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神殺しの殺神  作者: 桜澤 那水咲
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解かれた封印


かつて世界を滅ぼそうとした悪神は、神々の全精力を持って封印された。


種は問わず神だけを標的にし、いつしか悪神と呼ばれ神殺しとも言われるようになった。


その代償は大きく、争いによって自然は枯れ、多くの神や人間の犠牲者も出た。


崩壊した町や村の二次被害もおき、世界は一時荒れ狂い絶望した。

長くある歴史の中でも、ここまで深く名を残した者はいないだろう。


みな、その悪神のことをこう言った。


「神殺しの殺神(せつじん)」とーー。


そして悪しき者は目を覚ました。




辺り一面に黒色で広がった森はより不気味さを(ただよ)わせていた。


この森が黒く染まったのも、もう何千年も前のことである。緑の生き生きとした森と黒く生き生きとした森はいつしか不気味さを増して神すらも寄り付かなくなった。


この地は封印の神が統治する場所だが、一人の封印されし殺神に恐れ管理を怠っていた。


森が黒く染まったのも殺神の影響を受けているからだろう。もちろん被害はそれだけでは無い、水も黒く染め、動物すら死に至らしめる呪いの場所。


殺神は今も尚眠りについている。黒くて何処までも暗い深い泉の底に。



そんな森に一人の人間は足を踏み入れた。黒い大地に空すらも濁っていて、空を舞うカラスが鳴き声で恐怖心を更に強めさせた。


黒いマントのフードを深く被り雷がなりながら一つのリュクをかるって黒い泉まで向かっていく。


急な山を登り森をかき分けて抜けた場所は森の奥深くだった。

そして例の泉に到着した。


人間は迷わず泉に近づいて、一枚の紙を取り出した。その紙を水面に浮かべると人差し指でゆっくりと水面に押していく。


「神々の封印を解き、今この者を目覚ましたまえ。」


高い女の声に合わせて紙の文字は光、紙から水面に巨大な模様が浮かぶ。紋様は泉を囲うように広がり美しい光景にも見えた。


模様が完成したとたん黒い泉は光を放ち濁った水が空を突き刺すように高く舞い上がった。その勢いは激しく近くだけで飛ばされそうになった。


強風の嵐と落下してくる水に顔を隠しながら、フードの人間は噴火が止むのを知って腕を下ろした。


そして泉の黒い水は一つに集まり球体となった。その中から水を裂くように出てきたのはまぎれもない、かつて殺神と恐れられた神、ヒルダだった。


「私を呼び起こしたのは貴様か?」


彼女は白と黒の長い紙をまといながら虚ろな蒼い瞳を覗かせていた。

彼女のことを言葉にするなら、それはそれはただの恐怖としか言えなかった。


「随分と遅かったな。何千年眠らせれば気がすむんだ。」


ヒルダは低い声で言いながら濡れた髪をかきかげた。


「仕方ないでしょ、封印解除の紙は特殊なの、手に入れるのも大変だったんだから。面倒くさいなら自力で出ればよかったのに。」


ヒルダは彼女が言うことを聞き流すかのように水の上に乗っかり、服を整えながら辺りを見回した。


「無茶を言うな。高度な封印を解くのには膨大な力をようする、そんなことをすれば出る前に死ぬ。」


「まぁ〜それもそうね。神々の全精力でやっとのこと貴方を封印したんだもの。でも感謝しなさいよ。こっちも一応神なんだから、神が神の代物を盗むのも大変なのよ。」



「ああ、感謝しているさ。」


言葉ではそう言っているが本当にそう思っているようには見えなかった。まるで他人事のようにヒルダは目すら合わせない。


こいつを復活させたのは間違いだったかもしれないと女は失望しながら彼女を見た。


「それで、またあの時の繰り返しをするの?」


あの何千年前の悲劇を今この平和な世界で繰り広げるのかを問う。

その言葉にヒルダはやっと女に目を合わせた。


「繰り返しじゃない、続きさ。あの戦争はまだ終わっていない。世界を滅ぼす時、戦争はやっと終わる。」


「ヒルダが死ぬか、全ての生命が死ぬか…と言うことね。」


まぁ、いいんじゃないと女は軽く言った。

彼女こそ一番他人事な反応だった。


「ところであの忌々しい封印の神は何処にいるんだ。」


ヒルダは水から地面に瞬間移動すると軽く体を動かした。やっとこの地に帰ってきて久しぶりに泉から出たからだろう。


「何言ってんの、もうとっくに代変わりしてるわよ。あの時の封印の神はヒルダが封印される直前で殺したでしょ。」


この時の女の目は心底死んでいた。


「あぁ〜そういえばそんなこともあったな。」


そう当時の封印の神はヒルダが最後の最後に殺した神だ。かつて全精力の神の力を使った封印でヒルダを止めた。


だが、最後の死者となった封印の神はヒルダの怒りをかい、その結果頭を跳ねられた。



ヒルダとしては封印の発動を阻止するために攻撃したのだが結果として殺す羽目になった。


だが今となってはどうでもいいようだ。


「じゃあ、今の最強の神は誰なんだ?」


「そうねぇ〜まだ神投票は行われていないのよ。あの戦争以来、沢山の神が死んで、神見習い達が早めの代変わりしたの、それからよ。代変わりを繰り返した者達や未熟な神達によってそれぞれの神の地位が落ちた者達が増えた。」


今の各神が死ねば必然的にその地位に着くのは神見習い。未熟者が勤めれば地位も落ち、他の輩に殺されるリスクも高くなるだろう。


「そう考えれば、封印されて良かったこともあるのかもしれないな、弱い神ばかりなら崩壊も早いだろう。」


なんとも軟弱な世界になったものだ。



「時代が違うのよ。昔みたいに血生臭いのも減ったし、何より平和になった。」



「つまらんな。」



「だから期待しるのよ、貴方にわ。この世界を壊してちょうだい。」


女はいつもと違って低くそう言った。

音程から彼女の本心だと思わせる。



「安心しろ。こんな世界など私が手を下さなくてもいずれ崩壊する。だが自分で壊さないと意味が無い。」


ヒルダの瞳は薄暗い夜の光に照らされ、突き刺すように変わった。




第1章


この世界は人間が住む世界と神人住む世界に二段階で別れている。



かつて、二重の世界が出来た時、人間は空にもう一つの透明な大地が増えたことに長く違和感を感じていた。



しかし、今ではこの景色が当たり前だと思うようになっている。



透明な地面に土が運ばれ、自然も芽生えて今では互いに生活が困らないように共存出来ている。



そんな平和な世の中だが、今日は一つ平和で無い所があった。


神の住む世界。綺麗なレンガの建物に今、煙が舞い上がった。


その煙の中には二人の男女が互いに武器を持って構えていた。


「いい加減観念したらどう!」


少女は持っていた二つの短剣を迎え立つ少年に勢いよく、振り下ろす。


「それはこっちのセリフだ。」


少年は無表情のまま腕を突きつける。すると少年の腕についている腕輪から一本の長々しい鎖が出始める。

その鎖は少女の腕を縛り、次に体に巻きついた。



身動きの取れなくなった少女は顔を歪ませて鎖から逃れようと体をひねるが既に時は遅く、少年が次の一手を打とうとするが、何かに気づいた少年は顔をはっとさせて鎖を回収した。



先程の戦いで破壊した天井から飛び上がるように素早くこの場を去った。


少女は力無く倒れるが聴こえてくる足音に驚いた顔をする。


「まったく、何回めだと思ってるんです!」


そこにやって来たのは眉間に皺を寄せた先生だった。そして、壊れた天井を見て先生の怒りは倍増したのだった。



神を育成する神人学園では、理事長室に二人の生徒が招かれていた。


「えぇ〜と、これで何回目かしら。」


頭を悩ませるように手を額に当てている女の人は疲れたような顔をする。

彼女はこの学園の理事長だ。


「二百四回目です。理事長。」


それを答えたのは先程の少年、トワイ・フォードだった。


「そうね。そしてこれで二百四回目の工事ね。」


理事長は黒い笑みを浮かべながら二人に言う。


「言っておきますが、僕も被害者です。事実、彼女のストカー被害に日々悩まされていますから。」


トワイは他人事のように言うと、隣に立っているディア・ルーカが理事長の机を叩いた。


「ストカーなんてしていません!私はただ彼がやる気も無いのに関わらず、私がなりたい神適性に彼が選ばれているのが気に食わないだけです。」


ディアの発言を聞いて理事長はため息をついて二枚の紙を見た。


「確か、首席のトワイ君の神手適性は魂の神ね。そして次席のディアは封印の神だったわね。…いいじゃない。位も高いしどちらもその役職に合ってる気がするけど。」


理事長の率直的な考えにディアはまた机を叩いた。

「そんなことありません!」


ディアの強い発言にトワイは呆れた目で見るが、それは理事長も同じことだった。


「とりあえず、神適性は仮の話だから。まだそうと決まったわけじゃないわ。せっかく二人とも成績のいい生徒なのに、今では学園を破壊する問題児になっているわ。」


理事長は非常にもったいないと言うような顔をする。


「仕方ないですよ。全て彼女が起こしていることなんですから。」


その瞬間、ディアはトワイを睨むが彼は無視して目をそらす。


「そうね。近々神研修もあるし、これ以上問題を起こさないでよ。それとディア、貴方は理事長の娘としての自覚を持ちなさい。理事長の娘が学園を破壊してるなんて言われたら他の生徒に示しがつかないでしょ。」


ディアは理事長の言葉を聞いて顔を暗くさせ、下を向いた。


「安心して下さい。既に言われてます。」


そう彼女は刹那げに言うと、理事長室を素早く出て行った。


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