再び二つの光が交差し、激しい戦闘が繰り広げられる。劣勢なのは地に膝を付いていた光、黒い髪に黒い目を持つ平凡な容姿の小柄な少女のほうであった。

 対するは薄金の髪を揺らし、静かな銀の瞳で無感情に少女を見下す眉目秀麗な青年。少女と開戦した当初から圧倒的に有利な立場であった。


「たぁ!」

「――甘い」

「きゃっ!?」


 何度も何度も挑みかかる少女に対し、青年は何度も何度も機械的に返り討ちにする。幾度となく繰り返された戦い。

 常ならば、一定の時間で少女は退散し日を改めてまた挑みかかる。それが青年の最も記憶の濃い日常の茶飯事であった。

 ――そろそろ、時間だ。


 慣れたもので、青年は()()()()()()()致命傷一歩手前のダメージを負わせるべく、少女に近付いた。これを行えば、さすがの少女も撤退を余儀なくされる。

 集中力も切れている様子の少女と、これ以上戦っても意味がない。

 ……意味がない?


 ――ふと、いつもは何も感じない考えない己が無駄な思考をしていることに疑問を抱いた。


 それが唯一にして無二、最初で最後の青年の油断であった。


「貰ったああああああああああ!!」

「――ッ」


 少女の声に瞬時に正気を取り戻し、青年は条件反射で対処しようとした。……しようとして、またしてもふと、考えてしまった。

 ――もう、いいのではないだろうか。


 力を籠めたはずの武器は滑稽なほどに見事な空回りをした。少女は興奮で気付いていない。少女の武器が迫り、――ああ、これで死ぬのか。

 飽きもせず、何千年も必死に挑みかかって来たこの少女になら負けてもいい。青年は死を受け入れた。――が。


「……?」


 いつまで経っても痛みも熱も、衝撃さえも感じなかった。いつの間にか閉じていた目を開けると、顔色を真っ赤に染めた少女と目が合った。その顔をじっと見ていると増々赤くなってしまい、状況が理解出来ない。

 青年が反応出来ず固まっていると、意を決したように少女が身体を近付けた。


 ちゅっ。


 そんな可愛らしい擬音を青年は錯覚した。


「よ、よよよ、よろしくお願いします!」

「……よろしくお願いします」


 触れられた額にそっと触れながら、青年は機械的に返事をした。


 ◇◆◇◆◇


 やったああああああああ!


「ついに! ついに我が理想の推し、ユウリ様を攻略してやったぜ!」


 ぐふふふ、と奇妙な笑い声を上げる少女こと御神(みかみ)(はな)は華美なイラストの載ったパッケージ片手にゴロゴロとベッドの上で悶えていた。

 華が持っているパッケージには『限界ダーリン!』の文字がデカデカとあった。


 さらにパッケージをひっくり返すと、裏には概要として『あなたの理想の王子様(ダーリン)を創造して、会いに行こう。彼はあなたの選択によって色んな場所で待ち受けている。彼を救いに、いざ! 世界を回ろう!』と書いてあった。


 一言で表してしまえば、新感覚の乙女ゲー。

 もう少し詳しく説明すると、攻略対象を容姿や性格、種族やステータス等諸々含めて全て好みで詳細にキャラクリし、そのキャラをRPGのような世界を回りながら捜し回って攻略するというファンタジー系のゲームである。


 イラストゲーが殆どで、選択肢を押せば愛が確約されるような乙女ゲームはもはや古い。『愛は自ら掴み取るもの!』というコンセプトのもと開発されたこのゲームは、最終的に相手と闘い、弱らせたところを告白するという迷走ゲームでもあった。

 ちなみに、とある廃人ゲーマー層の為に新しくギャルゲー版とDLコンテンツとして主人公が男版も発売予定である。


 閑話休題。


 そんなわけで、理想の王子様(ダーリン)を創造! なんて恐れ多いゲーム! と思いつつも溜めていたお小遣いを使って遅ればせながら購入した華はどっぷりドはまりした。RPGに。

 最初は適当にキャラクリしてゲームを始めたはいいものの、すぐに物足りなくなった。何故なら、ラスボスが王子様(ダーリン)


 しかし、ステータス含めて初心者だからとかなり甘めに設定していた華は序盤で呆気なく王子様(ダーリン)を攻略してしまった。

 勿論、弱くても殆ど最初から一緒に旅が出来る仲間になるということを鑑みれば、乙女ゲーとしては全く問題ない。むしろ初心者に頗る優しいまである。


 目的でもあり、ラスボスでもあるはずの王子様(ダーリン)が弱いのは全く問題無い。無いのだが……いかんせん、攻略した甲斐が無い。あっさり堕ちたからだ。

 華は新しくセーブテータをつくることにした。


 ――今度は本気で攻略したいキャラにしないと。


 そんなわけで華の寝食を忘れた三日にも及ぶ試行錯誤により誕生したのがユウリ様であった。


 名:ユウリ 姓:(未定)

 容姿:薄金の髪(長髪+髪留め)、銀の瞳(鋭い)、182cm、痩せ型

 性格:寡黙、優しい、天然、器用、うっかり

 特技:料理、鍛冶、戦、商売、建築、etc……

 武器:神剣ー左手『鳴神(なるかみ)』ー右手『天魔(てんま)

 種族:天魔

 ステータス:全てカンスト(99999)


 どうせなら究極にかっこいい旦那をつくったろ! という軽い意気込みでキャラクリしたユウリ様は、とんでもないインフレ上等な怪物に仕上がった。

 設定をいじくっている間はとてもわくわくしたが、完成をぽちっと押した後でズラリと表示された「この設定でいいですか?」という確認画面には思わず自分にドン引きしてしまった。

 これは、間違っても誰かに見せられるようなものではない。


 SNSで数多のプレイヤーが自身の旦那を自慢していたが、華にこれを晒す勇気は流石に無かった。というか、自分一人で楽しむおひとり様用のゲームなんだからSNSに晒すな! こっちが見てて恥ずかしくなりそう……。

 ネタで晒すならともかく、絶妙に所々本気なのがバレバレである。ぶんぶんと頭を振って、キャラクリ前に出来たらSNSにアップしよ、という未遂の考えを封印した。


 そんなわけで開始された乙女ゲームは、既プレイではあったものの新鮮な気持ちで遊ぶことが出来た。というより、カンストしてるユウリ様をお迎えしに行くには自分のステータスをどうにかするのがまず先である。


 途中から、「あれ? これって無双ゲーだったっけ?」という疑問を抱くような蹂躙をモブに繰り広げつつ地道にレベル上げを行っていった結果、ついに4000時間強をかけてユウリ様を攻略出来たのだ。

 休みの日は勿論、平日も隙間時間を見つけては低レベル帯からずっと毎日ひたすらユウリ様に挑みかかったおかげか、一年くらい経ってようやっと攻略することが出来た。


 レベルのカンスト自体はもっと早い段階で叶ったのだが、いかんせん、AIのプログラムが優秀なのか、それとも華の操作が下手だったせいなのか、コマンド形式ではなく、直接操作の戦闘で中々勝てずに毎回返り討ちに合っていた。

 そんなこんなな積み重ねによってやっと降って湧いた隙を見逃さずに果敢に挑んだ結果、バグなのか仕様なのか、一時的に固まった無防備なユウリ様に接近することが出来たのだ。


「あああああ、それにしても久々にユウリ様があんな近くにいいいいいい!! やああああああばばばばば」


 華は達成感も相まって思考が壊れた。


 自ら作った最強のラスボスとして対峙していたこともあり、これが乙女ゲーであることを攻略寸前まで忘れていた華は、せっかく生じたユウリ様の隙に懐に潜り込んだはいいものの、あまりの顔面偏差値の暴力にコントローラーを持ったまま固まってユウリ様を凝視してしまった。

 不思議なことに反撃は無かった。なので思う存分キャプチャーしてしまった。後でデータを移して額縁に飾ろう。眼福である。


 そんなこんなで両者固まっていたのだが、ユウリ様が目を開き、動きを見せた。まずい! と咄嗟に思った華は「このチャンス、逃すものか!」という勢いのまま攻略完了を意味する契約のキスを送った。――額に。

 場所は特に決まっていないため、猛者はそのままぶっちゅーといくらしいのだが、華は無理だった。画面にドアップで映されたユウリ様にそんなこと、恐れ多すぎる、と。


「やああああああ、まあああああああ、あああああああ」


 もはやユウリ様のドアップが脳裏に度々チラつくせいで華の語彙力は彼方に飛んでしまっていた。


「……ふぅ。とりあえず、風呂入ろ」


 一時的に正気に戻った華は、今の内にと風呂に入ることにした。


 ◇◆◇◆◇


 ゆさゆさ、ゆさゆさ。


「――」

「んー」


 ゆさゆさ、ゆさゆさ。

 ……もしかして、お母さん?


「――」

「んぅ」


 いまいい感じだからもうちょっとほっといて……。


「――」

「んー」


 あ、なんか呆れてる? ごめん、お母さん、ずっと寝不足で眠くて……。


「――な」

「ん……?」


 ……あれ。なんか、声、違くない……?


 お湯で温まってうつらうつらする意識に、なんとか気力を集めて目を開ける。……ん?


「……」


 目の錯覚だろうか。それとも、毎日狂ったように挑み過ぎてついには幻覚でも見始めたのだろうか。……いや、夢だ。これは確実に夢だ。

 だって、――

 

「ハナ」


 ごしごし。目を擦っても消えない。

 ぱしぱし。瞬きを繰り返しても消えない。

 カッ! 目を見開いて凝視しても消えない。


 えっ。


「ゆ、ゆゆゆゆゆ」


 ゆゆゆゆユウリ様が、ふ、ふろ、我が家の風呂に……!


「湯冷めしますよ」

「や、えっ、え、ええええええ?!」


 こんな夢、アリだろうか。これはご褒美か? ご褒美なのか!?

 おお、神よ、ありがとう。夢にこんなリアルなユウリ様が出てくるなんて、私の余命は間近なのでしょうか。

 嬉しいけども、恐れ多い! こんな近くにユウリ様が!


 夢であると分かりつつも、興奮が治まらない。そんな狂喜乱舞に気付いているのかいないのか、ユウリ様がスッと頬に手を当ててきて目を細めて言う。


「こんなに顔を赤くして……体に悪いですよ。自分を大切にしないのは感心しませんね」


 ぴゃっ!


「で、出ます! 今すぐ出ます!」


 夢にしては妙に背筋が冷たくなってきた。現実で本当に体調が悪くなっているかもしれない。名残惜しいが、起きないとヤバいかもしれない。

 そう思ってすぐさま慌てて湯船の淵に手を掛け出ようとしたが、どこから出現したのか、大きなタオルをばさりとユウリ様に頭から被せられた。


「これから一緒に暮らすとはいえ、もう少し恥じらいを持って下さい」

「ええっ!!」


 これから! 一緒に! 暮らす!


 それはどんな徳を積めば手に入れられる特典なのでしょうか!?


 夢だからこそなのか、大盤振る舞いである。……なんてことだ。まだ目覚めたくない! 物凄い誘惑に葛藤!


「失礼しますね」

「ひゃぁっ?」


 急に視界が高くなり、足が地を離れた衝撃で変な奇声が漏れてしまった。気付けばユウリ様の顔が近くに……近くに?


「えっ、あっ、あ、えっ」

「大人しくしていてください。運びますから」

「ひゃいっ」


 間近に響く好きな声優さんの声に設定したユウリ様の声が、脳天から痺れるように伝わって腰が抜けたかもしれない。破壊力がヤバい。

 落ち着け、私。これは夢だ。びーくーる。いっつどりーむ。かむとぅるー。じゃなくて、りらーっくす! これは夢! 今すぐ起きろ!

 このままじゃ夢とはいえ推しの供給過多で尊死を遂げてしまう……!


 ぱちん。ぺちん。ぎゅむっ。


「……何をしているんですか」

「へっ? あ、いえ、ごめんなさい。起きようと思って……」


 あれ? 頬や頭を叩いても、抓ってもなんだか痛いぞ。


「赤くなってしまうでしょう。やめてください」

「ごめんなさいっ」


 ユウリ様の冷たい視線に条件反射で謝罪をしてしまう。……しかし、しかしだ。ことここに至って阿呆にもほどがあるが、周囲が我が家ではないことに初めて気付いた。

 いや、ある意味我が家ではあるのだが、正確には現実の我が家ではなく――ゲームの中の我が家に似てる家? えっ、なんで?


 混乱する頭で周囲をきょろきょろと見渡すが、ますます見た事があるゲーム内で飾ったはずの謎オブジェに様々な部屋が埋め尽くされていることに気付いた。

 そうして最終的にユウリ様に運ばれて移動した先はゲーム内の自室であった。


「では、ボクは買い物に行ってきますが、ちゃんと着替えて待っていてくださいね」

「あっ、はい……」


 スーっとユウリ様が障子風ドアを閉めて出ていった。急な手持無沙汰にとりあえず服着てるうちにどこかで勝手に目が覚めるでしょ、という楽観で着替えることにした。

 しかし、着替え終わっても。家の中を隅々まで探検しても。ユウリ様が帰ってきてご飯を一緒に食べても。夢の中で寝るという謎の状態で次の日に起きても。その次も、次も更に次も――ついぞ、夢が覚めることは無かった。


 ……あれ? え? あれれぇ?


「ハナ。今日はどうしますか?」

「えっ……どうって」


 ――帰りたい。起きたい。


 これは夢ではないかもしれないと冷静になった頭が、思考が、どうしようもなく現実の家族に繋がる。

 今、現実の私はどうなっているのだろう。まさか、死んでないよね? 原因不明で意識が混濁して入院とかしてるのかもしれない。

 ――分からない。怖い。どうしよう。


「……ハナ」

「……」

「ハナ……」


 あんなに推していたはずのユウリ様の声が何故か煩わしい。


 ――なんで。どうして。


 ユウリ様に掴みかかって、「どういうこと!?」って叫びたい。でも、出来ない。……とても心配そうに、ユウリ様のほうが苦しそうとでも言いたげにこちらを見つめるから。何も言えない。


「……一人にして」

「……分かりました。何かあればすぐに呼んで下さいね。――いつまでも待ってますから」

「……」


 ユウリ様に何も返事をせず、私はここ数日前から使い始めた新たな自室に引きこもった――。


 ◇◆◇◆◇


 色々考えた。


 これは長い長い夢で、ふとした瞬間に目が覚める、だとか。実はとっくに死んでいて、ここはあの世で見てる白昼夢だった、とか。もしくはこちらが現実で、あちらが夢だったのか、とか。

 ぐるぐるぐるぐる、答えの無い考え事をし続けた。


 その間、いつの間にか自室に暖かいご飯が置かれていた。ユウリ様ほどのオーラがあれば気付かないはずがないのだが、気遣ってくれたのかもしれない。

 湯気でほわほわするご飯を見つけてすぐにぐぅ、と可愛い音が鳴った。夢であってもお腹は空くのが笑える。まるでこちらが現実だと非情に告げているようで。顔が酷く歪む。

 歪んだ顔のまま、食欲に負けて暖かいご飯に手を付けた。


 ――美味しい。


 何の素材なのか分からない。なのに流石ユウリ様、見たことも無い謎の料理なのに悔しいくらいに美味しい。……気付けば、ぽたぽたと手の甲が濡れていた。


「あ……」


 ――もう、戻れないのかもしれない。


 そう考えないように色々考えてみたけど、やっぱり名案は浮かばなくて、急に不貞腐れて、絶望して、酷い態度で何もする気の起きない私を見捨てずに、日々何も言わず甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるユウリ様。

 こんなことでって思うかもしれない。けれど、私は彼に絆されたのかもしれない。悲しいのに、もういいやって思ってる自分がいた。


「ユウリ様……」

「……ハナ? どうしましたか?」

「ふ、ふふ……」


 名を呼べば、慌てた様子でほんとにすぐやってきてくれたユウリ様。


「どこか具合でも……」

「――ねえ、ユウリ様」


 探せば可能性が無いことも無いのかもしれない。けれど、もう戻れない。そう考えたほうがいつまでも無い希望を持つよりは精神衛生上断然に良かった。


「私、この世界でひとりぼっちです」


 最初の数日は必死になって世界地図を広げ、地名、文化、国名、ありとあらゆるものを出来る限り調べた。

 幸い、ゲームで買って住んでいたのは特別な古城で、飾りの為に書籍もたんまり買っていたから、おかげで調べることに時間は掛からなかった。


「大事な家族や友人は、皆この世界にはいません」

「――ハナ」


 そうして絶望した。本当にゲームとそっくり――同じだったから。でたらめな大陸の数と現実では存在しない国々。果てはファンタジーの存在まで。

 こういうとき、本物の主人公とかであれば「異世界転生キタコレww」とか言って乗り切っていくのだろうか。


 私はそんな楽観的に出来なかった。だって、この世界は現実だ。ぬくぬくと平和な日本で育ったただのゲーム好きな平凡な女の子にこの世界は酷だ。

 ――怖い。一歩出るだけで盗賊からドラゴンに至るまで、あらゆる危険に遭遇するかもしれないような世界が怖くない一般人なんていないだろう。


「私には、この世界で大事なものは何もありません」


 ユウリ様から悲し気で悲愴なオーラが漂う。


「……ハナ。ボクは――」

「だからユウリ様」


 ユウリ様が何かを言う前に、私は言葉を続けた。心なしか、ユウリ様の目が怯えているように感じられた。


「――この世界で、私の唯一で大事な人になってくれませんか?」

「――!」


 ユウリ様が息を呑んで固まった。


 ……返事が怖い。ここでユウリ様に見捨てられれば、この世界の常識や知識をゲームでしか知らない私は異世界で野垂れ死ぬしかなくなる可能性が高い。

 ぎゅっと握った服は毎日洗濯をしてくれるユウリ様のお陰で綺麗だ。皺を作ってしまって申し訳ない。今この瞬間だけは許してほしい。


「――ハナ」


 知らず知らず、ごくりと唾を嚥下していた。返事が、来る。


「ボクは貴方のものです。ボクの大事な人はハナだけです、だから――」


 ホッと、籠めていた力が抜けた。


 少なくとも、ユウリ様が私を見捨てることは無さそう。そんな安心を得たことで油断したのがいけなかったのか、ユウリ様は珍しくとても良い笑顔で爆弾発言を続けた。


「だから――結婚しましょう」

「は、いっ……?」


 なんでそうなったのか。


 唯一残っていた想い、この世界で(推しとして推していい)大事な人になってくださいとお願いしたはずが、気付けばいつの間にかそういう話になってしまった。

 ――その後、慌ててしっかり意味を訂正し、推しと結婚なんてとんでもない! と恐縮して一度断ったものの、「では、正式なお付き合いから始めましょう」という流れに持っていかれたのは言うまでも無い。


 返事を迫ったはずが迫られる側となり、一転してユウリ様に翻弄されることとなったため、せっかくだからと言い訳して世界に飛び(逃げ)出し、結局一緒に旅することになったり、なんやかんやあって結ばれることになるのはまだこの時の華は知らない先のお話であったとさ。おしまい。


 ー完ー

評価、感想、もしくはいいね、是非お願いします!

面白い、面白くないの一言だけでも是非お願いします!




この作品については今のところこれで完結。

続きはどうしようかと考えましたが、他の作品もあるのでよほどでなければ続きは書かないと思います。

よろしければ他の作品も是非。


こんな設定の乙女ゲームがあれば、作者が遊びたい。

誰か作ってくれないだろうか……。

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