大魔王、神に祈る。
第2回なろうラジオ大賞への投稿作品。
その四作目になります。
最近起こった苦しみをもとに描いてみました。
その星において大魔王は最強であり、その力には足元に及ぶ者すら無かった。
しかし今、大魔王は狭い一室の中で脂汗をかきながらプルプルと震え、敵対している神々へ真摯に祈りを捧げている。
「ど、どうしてこうなってしまったのだ…」
時は少し前に遡る。
その日は神の中で唯一関係の良好な邪神が尋ねてきた。
「久し振りだな。今日はどうしたのだ?」
「用事で寄ったついでに、たまには顔を見ていこうと思ってな。ほれ、ファラリスの雄牛から貰った牛乳だ」
「いや雄牛!っていうかそもそも生き物ですらない!」
悪趣味な拷問・処刑器具から貰い受けたと言ってきかない邪神が差し出すそれを、我はもの凄ーく警戒していた。
何故かというと邪神には前科が多数あったからだ。
前回はたしか栄養豊富だからと持ってきた牡蠣に当たって、しばらくトイレに籠城したんだったか。
「くっ、ヤツが先に飲んだから油断した…。これでは勇者が挑んできても恥ずかしくて出られないどころか、下手に戦えばやられてしまう!」
嫌な予感は当たるもので、文字通りトイレの大魔王となっている間に勇者が攻めてきた。
「そこにいるのはわかってるんだ!出てきて潔く勝負しろ!」
「このままではまずい。元凶の邪神には祈れんし、ここは藁にもすがる思いで…」
大魔王は天界の神々に祈る。
それはもう生まれて初めてと言えるくらい真摯に。
すると天から声が聞こえてきた。
「これまでの悪行を悔い改め、これからは真面目に生きていくか?」
「我は大魔王だ!そんなこと出来るわけが…」
「では大人しく勇者に討たれるがよい。しかし今のまま戦って敗れたとして、それは普通に負けるよりも恥ずべき事ではないか?それなら改心して命を繋ぎ、善き存在となって余生を送る方が良いのではないか?」
「……わかった。ではそうするのでまずは治してくれ」
腹痛が治った途端、大魔王は勇者を一撃で倒して天を睨む。
「ふはは!約束など守るわけ無かろう!」
「では天罰を。お前はこれから一生邪神の持ってくる土産しか口に入れられなくした。それも毎日だ」
「んなぁっ!?」
大魔王と言えども食事は必須だ。しかしそれをあの邪神に頼らなくてはならないとなると…。
「ゆ、許してくれ!」
「変更は不可だ。精々苦しめ」
こうして大魔王は常に城のトイレに封印され世界には平和が戻った。
邪神の名はその功績によって救世の神として知られるようになり、外に害を及ぼせない大魔王のトイレは観光名所となった。
約束は守らないとね、というちょっとした教訓話でした。
牡蠣や牛乳を摂らずとも、お腹の弱い人にはあるあるネタだと思います。
かく言う作者も頻繁に邪神の一撃をくらってはトイレに籠もり、神々に祈ることが多い人生です(笑)