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神殺しの殺神  作者: 桜澤 那水咲
6/8

神研修

そして、ついに神研修の日はやって来た。


荷物を一つの鞄にまとめて、トワイとディアは目的地まで向かうために、森をさまよっていた。


日の暑さと、急な森を登るのには予想以上の大量を消費した。


神殺しの殺神の噂も深く残る今、いつ何が起きても対応できるように警戒を高めていた。



「トワイ…まだ歩くの?」


「ああ。」



先に息を切らしていたのはディアだった、トワイは息が乱れること無く、ただ普通に歩いていた。



やっとのことで一時間後に森を抜けると、綺麗な水のたまる泉へとたどり着いた。



ディアはその美しい光景を見て、目を見開いた。



「す、凄い綺麗。」



彼女は疲れを吹っ飛ばした笑顔を見せると上を見上げた。



それはそれは、高々しい崖が天の橋のようにそびえ立ち、その頂きから水は流れ落ちていた。



ディアは少し心を踊らせながら、泉に近寄って、そっと手をつけた。



「こんな綺麗な場所なんてあったんだ…。」



歩き疲れて、クタクタだった体に少しヒヤリとした水が安らぎの刺激をした。



トワイはそんな彼女の後ろに立ち、子供を見るかのように様子を眺めていた。



「その泉は魂の泉と言われている貴重な水だよ。」



一瞬どこかから聴きなれない、爽やかな声が聞こえて来た。それに驚きながら、横に顔を向けた。



そこに立っているのは、白と黒の髪が混ざった毛色をしている美しい男の人だった。



所々にある鎖の音が小さな音を立てて彼はこちらに歩み寄って来た。その姿にディアは頬を赤らめて、体に力を入れた。



「初めまして。君達の担当をすることになった、魂の神です。」



彼は美しく微笑む、整った顔だちがよりそう思わせたのだった。

彼は足を止めると、今だに無のトワイに顔を向けた。


「久しぶりだね、トワイ。」



ディアは一瞬びっくりしながら、トワイの方に目を向けた。


「はい。…お久しぶりです。」


トワイは静かに言うと少し頭を下げた。

魂の神はその姿に満足したのか、笑みを浮かべて軽く頷いていた。


「それじゃぁ、屋敷の方に行こうか。」


魂の神は方向を後ろにして、二人を導くように歩き出した。



少しした後に二人も歩き始め、ディアはこっそりと小声で聞いて来た。


「魂の神様と知り合いだったの?」


彼女は不機嫌な顔をして問い詰めて来た。

グイグイとこちらに寄って来て、心の中でため息をついた。


「前に会ったことがあるだけだ。」


「あっそうなの。…でも凄いカッコいい人だね。昔と全然変ってない。」



人にしつこく聞いておいて案外アッサリと返してくるペースに彼女の性格が滲みでていた。



確かに魂の神の顔は人より整っているし、高く一本にまとめている。



サラサラとした腰まである髪の毛も彼の顔と比率がとれているから似合うのだと納得した。



森を更に深く進んで見えて来たのは、立派な屋敷だった。



彼ら気兼ねなく屋敷の豪華な扉に手をかけて中に入っていった。



私達も彼に続くと綺麗な内装にも驚いたのだった。



大理石のタイルに先程のような綺麗な水が流れる、泉が用意されていた。



彼に細かい説明を受けながら、二階へと進んで行く。



「研修期間の間はこの二つの部屋を使ってくれ。」



そう言う彼は階段から手前の二つの扉に手を向けた。



二人は各自用意された部屋に行くと荷物を置いた。どこを見ても綺麗で文句の付けようも無かった。


白いベッドにシンプルな机と椅子、一つのガラスの窓があり、基本的に落ち着いた雰囲気があった。


荷物を置いた後はすぐに彼の待つ一階に早々と向かった。


途中でトワイと扉の前で出会うと、彼は扉をゆっくり開いた。



「もう、終わったのかい?…だったら次は魂の神の仕事について話そうか。」



彼は私達を見てそう言うと、本題だった神の仕事の話を持ちかけて来た。



彼は横に歩いて行くと、先程の泉の水面にそっと手を当てた。そうすることで一気に綺麗な水色の光は輝き、彼は目を閉じた。



「今日は一人いるね。自殺した人間の魂のようだ。」



彼は水面に手を入れて行くとある物を取り上げた。



少し灰色がかった色が浮き上がり、次第に黒くなって行く。

そして波打つように高鳴り、黒い鎖が巻きついていた。



そしてその柔らかい球体から手を伝った雫は、綺麗な泉を汚した。



「僕の仕事はこの世界の魂の管理。絶望に染まった魂を白く清くすることが仕事なんだ。…そして、今この世界の悪しき者を殲滅するのも僕の役目なんだ。」



彼は真剣に言うと、空いたもう片方の手に水色の光を集めて黒く変わった魂に被せた。



その瞬間、電気が走ったように、魂が反発をしてその手から逃れようとした。



しかし彼がそれを許すこと無く、反発を押さえつけて圧をかけた。



その結果巻きついていた黒い鎖は弾け飛び、しっかりと白くなった魂に彼は手を当てた。



その魂から手を引くと透明な水となり泉の中へと落ちていった。


「実践を踏まえたお手本はこれで終わりかな。」


魂の神はにっこりと笑いながらトワイ達の方に歩いて行った。



「いつ魂がどこに現れるか分からないから、日頃から神経を使うんだよね。救って欲しいと願う者ほど僕の身近によってくるから大変だよ。」


手を少し軽くあげると彼は疲れたように言った。


「他にする仕事はあるんですか?」


ディアが質問すると彼は腕を組んで答えた。



「そうだね、魂の浄化や悪事を働こうとする輩の取り締まりを基本的にしているよ。」



「悪事の取り締まり?ですか。」


意味が掴めなかったのかディアはもう一度聞き返した。


「良いことも悪いことも、命の色となって現れる。魂を日頃から見ている僕にとっては適任なんだよ。」


彼は少し困ったように言うと、笑って目を閉じた。


「今日はとりあえずここでお開きにしようか。初日だし、明日からまた一緒に頑張ろうか。」



魂の神はキッパリといった。神研修の初日はこうして幕を閉じたのである。



深夜、暗い薄暗い森に真夜の鳥の鳴き声が響いた。月の光が辺りを照らし、足音一つでも音が大きく感じた。



そこには一人の影が映り、森と草むらの中を歩いていた。



そしてその人物が止まった先にはもう一人の人影が映っていた。



「こんな時間にこんな場所で、一体要件はなんでしょうか。風切りの神殿。」



そこにいたのは魂の神と、お互い血だらけになって立っていた風切りの神と彼女に抱えられていた

とうの昔に生きの無くなっていた死体だった。



風切りの神は肩を上下に揺らして、息を整えた。


「…まずはこのような時間にお呼び立てしてしまったこと、深くお詫び申し上げます。」



風切りの神、イザベラーナは血がついた服の前に手を持ってきて深く頭を下げた。



「だいたい用件の内容は分かっていますが、とりあえず話を聞きましょう。」


魂の神は死体の方に冷たい視線を送るとすぐに目線を上げた。


「封印領域の事件は既にご存知かと思いますが、今日はお願いがあって参りました。」


「死人の蘇生…ですか。」



イザベラーナは迷わず返事をする。

抱えられた死体は彼女の手によってしっかり抱えられていた。



まるで、自分の子供を抱くかのように。

恐らく彼女は断られるのを承知で言っている。でも、それでも諦めたくないと言う瞳をしていた。


「残念ながら、僕の仕事ではありませんね。」


「仕事で考えればそうなるでしょう。でも、貴方一個人のお力があれば可能なはずです。」


その言葉に魂の神は細く笑った。


「申し訳ありませんが、僕が救済するのはあくまで仕事の範囲内です。」


「では、取引をしませんか。」


成る程、そう来たかと僕は心の中で見下した。


「面白いことを言いますね。何を取引の材料にしますか?」


「…ヒルダの情報、です。」


「おやおや、神を取り締まる六等神の内の貴方が、安安と重大な情報を明け渡すとは、良いのですか?」


僕が情報を漏らさない保証などどこにも無いと言うのにだ。


「良くは…無いわね。でもここで引き下がる訳には行かないのです。」


ヒルダという名が出ただけでも、既に一つの重大な情報を明かしたことになる。

それは、ヒルダがこの世に解き放たれたことを指している。


「いいでしょう。ですがもうこんな時間です。とりあえず屋敷にどうぞ。」


イザベラーナは空を見上げると、息を吐いて肩を落とした。

時間の流れなど忘れていたのだろう。

それもこんな愚かな女を助けるためだけにだ。

名高い風切りの神が笑わせる。


魂の神はイザベラーナを屋敷に案内し部屋を用意した。


「死体は僕が預かりますよ。」


彼女は一瞬躊躇(ちゅうちょ)するがすぐに了承した。


「はい、お願いします。」


イザベラーナから死体を受け取ると、上の二人に気づかれないように足音を抑えて歩いた。



広間を通って複数ある扉の中から一番奥の扉を開いた。



その扉は真っ暗で薄暗い火をつけてやっと視界が明るくなった。

足元にはすぐに階段がありどんどん下えと降りていく。



降りた先は、家の中の地下にある場所で、再び扉を押すとその中に入った。



その部屋には大きな水槽があり、アクアリウムでも出来そうな程に水が溜まっていた。



彼は近くの豪華な机に死体となった彼女を寝かせて、蘇生の準備に取り掛かった。


「まずは、薬を作らないとね。」


彼は棚を開けると、二本の試験管を取り出した。

その次に反対側に移動して一つの箱を取り出した。


その箱からは様々な光が飛び交っていて、中から迷わず三つの光が入った瓶を取り出した。


彼はそれを見るとニヤリと笑って机の上に並べた。

赤、青、緑と三つを並べて後ろを向いた。


その先にある水槽に試験管をもってそばまで行くと近くに置いていたガラスの水差しを手に取った。


それを水槽に入れて、試験管にゆっくりと注いでいく。


「彼女は気づいてるんですかね。私に願いをこうことはどれだけのリスクがあるのか。」


つぎ終わった後は再び机に戻り、試験管を置いた。


「人の尽きた命を蘇らすことは、常識ではない。なら人を蘇らす行為は非常識という訳だ。」


彼は微笑むと青色の瓶を手に取った。


「と言うことは、その方法も非常識になる。」


その瓶を手で回して、揺れ動く中の光を見つめた。


「透明な青は魂の色、紅の赤は血の色、自然の緑は生命の色。どれも長寿の神から得た命、つまり魂だ。」


命を生き返らす行為自体が愚かなことだ。

それを理解した時、君達はどう思うだろうね。


魂の神は瓶の栓を抜くと青い魂を試験管の中に入れた。続いて、赤、緑を混ぜて黒色に変わる。


「ほら、これが神の色だ。そして人間の色でもある。」


どうな存在であろうと、愚かな者は愚かであることに変わりわない。


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