猫耳合戦
すべての失恋した人に捧げます。恋は戦いだそうです。だましたもん勝ち。というような強引なところもあるのかもしれません。短編です。お楽しみください。
九州男児の友人が嫁をほしがっていた。
内容を訊いてみるに、「猫耳の女性でなければ、僕は結婚できないのだ」とおっしゃる。しかし、嫁は欲しいという。
こいつは最近、愛猫を亡くしたばかりで心が滅入っているのだろう。
優しい気持ちになりながら、諭す。
「画面の向こうにたくさんいるのではないか?」
「ならん。僕が求めるのは三次元の嫁なんだ」
「無理言うな」
切り捨てた。もう、無理だ。
おれは無理を言う友人をすげなくあしらおうとするも、おれの足に縋り付くそいつを見てると哀れになった。
「ぼくはこのまま結婚できなければ死ぬ!」
「大丈夫だ。おれもいつか死ぬ。お前も安心して死ね。そして、人間は結婚してもいつか死ぬ。誤解が解けてよかったな」
「ご無体なぁ! お前の人脈なら、なんとかなるだろう! 頼む。お願いだ」
その後は目覚めが悪く、知り合いの魔女を経由して猫耳の女性を紹介してもらった。
紹介する前に猫耳の女性に事前の確認をしてみた。
「おれがこれから紹介しようとするやつは友人としてはできた奴だけども、男としてできた奴かは知らん。ただ、猫耳であるということを条件に人を捜しただけだ。そんな奴だけども、本当にご紹介してもよいのか?」
というようなことだ。
「ええ。構いません。私も今までろくな男と出会うこともなかったですからね。これが最後と思って、アタックしてみます」
これまた、なかなかに肝の据わった女性だった。
目に力があった。不退転の覚悟とでもいうのか。
恋は戦争だったのだな。
猫耳の女性を友人に紹介してから、やつはたまにチャットで報告をしてきた。
二人でデートに行くたびに報告がある。
なにかしらののろけを聞くのにも、最初はほほえましかったが途中から飽いてきた。しかも、やっかいなことにそいつと飲んでる時も女の話ばかりだから、いやになるってなもんだ。
まあ、彼らがうまくいっているならば結構なことではないか。という風に思っていたところだが、梅雨の時期に事態は急変した。
『おい。大変なことになった。相談に乗ってくれ』
「やだ。断る」
おれは断ったというのに、あいつは続けた。今日は珍しくチャットじゃなくて、電話だ。なぜ、電話なんだ?
『すまん、今ちょっとパソコンの前に居られなくて、彼女とモーテルにいるから』
「おい。それ以上の直裁な描写は避けろ。本作が削除の対象になる」
えろくない。えろくない。話を訊けば、いたした後らしいが、彼女をほっておいて電話とはなんともけしからんやつだ。
『……彼女の耳が、猫耳じゃなくなってしまっているんだ』
ついにきたか。
おれは思考を最大限に稼働させながら考える。おおよそ、7通りの言い訳の中でもっともとおもわれるものをチョイス。ほかの6つは却下だ。
その間およそ、2秒。自分をほめたい。
「ほう。知らなかったのか? それは、猫耳の呪いを持つ女性の話だよ。愛する人と契を交わすまで、猫耳が取れないという呪いだよ。おまえたちの愛の行為に呪いが解消されたのさ」
『嘘だな』
ばれた。一瞬でばれた。
「とにかく、おれは知らん。彼女に直接訊かんか!」
俺は電話を切った。
問題を放り投げた。
おれの悪い癖だ。だけど、この問題っていうのはあいつらの問題なのだから。あいつらが片づけないといけないんだよ。
違うか?
人間の化粧なんてのはいつかはがれるもんだからね。
魔女に紹介してもらったのは、彼女の内弟子だった。話をしてみるところ、ちょっとした魔法でもって猫耳を作って、彼に会ってみましょう。とのことだった。
これがうまくいくこと。
とまあ、思った矢先のことだった。
魔女に電話を入れた。そいつは電話に出た。
『なにさ。急に電話なんかよこしてよ』
けだるげな、女性の声が聞こえた。
「ネコミミ バレタ ネコミミ バレタ」
数泊おいて。
『……まじか!? ついに? まあ、でもねぇ。あの娘にしちゃうまくやった方だと思うよ――』
魔女はしみじみと言った。彼女はあんまりできのよろしい方じゃなかったみたいで、師匠としちゃ、多少心配だったようだ。これを機会に男をひっかけてそのまま結婚しちまえばよいと思っていたようだ。
『――だけど、いつかはばれるもんだよ。あんまり心配するんじゃないよ』
「どういうことだ?」
『男に限ったことだけではないけどさ。女もそうさ。人が人を好きになるってのはさ、見た目とかそういったものはただの入り口よね。ひとつ好きなところが見えたら、ほかのことも好きに見えてしまうのよ。今、彼女たちの間には多くの好きの塊のなかから嘘が見えてしまったのよね。だけど、それでほかの好きが消えるのかと言ったら。まあ、大丈夫じゃないかな。それにふたりともいたしたんでしょ? あの子も気持ちよかったから、気が抜けて術が解けたわけだしさぁ、あん―』
えろくない。えろくない。
なんか、すごい良い話だったんだけど。途中から魔女が残念な推測を披露しはじめたので電話をガチャ切りした。
とにかく、心配するなとのことだった。
猫耳の魔法は化粧のようなもので、男を一時的に魅惑するためのかりそめの入り口で、一生化粧をとらないわけにはいかないわけで、そのばれ方が少しばかり、ちょっとばかり衝撃的だっただけなんだ。初めてすっぴんを見たみたいな感じなんだろうさ。
あとから、魔女に訊くに、魔女は魔女で伝書鳩で内弟子からデートの内容を逐一報告されていたらしい。
ベッドのことも書いていたらしい。ひどいもんだ。
この友人と魔女には妙なパイプができてしまったから、変なことを言うのはひかえよう。魔女に知らされたらたまったもんじゃない。
案の定、あいつらは、秋にもなると。
『おい。大変だ。相談がある』
「やだ。知らん」
『今度、俺たち結婚しようと思うんだ。お前たちに仲人をしてほしいんだよ』
「おれは独身だ!」
そういったのは、既婚者に頼め。いまどき仲人を立てる結婚式というのもすくないぞ。
『魔女のお姉さんに相手を頼めばよいじゃないか。似たようなもんだよ』
「あれは、とんでもない年のばあさんだぞ」
『見た目は若いじゃん』
「おれにはおれの理想があるんだよ」
とかいう、おれの理想とか、恋の入り口とか、そういったものを吐露するようになってしまった。
あのふたりを見てたら、ちょっとばかり。そういったことをあいつみたいに話してみてもいいかなぁ。なんておもってしまったんだ。
そしたら、魔女から連絡がきて。
『うちの弟子をもろうてくれんか?』
なんて言い出す始末だ。
おれはうてあっちゃならんと思って電話を切った。
……気が向いたら、電話してみようかな。と思う。
以上、ネコミミの話だ。
おれと魔女の話はまたいつの日にか機会があればしようかと思う。
訊きたい人がいればだけど。
いかがでしょうか。昔に書いた短編でした。
失恋に悩む知人の声が最近聞こえてきました。そういうことを思うと、昔書いた小話が思い出されて、今回のように公開しました。
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