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神殺しの殺神  作者: 桜澤 那水咲
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予兆 2

「そんな…まさか。」


空を黒い羽で舞う黒鬼は高々と溢れ出す炎を真の当たりにする。


「くそ…手遅れだったか!」


食い止めることが出来ないと直感的に判断すると、黒鬼は悔しそうな顔をしながら後の祭りと理解した。


だが、失敗したまま帰るわけには行けない。私の名誉と地位を揺るがすわけにはいかない。



黒鬼は自分のプライドを守るために、焼け焦げた黒い煙の中に突っ込んでいった。





黒い炎が止むと、辺り一面が煙に覆われた。

焦げ臭い匂いが充満しながら鼻に残る。



風によって晴れた世界の残存は何一つ残っていなかった。



緑達も木すら削られ、先程の人の群など物影すら一つも無かった。



「たった一言で全滅とはな。所詮その程度か。」



ヒルダは冷酷な瞳で言いながら、その場にただ一人立っていた。



そして早々にこの場を立ち去ろうとした時、青色を照らす空から気配を感じた。



「まだ、終わってないわ!」



その声を聞いた瞬間、生き残りがいたことに少し喜びながら黒い鬼の女の姿をした彼女に目を向けた。



上から降ってくるのは青々しい鬼火。

ヒルダはそれを一つ一つ素手で握りつぶしながら排除していく。



その隙を突いて黒鬼は一気に急降下して二つの双剣をヒルダに振りかざした。



ヒルダは人差し指と親指でパチンと音を鳴らすと両手に黒い手袋を装備した。



その手で刃を掴むと微笑みながら、そこから黒い炎を流し込んだ。



それは着々と黒鬼の手に襲いかかり、焦った黒鬼はその剣を投げ捨てた。そして、もう一本の剣を振って一時的に下がった。



距離を取ることで一本しか無い剣に自然と手が震えた。


どうすればいいんだ。剣はもう一本しか無い。

私は神殺しの殺神を見くびっていた。



まさか最初からこんな力を持っていたとわ、いや違う。持っていたのでは無く、蓄えていたのか。



ヒルダは彼女の動揺を一瞬で読み取ると追撃の手を緩めず全速力で向かって行く。



その速さについて行けず、黒鬼は必死に目を見開いて探した。



しかしヒルダを見失い動揺をしていると予想外の後ろから蹴りを入れられた。



その一蹴りはどんな物よりも圧迫が強く一直線に蹴り飛ばされた。



一瞬にして木にぶち当たり、頭の激痛に耐えながら剣を地面に突き刺した。



「中々タフだな。てっきり死ぬかと思ったが。」



「な訳無いでしょ…。私は根性だけはひん曲がってんのよ。」



気づけば、頭からも血が流れ体はボロボロになっていた。



だがきっと私は遊ばれているのだろう。神殺しの殺神はまだまだ余裕なはずだ。

今なら分かる。私は決して彼女には勝てないと。



黒鬼はクスリと笑った。こんな状況でもプライドが邪魔をする。助けを呼ぶことも、逃げることも私の頭の中には無かったのだ。



自分のプライドのために死ぬのかと呆れながら黒鬼は剣を構えて前に突き進んだ。



互いの高速な動きは今開始された。黒鬼は剣を素早く振りながらヒルダはそれをやすやすと避ける。



それを繰り返しながら黒鬼は一瞬の隙に足に忍ばせていた小さな短剣を投げる。



ヒルダはそれを寸止めで掴みと手首で素早くクルリと回し、二人の武器がそろって一気に攻撃をする。



二人同時に一振りすると大きな風が舞い上がり、動きは止んだ。



力を緩めることは無く、ヒルダは黒鬼の剣をしっかり受け止めながらそのまま立ち止まった。



黒鬼は力を目一杯に使ったが、剣の刃が砕け散ったのは攻めの黒鬼だった。



…ま、負けた…



ヒルダは小さな短剣を振り払うと、放心状態の黒鬼の首を素早く掴み地面に叩きつけた。



そしてヒルダはそのまま胸元を足で踏みつけた。



「ただの神にしては、よく頑張った方だったな。…だがこれでお遊びは終わりだ。」



ヒルダの冷たい声は黒鬼にとって死の恐怖を与えた。



「死ぬのが、恐いか?」



ヒルダは足に力を強めながら見すかすように言った。



黒鬼は口から血が溢れ、目の前の光景に死という現実を思い知る。



…ああ、恐いさ。



「だが、お前は死ぬことに恐れているじゃ無い。己が無能で終わることを恐れているんだ。」



なんとも欲張りな奴だと思いながらヒルダは手に黒い闇を生み出す。



彼女の目はまるで哀れな者を見るような瞳だった。



こんな時になって、頭の中によぎるのは六等神達の言葉だった。



一人で突っ走って傲慢になり、結果として身を滅ぼした。



思い返せば、予知していたのかもしれない。

誰かもう一人でもいればまだ変わっていたのかも知れない。



しかし、今回の件は全て自分でまいた種だ。



だからこそ、一人で死ぬのがふさわしいと目を瞑った。



ヒルダは彼女の健気(けなげ)さを見て一瞬目をそらした。



生み出した闇が程よく大きくなるとヒルダはその闇の球体に手を突っ込んで何かを掴みとった。



その行動によって闇は手に吸い込まれ、長細い黒と銀の光の剣を生み出した。



手首を回して一振りすると、その剣を黒鬼の首元に持って来る。



ヒルダはその剣を高々とあげて、いっさいの躊躇(ちゅうちょ)なく突き刺した。




黒鬼の口からは血が吹き出し、目を微かに見開かせて、唸り声を上げながら息が抜けた。




ヒルダは死んだ彼女の瞳を見つめながら、剣を引き抜き、飛び散った血が剣の後を追うように上がった。




彼女の上から退くと、ヒルダは何も思うこと無く、すぐに方向を変えて歩き去って行った。




彼女の瞳からは興味を失った冷たい目に移り変わっていた。



残った黒鬼の死体からは血がだんだんと地面に広がっていき、より濃い匂いを漂わせた。


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