スクラップアンドビルド
「皆、準備はいいかの?」
「いいぞ、」「いいです。」「いいよ。」「「「OKです。」」」
オレたちのキャメロン商会のメンバーとダル兄妹はタイタンのスラム街にある廃墟の1つを取り囲んでいた。リンダは元の子供の姿に戻っている。領主に会う時に大人のリムルの姿になっていたのは、ここの領主がエルフであると事前に知っていたかららしい。
「では、いくぞ? せーの!!」
「「「「「「「スクラップ!」」」」」」」
皆の左手人差し指に嵌った指輪が黄色く輝いた。やがてその光は集合し、廃墟全体を取り囲んだ。
光が収まると、そこに廃墟はなく、廃墟があった中心に1メートル四方ほどのレンガの塊のようなものがあった。
「よし、OKなのじゃ。次にいくぞ!」「「「「「「はい。」」」」」」
あたりを見ると、オレたち以外にも7人前後で1つのグループをつくり、あちこちで同じように廃墟を取り囲んで[スクラップ]の魔法を使って解体作業をしていた。
この世界でも質量保存の法則は健在だ。ロックの魔法で自在に岩を作り出せるが、なにもないところから突然岩ができる訳ではなく、空気中の炭素や酸素、そして土中の鉄分などを取り込んで岩を生成する。
逆もまたしかり、突然物が完全に消えたりはしない。このスクラップの魔法はロックの逆で、物を分解する。その時、物質を空気中に溶け込ませて、消えるように見せかけることはできるが、それでは時に有毒ガスを発生させることもある。そのため、対象の構成物質を一まとめにしてかためるようにしてある。
スクラップの魔法は大規模な解体を想定して、7人前後で使うように設定してある。1人でも使うことはできるが、その範囲は限られており、建物1つを解体するのに時間が相当かかる。全体の息があえば、このように一瞬で解体できるのである。
2時間もすると、スラム街はすっかり、平らなサラ地へと変わっていた。
「グラビティ!」
猫耳少女チルの右手人差し指に嵌った指輪が黒く輝いた。その光は廃墟があった中心にできた大きなレンガに吸い込まれていった。
ヒョイ!
チルがそれに手をかけると簡単に持ち上がった。グラビティの魔法は闇の魔石がついた汎用魔法リングで元々使える魔法で、重力を遮断し、かけた物質の質量を限りなくゼロにする。
「わ、軽い!」
チルは楽しそうにその自分の体より大きなレンガを運んで行き、今回できた広大なサラ地の隅においた。
「解除!」
ズン!
レンガはチルの解除の声と共に重さをとりもどしたようで、地面にややくいこんだ。
「ああ、20個ほどは、そこの印のある場所に運んでくれなのじゃ。」
「はい。」
同じように大きなレンガを運んで来たミルにリンダが声をかけると、ミルは×印がついた場所へとそれを運んでいった。
「では、いくぞ?」
「「「「「「はーい。」」」」」」
オレたちはサラ地の隅に等間隔に置かれたレンガの1つを取り囲んでいる。」
「せーの!!」
「「「「「「「プレハブ!」」」」」」」
皆の左手人差し指に嵌った指輪が黄色く輝いた。やがてその光はレンガを中心に集合し、膨らんでいった。
光が収まると、そこには正に現代のプレハブのような建物があった。ただし、壁は石で窓と入口は、ただ穴が開いているだけだ。
プレハブの魔法はロックの魔法をカスタマイズしたものだ。モデリングデータをプレハブの形にし、多人数で同時に発動することで大きな物を作ることができるようにしたものだ。1人でも使えるが1人ではお人形さんが使うプレハブになってしまう。
解体の時と同じように手分けしてプレハブを建てると、あっと言うまに20個のプレハブができあがった。プレハブ1つの大きさは、中が約10畳ほどの大きさだ。
タイタンの街で大量に人を雇い入れたのはいいが、ダイダロスのキャメロン商会ビルでは全てを収容しきれなかった。そこで、タイタンのスラム街を潰してキャメロン農業社ビルを建てて、そこに収容することにしたのだが、それまでの急場しのぎと、もともとスラム街にいて、うちで雇い入れない人用にサラ地の隅にプレハブを造ることにしたのだ。
それぞれのプレハブには簡易水洗トイレとキッチンがついている。それに水が流れる魔道具を設置していき、トイレに大きな布で目隠しをして、とりあえず完成だ。
プレハブの1つをキャメロン関係者専用にし、小屋の隅にキャメロン関係者の身分証をもつもののみが通れる結界を張る結界石をおいた。
1つの壁に木枠とドアがついたものをはめ込んだ。プレハブの壁にはこうして木枠付きドアを嵌めこめるようにそれぞれの壁に凹みができている。
ドアに転移ドアプレートをつけると、プレートの真ん中にあったLEDが黄色から青色に変わった。
ガチャリ!
ドアを開けると、そこはキャメロン商会ビル1階の再生作業室だった。
「ピート! いるかのぁ?」
「はあい!」
リンダが声をかけると、黒髪黒目の青年が大きな寸胴鍋を持って現れた。その後ろには同じく大きな寸胴鍋を持った黒髪黒目の女性が付き従っている。
「ピート……準備はできているようじゃの? では頼むのじゃ。」
「はい。」
ピートを先頭に、再生社のメンバーが次々と現れ、大きな寸胴鍋を運んで行く。リンダはサラ地の広場に等間隔で台を魔法袋から出して並べて、その上に寸胴鍋を置かせた。その横にロックの魔法で造った簡単な器と匙を積み上げる。
リンダは拡声器のような魔道具を出して、叫んだ。
『キャメロン関係者とスラムの皆! 食事の準備ができたのじゃ、出てくるのじゃあ!!』
バラバラとプレハブの中から人が出てきた。早速皆、プレハブの中の様子を見ていたようだ。
恐る恐る小汚い中年男性がリンダがいる寸胴鍋の台の前に来た。
「オレは、あんたんとこの会社と関係ないが、貰ってもいいのか?」
「ああ、今回の炊き出しは誰にでも振舞ってやるのじゃ、遠慮せずに食うのじゃ!」
そう言って、リンダは寸胴鍋の蓋を開けた。
中には美味しそうなイモ煮があった。それを器によそって男に渡した。男は匙でそれを一口食べた。
「う……美味い。こんな美味い物、食べたの初めてだぁ!」
「「「わああ!」」」
男のその言葉を聴いた人々はそれぞれの寸胴鍋に群がった。
『おちつけい!!』
拡声器を通したリンダの大声に人々がピタリと止まる。
『食べ物はたっぷりあるのじゃ。おちついてそれぞれの台の前に1列に並ぶのじゃ!』
それから、人々はそれぞれの台の前に整然と1列にならび、イモ煮を受け取っていった。その列の中にはダル兄妹の姿もあった。
あいつら、ダイダロスの食堂でたっぷり食べてるはずなんだけどな……まあ、こういった場所で皆で食べる食事はまた別の美味しさがあるかな。
タイタンの住人は全体的にエルフや頭に獣の耳をつけた獣人が多いようで、現在サラ地にいる人々の約8割くらいがそういった人々だった。
「お母ちゃん。美味しいね!」
「そうだねぇ。美味しいねぇ。」
頭に犬耳らしきものをつけた親子が美味しそうにイモ煮を食べる姿を見て、思わずホッコリしてしまった。
「いいのう、我もあんな可愛い娘が欲しいのぉ。」
いつのまにか、全てのイモ煮を配り終えたリンダがオレの横に来ていた。
「いや、その姿のリンダが言ってもなぁ……」
オレは8歳児の姿のリンダを見下ろしながら言った。あの女の子とそう変わらないぞ。
「なっ……なんじゃとう!? みっ見ておれ、今晩はマサルを我の大人な魅力でヒィヒィ言わせてみせるからの? 覚悟しておくのじゃ!」
「はいはい、楽しみにしておくよ。」
そのリンダの言葉通り、その夜、オレは大人なリンダとクリスさん、デイジーちゃんに絶妙なコンビネーションでせめられ、ヒィヒィ言わされた。……うん、気持ち良かったよ。




