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【短編版】出遅れすぎた勇者のリトライ計画~おっちょこちょいの巫女のせいで召喚が遅れる。「待たせたな」「もう魔王倒したんで帰っていいですよ」からはじまる異世界転生記~

作者: 友理 潤

パイロット版です。よろしくお願いいたします。


 ――いにしえの勇者よ。我が求めに応じて降臨せよ。魔王を討ち、世に平和をもたらすのだ! アンタラ、カンタラ、クンタラ~~。ンニャアーーーー!!



 ふざけてるとしか思えないが、この世界でのれっきとした勇者召喚の呪文だ。


 勇者召喚の儀式では、猫を模したモフモフの衣装を着た巫女が、奇妙な踊りをしながら、この呪文を一字一句間違わずに言わなくてはならない。


 もし間違えたらその時点で儀式は終了。

 次に同じ儀式ができるのは5日後とのこと。


 難易度高いと思うよ。

 俺だったら「アンタラ」のところでバカバカしすぎて思わず噴き出すだろうしな。


 けど、それも1度や2度ぐらいなもの。

 さすがに3度目ともなれば成功させる自信がある。

 たとえ極度のあがり症かつ運動音痴の俺、坂本透哉さかもととうやであってもだ。


 しかし、今、水晶の向こうで召喚の儀式を行っている巫女シャルルは何度やってもダメだった。



「アンタラ、カンタラ……………キ、キン〇マ~~」


「ぶふっっ! 間違え方に気をつけろ!! 危うく今朝飲んだコーヒーが逆流するところだっただろ!!」


 水晶に向かってツッコむ。

 しかし当の本人には聞こえていない。


「あれ? おかしいな。なんでダメだったのかしら?」


 モフモフの衣装のまま首をかしげるシャルル。


 見た目からして20歳の俺よりちょっと下くらいだろうか。

 大きな瞳をぱちくりさせながら、可愛らしい顔をしかめている。


「いやいや、圧倒的にダメすぎだろ。っつーかこっちの世界にはキン〇マって単語がないのか?」


「そんなわけないわ。だって言ったでしょ? トーヤの住んでた世界とこっちの世界では言葉が一緒だって」


 背後から「やれやれ」といった風にため息交じりに声をかけてきたのは、この世界の女神イリア。


「またダメだったのね。あのおっちょこちょい巫女」


 青色の長い髪をいじりながら、俺の隣に腰かけた。


 ふわりと柑橘系の匂いがしてドキっとする。

 すらりと伸びた足にほどよい形をした胸が否応なしに目に入り、余計にドキドキしてきた。


 しかしそんな俺のいやらしい視線を鋭く見抜いた彼女は「ふん」と鼻を鳴らす。


「私に惚れるのはやめときなさい。私とあんたじゃ、パリピのセレブ女子とボッチのヒキニートくらいに住むところが違うんだから。分かってる?」


 女神だからって純情な男心を傷つけていいって法律なんてないんだからっ!

 と、口には出さずに心の中で抗議する。


 なぜ言葉が通じるのに口に出さないかって?


 そりゃあ、言った後が怖いからに決まってるだろ。

 だってこの人、とんでもなく強いのを身を持って知ってるから。

 

◇◇


 『孤高のニート』こと、俺をこっちの世界に引っ張ってきたのは、何を隠そうイリアだ。


 いきなり夢の中にあらわれて、

 

 ――ちょっと一緒に来てくれる? あんた暇でしょ? 友達も仕事もないし。


 女神らしからぬ極悪非道な言葉を投げかけた上に、有無を言わさず俺をここへ拉致ったのだ。


 あ、『ここ』っていうのは、いわゆる天界。

 神様たちが住んでる場所、って言ったら分かりやすいかもしれない。


 ――非常に不本意なんだけど、トーヤ、あんたが『勇者』として召喚されることになったから。召喚されたら魔王を倒しなさい。


 拒否権なんてないのは最初から察してた。

 コミュ障だけど無駄に空気を読むスキルだけはあると自負してるからな。


 だが物は考えようだ。

 ツンツンした女神がたとえ不本意だったとしても、俺が勇者に選ばれたのは間違いない。


 つまり俺は勇者になれるってことだ!


 勇者になって魔王を倒す――少年の頃に誰でも一度は憧れたことが現実になるなんて、まさに夢のようじゃないか!


「村では幼馴染の美少女が俺の帰りを待ってくれていて、王城ではお姫様が俺に淡い恋心を抱いていて……ムフフッ! 勇者、最高だぜぇ!」


「はぁ……。これだから童貞をこじらせたヤツって手に負えないのよね」


「おい、待て。女神とやら。童貞なのは認める。だがこじらせてはいないぞ」


「はいはい。とにかく何か勘違いしているようだけど、あんたの役目はただ魔王を倒すことだけよ。それ以外のイベントなんて、何一つ用意してないから」


 純真無垢な冒険心が粉々に砕け散った。


「は? 勇者と言えば、大冒険してから魔王を倒すってのがセオリーだろ?」


「冒険? なんでそんなめんどくさいことさせるのよ? 魔王が出現した洞窟のすぐ近くにある城で召喚されて、当日中に魔王を倒す。その後、巫女が『勇者帰還の儀式』をして、あんたはここに戻ってくる。そしたら私が元の世界に戻してあげるから。感謝しなさい。この私に」


「そりゃ、どうもありがとうございます。……って、はぁぁぁ!? そんなのただのバイトじゃんか!」


「時給はでないけどね。その代わりプライスレスな体験をさせてあげるってわけ。悪い?」


「待て待て! レベルはどうなるんだよ。勇者はレベル1からはじまるんだよな? 魔王を倒すにはそれなりのレベルが必要なんじゃないのか!?」


 イリアがニタリと口角を上げる。

 嫌な予感で背筋に悪寒が走った。


「ほほほ。心配ないわ。勇者召喚の儀式がはじまるのは5日後だもの」


「それがどうした?」


「だからぁ。この私が直々にあんたを鍛えてあげられるってこと――」


 こうして地獄の特訓が幕を上げたわけだ。


◇◇


 今、思い出しただけでも反吐が出そうなほどキツかったよ。

 イリアのしごきは……。

 女神っていうよりは鬼だったな。

 うん、鬼だったよ。

 美女が台無しなくらいにね。


 まあ、でもそのおかげでたった5日でレベル70まで上がったんだよなぁ。

 普通に旅してたら半年はかかるんだそうだ。

 魔王のレベルも同じくらいだって分かってるらしい。


「あとはあんたがヘマさえしなければ対等に戦えるはずよ」


 ヘマってなんだよ?

 確かに手先は不器用だし、人付き合いは悪いし、現実の世界では何をやらせてもダメダメだったよ。


 でも、いや、だからこそ、こっちの世界では魔王を倒して、ちょっとは「こんな自分でもできるんだ」なんて思えるようになりたいんだよ。

 だからヘマなんてするもんか!


 そんな恥ずかしいことをイリアには言えないけどな。



 そうして勇者召喚の儀式が行われる日を迎えた。

 魔法陣の上に立つ。

 ここが地上と行き来するためのドアみたいなものなのだそうだ。


「あんた。思ってたよりは根性あるのね。ほんのちょっぴり見直したわ」


「ははっ。どうせ師匠がいいからって言いたいんだろ?」


「ふんっ。そこまでひねくれてないわよ! ……まあ、とりあえず魔王を倒して無事に帰ってきなさいよね」


「ああ、分かってるって。そうだっ。女神様からひたいにキスしてもらうと加護があるって何かで見たことあるぞ」


 おでこをずいっとイリアに突き出してみた。

 ……が、何の躊躇もなくぺちっとはたかれる。


「調子に乗ってんじゃないわよ!」


 白い頬をピンク色に染めて、ふいっと顔をそらすイリア。

 なかなか可愛いところもあるんだなぁ。

 意外と俺のこと好きだったりして。


 ……って、そんなはずないか。


 だって

『私って理想が高いでしょ。だからいつまでたっても彼氏ができないのよねー』

『やっぱり彼氏にするなら神クラスのイケメンよねー』

 って言ってたし。


 そんなことを考えているうちに、召喚の儀式が行われる部屋を見通せる水晶がほのかに光り出した。

 儀式が始まる合図なんだそうだ。


「お、いよいよだな」


「うん、そのようね。心の準備はいい?」


「ああ!」


 勇者の鎧、勇者の兜、勇者の盾、聖剣『エクスカリバー』、そして『勇者の証』のペンダント――。

 装備も万全だ。


 あとは召喚された後の決め台詞を決めておくことくらいか。



 ――待たせたな。



 一生に一度は言ってみたかった台詞だ。

 うん! これにしよう!

 ついでに立てひざをつけば、ポーズもバッチリだな。


「始まったわよ!!」


 モフモフの衣装を身にまとい、長い赤髪を揺らしながら登場した巫女の少女。

 凛とした表情に、意志の強そうな瞳。

 特別な雰囲気を漂わせる彼女の様子に、思わず見入ってしまったよ。


「また一目惚れしたの?」


「またってなんだよ? それに全然違うから。なんというかその……何かやってくれそうだなってな」


「ふふ。だって100年に1度だけあらわれるという特別な巫女なのよ。そりゃあ、そうでしょ」


 100年に1度か。そいつはすごいな。

 きっとすごく優秀な人に違いない。

 

 ……が、それはとんでもない勘違いだったのだ。

 まさか俺すらドン引きするような、おっちょこちょいだなんて……。


「い、い、いにしえの魔王・・よ。我が求めに応じて降臨せよ!」


 待て待て。魔王を召喚してどうする――?

 

◇◇


 俺が異世界に転生してから半年以上が経った。


「ゆ、勇者を討ち……あっ! ごめんなさい!」

「あ、あ、アンタタチ~~……。すみません……」

「アンタラ~~、カンタラ~~、クンタラ~~……。ンモォォォォ!!」


 だああああ! なんでそこで牛!? 猫だろぉがぁぁぁ!!


 ……と惜しい時もあったよ。

 でもたいていは途中で言葉が出てこなかったり、セリフが飛んだりして失敗した。



 そんなこんなで迎えたTAKE51。


 イリアから「着替えを覗いたバツ」という理不尽な言いがかりをつけられたがゆえに、夜遅くまでキングベヒーモス(レベル98)を15体相手に戦わされていた俺。


「ふわぁぁ……」


 いつもにも増して眠い。

 着替えるのがめんどくさいから、トランクスいっちょうに上半身真っ裸の状態で水晶の前までやってきた。


「あんたねぇ。ちょっとはデリカシーを持ったらどうなの? それにそんな格好で召喚されたらどうするつもりなのよ」


「どうせ今日も失敗だから大丈夫だって」


「ま、そうよね。目を真っ赤に腫らして、ため息ついてるし。『私にはもうできません!』って神父さんに泣きついたに違いないわ。あんな状態で成功できるわけないもの」


 ちらりと水晶を覗く。

 確かにシャルルは目を真っ赤にして、顔を青くしている。

 こころなしか頬もこけているように見えるな。

 

 何度も失敗続きだしな。

 相当自信を失っているのだろう。

 何をやっても長続きしない俺ならとっくに投げ出してる。

 だから結構根性あるなと思うよ。あんなに華奢な体つきなのに。

 

「頑張ってほしいな……」


 つい本音がポロリと漏れてしまった。


「その格好で言われても説得力ないから」


「ははっ。そうだよな。んじゃあ、一応着替えておくか」


「無駄だと思うけど」


「一応だよ。一応」


「そうね。あ、始まったわ」


 装備一式は……やべえ、寝床に忘れてきちゃったよ。

 取りにいくのめんどくさいけど、仕方ないよなぁ。

 そう考えながら、ちらっと水晶に目をやったとたん。


 巫女シャルルに釘付けになってしまったのだ。


「え……」


 余計な力が抜けたせいか、とても滑らかな動きだ。

 なんだろう……。

 招き猫に招かれてる心境って言うべきか。いや、自分でもよく分からないけど。

 それにセリフもせせらぎのように自然に流れている。


「アンタラ~~、カンタラ~~、クンタラ~~……」


 いつの間にか儀式は終盤に差し掛かっている。

 はっとしたイリアが叫んだ。


「トーヤ!! 何をボケっとしてるの! 早く魔法陣の上に立って!!」


「え? けどまだ着換えが……」


「着換えよりも召喚でしょ!! いざとなれば全裸で戦ったっていいんだから!」


 イリアにパンツのすそを引っ張られながら、なかば強制的に魔法陣の上に立たせられる。


「そんなに引っ張ったらパンツが脱げちゃうだろ!」


「ンニャーーーーーー!!」


「せ、せ、成功させやがった!!」


 全身が光に包まれる。


「トーヤ!! これっ!!」


 イリアが投げてきたのは『勇者の証』のペンダント。


「それさえあれば、たとえあんたが変態でも勇者と認めてくれるわ!」


「嫌だ! こんな召喚、嫌だぁぁぁ!!」


 しかし心からの叫びも虚しく、俺の意識は真っ白になった――。



◇◇


 ――ピタン……。


 足の裏が冷たい。下半身がスース―する。

 地面に降り立ったということか。


 となると……。

 

 ゆっくりと目を開けてみる。


 すると口をポカンと開けた巫女シャルルが視界に入った。

 間近で見ると妙にリアルに感じられて、極度のあがり症が発動する。


 と、とにかくまずは挨拶だよな。


「ど、どうも。は、はじめましゅっ……」


 自慢のコミュ障まで発動。

 見事に噛む。どもる。言葉が出てこないの3連発。


 どうしようもなくなって焦っているうちに、視線を俺の下半身に移したシャルルがみるみるうちに顔を真っ赤にした。


 俺も彼女の視線に合わせて自分の下半身に目をやる……。



「あっ、やべ……」



 そっと直した。



 ……が、時すでに遅し。


「キャアアアアアア!!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! ほらっ。証! 証があるから!!」


「それ以上、どんな証を見せるというの!? 変態!!」


「おい! 俺は変態じゃない!! それにもし俺が変態なら、はみ出してたモノを言葉に出したおまえだって変態だろ?」


「意味わかんないから! こっちこないで! 変態!!」


「待て待て! 自分で言ってたじゃんか! キン○○~~って!!」


「キャアアアア!!」


 狭い部屋の中を逃げ惑うシャルル。それを追う俺。

 きっと天界から見ているイリアは腹を抱えて大笑いしてるんだろうな。


 くっそ!

 あんたがパンツを引っ張ったから発生した事案なんだからな!

 責任を取れ! 責任を!!


 ……って、ここにいない女神に文句を垂れてもしょうがないか。


 とにかく誤解を解かねば!

 このままだとマジで変態扱いされちまう!


 ……と、その時だった。


 ――バンッ!


 勢いよくドアの開く音が聞こえてきたかと思うと、立派な白いひげを生やしたおっさんが入ってきたのだ。


「シャルル! どうした! ん? そこの男はまさか……。おのれ、変態め!! 国王であるわしの娘を襲うとはいい度胸しおって!!」


「えっ? シャルルって王女だったのか?」


「私、あなたとは初対面なのに、なんで名前を知ってるの? 怖いわ! パパ!!」


「おいっ!! 皆の者! こやつをひっとらえよ!!」


「「はっ!!」」


 部屋に飛び込んできた兵士たちが一斉に襲いかかってくる。


 まずい、まずい!


 このままだと変態から反逆者に格下げになってしまう。

 まずは大人しくつかまってから……。


 そう決意した矢先、イリアの教えが脳裏をよぎった。

 

 ――襲われたら、跳ね返しなさい。


 無意識のうちに体が動く。


 ――ドカッ! バキッ! ドン!!


 3つ数える間に10人の兵士を壁際に吹き飛ばしていた。


「な、なに……!? 我が国の精鋭を一瞬で倒したというのか……?」


 恐るべし、俺。


 ……って、自分に感心してる場合じゃないな。


「いや、これは、その、条件反射で仕方なく……。悪気はなかったんだ」


「条件反射だと!? こやつらはみなレベル50以上だぞ?」


「そ、そうだったのか。あ、でもレベル98のキングベヒーモス15体に比べれば、まったく大したことなかったぜ。昨晩も結局全部倒したし」


 ドン引きしながら後ずさっている国王。その背後に隠れているシャルル。


 もはや俺ってば悪魔の化身だな。

 ほら、昔のアニメでいたよな。緑色の体でパンツ一丁の悪魔。


 ……が、そこで奇跡が起こった。


 最後に入ってきた神父って感じのおじいさんが、俺の首からかかっている『勇者の証』を指さしたのだ。


「もしや勇者様か?」


「えっ!? うそ?」


「なんだと!?」


 シャルルと国王の顔がはっとなった。

 俺はここぞとばかりに『勇者の証』を二人に向かって突き出す。


「もしかして召喚に応じてくれたの?」


「貴様、本当に勇者なのか!?」


 これぞ神の与えたチャンス!

 何度も練習をしてきたあのセリフを使うのは今しかない。

 

 俺は立てひざをついた。

 余計なモノがはみでないように。


 そしてありったけ低い口調で告げたのだった。



「待たせたな」



 部屋がシーンとなる。


 

 決まったな。

 完璧すぎる。


 パンツいっちょうでなければ、俺がシャルルだったら惚れてる。

 いや、パンツいっちょうでも惚れちゃってるかもしれない。


「あのー……」

 

 ふふ。でも俺に惚れるのはナシだぜ。

 だって魔王を倒したら、すぐにお別れなんだから。

 いや、でもその前に二人だけの思い出くらいは――。


「あのぉぉ!!」

「ひゃ、ひゃいっ!!」


 我に返ると、シャルルが耳元で叫んでいた。


「な、なんだ?」

「いえ、だから、その……」


 ん? なんだか様子がおかしい。

 言いづらそうにもじもじしている……。


 はっ!!

 まさか本当に俺に惚れちまったのか!?


 ど、ど、どうしよう?

 妹のサナになんて報告しようか。


「あの……もう勇者様は用済みなの」


 いや、その前にイリアだな。

 くくく。羨ましがるだろうなー。


 寝言で「あー、彼氏ほしー」って何度も言ってたしな。

 これまでことあるごとに俺に冷たく当たってきたバチがあったのだ!


 ざまぁみろ!! ガハハハッ!!



 …………………ん?



 ちょっと待てよ。


「今なんて言いました?」


 シャルルと入れ替わるようにして前に出てきた国王が、渋い顔をさらに渋くしながら、申し訳なさそうに告げてきたのだ。


 予想の斜め上をいくことを――。



「魔王は英雄アーサーの手によって倒された。ゆえにお主の出番はない。申し訳ないが帰ってくれ」



「………………いやいや。またまたご冗談を~!」


「いや、冗談などではない。わしは娘に言ったのだ。『召喚の儀式は取りやめにせよ』と。だがシャルルは母親に似て頑固でな。『私、辞める気はありませんからっ!』って泣きわめいたのじゃ。だから仕方なく『これが最後のチャンスだぞ』と約束したのだよ。しかし、まさか成功してしまうとはな……。だから勇者殿!」


 俺の両肩をつかんだ国王がペコリと頭を下げた。



「このまま帰ってくれ!」



 再びシーンとする室内。

 

 とその時、脳裏に響いてきたのはイリアの声だった。



『ねえ、ちょっと。ちょっと。今回だけは特別に帰還の儀式なしで戻してあげるから! そこの魔法陣の上に立ちなさい』


 やっぱりそうだよな……。

 もう帰るしかないよな……。

 これ以上ここにいても恥ずかしい思いをするだけだし。


 自然と魔法陣の方へ足が向く――。



『……ぷぷぷ。パンツいっちょうで召喚された挙句、モノをはみ出しただけで帰還した勇者――。まさに伝説だわ。ぶわっははははは!!』



 ピタリと足が止まった。


 ……うん、決めた。



「断る」



 またまたシーンとなる一同。



「はい?」


 国王が「ちょっと空耳が聞こえてきたんじゃが」と言わんばかりに、俺の顔を覗き込んでくる。


 だったらはっきり答えてやろうじゃないか。

 耳をかっぽじって聞きやがれってんだ!



「そこのおっちょこちょい巫女のせいで、こっちは半年以上も鬼女神おにめがみにしごかれて地獄を見てきたんだ!! ようやく召喚されたと思えば、寄ってたかって変態扱いしやがって!! 挙句の果てには『もう用済みなんで帰れ』だとぉ!? ふざけるのもいい加減にしろ!! 嫌だね! ぜぇぇぇったいに帰ってやるもんか!! 俺はなぁ、俺は――」



 そこで一度言葉を切って、天井を見上げた。


 イリア! てめえもよぉく聞いておけよ!!



「俺は勇者だ!! 魔王を倒すまでは、この世界に意地でもとどまってやる!!」



 こうして俺の『勇者リトライ計画』は幕を開けた。


 どんな計画かって?


 そんなもんノープランに決まってるだろ!

 何かあるならこっちが教えてほしいくらいだ!



 ……まずは服を手に入れるところからだな。



 


 




 

最後までお読みいただきありがとうございました。


ご要望があれば連載版を執筆しようかと思います。

先が読みたいと思っていただけたら、評価ポイントを入れていただけると嬉しいです。


また作品に対するご感想もお待ちしております!


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  今回はコメディにチャレンジされたのですね。  魔王がいない世界でどうなっていくのかが心配になります。  作風が異なるので興味があります。 [一言]  応援しています!
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