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マジックハンド

オレたちキャメロン商会のメンバーはダル兄妹、それにタイタンで新たに雇い入れた200人ほどを引き連れて、タイタンの畑作地帯に来ていた。


見渡す限りの農地はイナゴに食い荒らされ、枯れた作物の残骸で埋まっていた。


タイタンの領主にオレたちが任された農地はだいたい6キロ四方の土地。36平方キロ、1平方キロが100ヘクタールだから、3600ヘクタールの土地だ。


この土地をタイタンで雇い入れた200人ほどで耕作する。1人あたりだいたい18ヘクタールの分担だ。普通に考えればかなり無茶な数字だ。しかし、オレたちには魔道具がある。


「はい、皆、注目!」


オレは1組の手袋と鍬を魔法袋から取り出した。手袋には左右それぞれに透明な無属性の魔石が2こずつついており、それぞれにLEDインジケーターが8つ、そして左側にUSB端子がついている。左右の手袋は2メートルほどのコードのようなもので繋がっていた。鍬の方はいたって普通の鍬だ。


手袋を両手に嵌め、鍬を持つ。


「レコード プロウ!」


手袋全体が薄く輝きを持った。そして、そのまま畑を数回耕した。枯れた作物の残骸ごと、土を掘り返し、混ぜ合わせていった。


「ストップ!」


オレは耕すのを止め、手袋を外した。手袋の輝きは消えている。


そして、両方の手袋を鍬に添えて叫んだ。


「プロウ リピート!」


手袋についた魔石が輝いた。空の手袋は中に手が入っているように膨らみ、オレの手を離れて浮かんで、そのまま鍬を持って畑を耕しだした。オレが先ほどした行動と全く同じで、若干スピードアップしている。


「「「おおおお?!」」」


集まった人々が驚きの声を上げている。


「この手袋はマジックハンドと言う魔道具だ。見ての通り、自分の行動を記録でき、その後、同じことを自分より少し早く、繰り返し、させることができる。今日は、これをつかって、皆に畑を耕してもらう。」


オレたちは、魔法袋からマジックハンドと鍬をとりだして、人々に渡していった。1人に10組渡して、操作してもらう。これで、実質200×10の2000人で作業にあたれるって寸法だ。1人あたり、1.8ヘクタールなら、それほどムリな数字でもない。しかも、マジックハンドは疲れ知らずだ。時々魔力を補充してやりさえすれば良い。


このマジックハンドはリリスさんから仕入れた用途の分からない道具の中にいっぱいあったものだ。転移ドアプレートといい、本当にお買い得だったな。


今回用意したマジックハンドは約2000組、たった3つの木箱のどこにそんなに入っていたかと言うと、専用のケースに入っていて、ロックがかかっていたのだ。このケースの中は魔法袋と同じで中は亜空間になっていて、見た目からは信じられないくらいの容量があった。


ロックは遺跡などと同じようにUSB接続するだけで開いた。中には結局、5000組ものマジックハンドが入っていた。このことをリリスさんに話すと悔しがるだろうな、組み込まれている魔石の価値だけでも莫大なものだからな。……言わないでおこう。


渡されたマジックハンドと鍬を手にした人々が割り振られた担当場所にそれぞれ散って行き、作業を開始した。


「えいさ!」「よいしょ!」「よいしょ!」


ダル兄妹もこの作業に参加している。子供なので、3人で大人1人分の土地を任せることにした。この子たちが使っているマジックハンドにはパワーアシスト機能も働かせているので、大人と同じように作業ができている。とはいえ、小さいチルやミルが一生懸命、大きな鍬を振るう姿は健気で可愛らしかった。


因みにこのマジックハンドを使った作業、USB端子からデータをやり取りすれば、一番上手い人のデータをコピーして他のマジックハンドに分配することもできる。そうした方が効率的なのではあるが、それぞれの個性が多少反映された方がやりがいがあるだろうし、将来的にオレたちがいなくても作業ができなくてはいけないから、こうしている。





30分もすると皆、全てのマジックハンドの起動を終え、休憩しだした。


7人分くらいを1区画とし、各区画の隅には休憩用のプレハブが設置されいる。


「「「おいしぃ!」」」


ダイダロスで仕入れてきたクッキーをダル兄妹に出してやると、大喜びで食べている。


オレたちはダル兄妹用に設置されたプレハブで休憩している。


この世界の食べ物は、基本オレがいた地球と変わらない。米もあるし、麦もある。調味料もほとんど同じものが揃っている。時間軸がずれて昔から転移者や転生者が多く訪れていた結果かもしれない。


オレはクリスさんがいれてくれた紅茶を飲みながら、ダル兄妹が美味しそうにクッキーを食べる様を見ていた。


「よし、じゃあ、ダルたちは、この後、マジックハンドの動きを見張りながら、耕作を続けてくれな?」


「「「はい!」」」


クッキーを頬張りながら返事をしてくれる様がまた可愛らしかった。


「リンダ、オレたちはタイタンの建設現場の方を見に行こうか?」


「そうじゃの、では、ダル、チル、ミル、頑張るのじゃぞ?」


「「「はい!」」」





タイタンのスラム街跡に来るとそこは巨大な建物の建築現場になっていた。


100メートル四方くらいのコンクリートの基礎が作られ、その上にごつい鉄骨が組み合わされて建物が建てられていっている。


現代日本だと、こういった巨大な建物の横にはクレーンがつきものなんだが、ここにはそれがない。


数人が鉄鉱石の塊のようなものを取り囲んでいた。


「「「「アイアン!」」」」


人々が同時に叫ぶとその腕に嵌められた指輪の魔石が黄色に輝き、その光が鉄鉱石を包み込み、やがて、それが大きさ、形を変えていった。光が収まると、そこには大きな鉄骨ができていた。


あれは、ロックの魔法をカスタマイズした魔法だな、サヨがカスタマイズしたんだろうな。


「グラビティ!」


ヒョイ


作業員の1人が叫ぶと、黒い光がその鉄骨に吸い込まれていった。そして、軽々とその鉄骨を持ち上げると建設中の建物の所定場所に運んで行く。このグラビティの魔法があるから、クレーンは必要ないんだよな。魔法便利だ。


鉄鉱石や、石灰石、粘土、けい石などの材料が積み上げられている山があり、その横に他より少々大きめのプレハブが建てられていた。


魔法で造った直後は穴が開いているだけのプレハブだが、それには、ちゃんとしたドアや窓がはめ込まれていた。周りを見ると、オレたちが最初に作ったプレハブにもドアや窓が全てはめ込まれていた。


「ドアと窓がはまると、プレハブもちゃんとした家に見えるな。」


「そうじゃの、住民も満足そうで、良かったのじゃ。」


ガチャ


資材横のプレハブに入ると、そこでは設計図を見ながら、忙しそうに指示を出すサヨがいた。


サヨはオレたちに気付くと軽く頭を下げた。


「いらっしゃい、リンダちゃん、こんな狭苦しいところによく来てくれたわね。」


「サヨ、キャメロン農業社ビルの建設の調子はどうじゃ?」


「以前の施工事務所の仲間を上手く集められたから順調よ。遺跡のPCでCADが使えるようになったことで、設計も完璧。資材調達と組み上げも魔法を上手く使うことができているわ。この地に日本の高層ビルを出現させられるなんて、ワクワクが止まらないわね。」


サヨは子供のようなキラキラした目をしている。


「うむ、ところで、これは何階建てになるんじゃったかな?」


「地上30階、地下3階の予定よ。」


「そうか、中に入るテナントも頑張って集めなければならんの。」


この地に30階建ての高層ビルが出現すると目立つだろうなぁ……

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