オーズ
「お兄ちゃーん、おかえりなさい! もう8時だね。まずは手洗いうがいだよ! いま場所空けるね。どうぞ!」
ガラガラガラ、ぺっ。
「? お買い物も行ってくれて、ありがとう! 私、すっごく楽しみにしていたんだ――あれ? 袋は?」
……。キュッ。ジャー。
「帰りにアックに寄ったんじゃないの? 『行ったけど、売り切れていた』? そう、なの……。
ううん、私気にしないよ。こんな時間だったら売り切れてるよね。ましてや、期間限定品だもんね。アクドナルド新作の、スペシャル苺ドリンクだもんね……」
ぺこり。
「お兄ちゃんは悪くないよ。頭上げて。
でも、ちょっと残念。お夕飯の後にCMで見たら、とても美味しそうだったよね。珍しくお兄ちゃんが、『ランニング帰りに買ってきてやるよ』って言ってくれた時は、私、嬉しかったな。妹想いの兄を持って、幸せだって思った」
ぽん。わしわし。
「えへへ。照れ屋さんだねー、お兄ちゃんは。……でも今は、気安く頭に触らないでほしいかな」
ばしいんっ。
「だってお兄ちゃん、嘘ついたでしょ」
ぎくっ。そろり、そろり――。
「逃げないで。本当は、売り切れていなかったんでしょ?」
つつー。
「汗、拭きなよ。よっぽど頑張って走ったのかな? それとも、冷や汗かな」
……。
「私、ちゃんと時計を確認していたんだ。とっても楽しみだったから……。
お兄ちゃんはいつも30分したら帰ってくる。几帳面だもんね。でも、今日は10分ほど遅かった」
……。
「お店に寄っていたといっても、この時間帯だから空いている。売り切れを確認してすぐに帰ったのなら、そこまで遅くはならない。もし、少し離れたもう一つのアックに行ったのだとしても、逆にもっと遅くなるはず」
……。
「お兄ちゃんは買い物をした後、店内に留まったんだ。テイクアウトだとゴミが出るからね。お兄ちゃんの性格なら、道端に捨てるなんてできっこない。帰りながら飲んだ方が、時間を短縮できると分かっていても」
……ごくり。
「お兄ちゃん、自分だけ飲んだでしょ。残り一つだった、期間限定スペシャル苺ドリンクを!」
ブン ブン!
「必死で否定しちゃって、かわいい。でも無駄だよ。証拠隠滅は完璧だと思った? 残念!
お兄ちゃんは、決定的な間違いを犯しましたー!」
びしいっ!
「さっきちゃんと見ていたんだからね!
うがいした後、ぺっ、てした水がピンク色だったもん! 絶対ドリンク飲んだでしょ!」
がーん!
「お兄ちゃんが最後の一つを飲んだことには、私、なにも言わないよ。買いに行ったのはお兄ちゃんなんだもん。仕方ないよ。
だけど、嘘をついて隠そうとするなんて、ひどくない!?」
……すっ。
「どうしたの、さっきから黙ってると思ったら、急に座り込んだりして! なんとか言ってよ、お兄ちゃん!!!」
orz (完)