金色弓姫
ウエスタンスタイルのトビラを開けると、中には見るからに荒くれ者と分かる奴らが集っていた。
そいつらの目が釘付けになった。
皮鎧に包まれながらもスラリとした抜群のスタイルを誇示した美女が現れたからだ。金髪をお下げにした顔には澄んだ碧色の瞳があり、その造詣は信じられないくらいに整っていた。オレの専属護衛であり、彼女のクリスさんだ。
荒くれどもは、隣にいるオレのことなど目に入っていないようだ。実際、クリスさんは180センチの長身なのに対してオレは150センチしかないから、クリスさんの顔を見てると、オレの顔はまったく視界に入ってこないのだろう。まぁ、気付いても従者くらいにしか見られないかもな……だが、クリスさんはオレの彼女であり、オレはクリスさんの彼氏だ!
ここは、ダイダロスの街の冒険者ギルドだ。昨日、ダンジョンで手に入れた汎用魔法双刀弓の試射をするために、ここの訓練場を使わせてもらおうと思って来たのだ。
ギルドに入ってすぐのロビーには受付が3つあり、打ち合わせ用のテーブルも3つあった。側面の壁には依頼と思われる紙が多数貼り付けられていた。
クリスさんは、人のならんでいない受付に行き。微笑みながら声をかけた。
「こんにちは。ビジターとして、射撃訓練場を使いたいのだけど?」
亜麻色髪でショートカットの受付嬢は、ぼーっとしていた。うん、分かる。あの笑顔を見せられると見とれちゃうよね。その威力は同姓に対しても健在のようだ。
「あの? 大丈夫?」
「はっ! すっすみません。 えと、お1人での使用ですか?」
「いえ、2人での使用です!」
そこで、オレが存在感を示すべく、声を上げた。
「あ、お連れさんがいたんですね。では、ビジター2人での射撃訓練場使用ですと、800Gになります。ここに、身分証をお願いします。」
受付嬢が支払い水晶を出してきたので、オレは素早く自分の身分証をかざした。シャリーン! 小気味良い音がして支払いが完了した。
「マサルさんたら、もう! 今日は、あたしの新装備の試射がメインなのに……」
「まぁ、まぁ、いいから、いいから。」
クリスさんが、頬を膨らませていらっしゃる。しかし、オレと2人でいる時にクリスさんに支払いをさせてなるものか! 絶対オレが払う! まぁ、リンダがいれば、全部リンダに払わせるけどね。
「ふふ、仲が良いんですね。はい、これが整理券です。3時間を越えると追加料金が発生しますから気をつけてくださいね。……あの、金色弓姫のクリスさんですよね?」
「ありがとう。え……あ、はい。」
金色弓姫? なにそれ? もしかして二つ名ってやつなのか? かっけー! 真っ赤になってるクリスさん可愛い!
「私、ファンなんです。握手してください!」
「ええ、いいわよ。」
「ありがとうございます。」
受付嬢はクリスさんの手を両手で握って、目に涙をうかべていた。
「お、おい、金色弓姫って、1人で帝国の騎馬隊を全滅させったっていう……」「ああ、噂通りの美人だな。」
荒くれの野次馬どもが俄かにざわめきだした。
「マ、マサルさん、行きましょ!」
これ以上ないくらいに真っ赤になったクリスさんが、オレの手をとって、足早に訓練場に向った。
途端に、オレに刺すような視線が集中した。
「なんだ? あのチビ!」「金色弓姫の男か? あんなのが?」
野次馬どもが騒いでる。なんか、やな予感がする。
冒険者ギルドの建物の裏に出ると、400メートルトラックくらいの広場があり、その隣に飛行機の滑走路みたいな、長大な直線の広場があった。一番端はこの街の外壁に面しているようで、的の上には1000と書いてある。おそらく、あそこまで1000メートルってことだろう。
「えと、一番端でいいみたいね。」
クリスさんは、整理券を確認し、一番端の的の前に陣どった。
両腰に佩びていた小太刀を抜き放ち、互いの柄の底を連結させる。
カシュン!
小気味良い音が鳴って、2つの小太刀は綺麗に連結された。それと同時に両方の刀身が細く伸び、しなりを見せる。なんとなく、弦のない弓の姿になった。
「ファイヤーアロー!」
その掛け声と同時に小太刀の先端同士の間に光の弦が出現した。刀身の腹には、それぞれ8分割した光が灯り、残り魔力を示している。今それぞれの魔石は予備にも火の魔石が嵌っているため、火の魔石は全部で4つ、それぞれ4発で、合計で16発撃てるようだ。
クリスさんは、光の弦を右手で引いた。半分くらい引いたところで、その手に炎の矢が出現した。メラメラと燃え盛っているように見えるが、射手は熱くはないようだ。刀身の光の1つが消えた。
ギリギリギリ
尚もクリスさんは、弦を引き、鋼と思われる弓が極限までしなった。
ビシュ!
炎の矢が勢い良く飛び出した。
ドン!
200メートル先の的にそれは命中したが、2メートルほどある的の端のほうだった。
ドンドンドン!
続けて、3発、矢を放ったが、どれも的の端だった。2矢目以降は掛け声は必要なく、弦を引けば即座に矢が現れ、光が消えていた。
「……マサルさん。少しこれ、調整できないかしら?」
クリスさんが、オレに振り返り、相談してきた。
「ん? どうしたの? どんな感じなの?」
「なんて言うか……軽すぎるの。手ごたえがなさ過ぎるって言うのかしら……」
「なるほど。」
そりゃ、実体のない魔法の矢だもんな。いままで本物の矢を放ってきたクリスさんには軽すぎるのだろう。
「ちょっと見てみるね。」
オレはクリスさんから、弓を受け取り、一旦分割して小太刀に戻して、USB端子にノートPCを接続した。
うーん、これかなぁ? 多くのファイルがある中で、オレは[arrowconfig]なるファイルを見つけて、メモ帳で開いた。
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矢の環境設定ファイル、
矢の疑似重量をwで1-1000の範囲で、疑似体積をvで1-10000の範囲で設定します。
一般的な矢はwが100、vが1000です。
w=50
v=1000
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なるほど、本来の重量の半分くらいに設定されてたから、クリスさんは違和感を感じたんだな。
w=100にして上書き保存した。
魔力も補充して、連結しなおした弓をクリスさんに渡す。
「はい、これで、それほど違和感がなくなったと思うよ。」
「ありがとう。……ファイヤーアロー!」
クリスさんは、再び炎の矢を的に向けて、引き絞る。
ビシュ! ドン!
今度は見事に的のど真ん中に命中した。たった1回で修正するとは、流石クリスさんだ。
ビシュ! ……ドン!
400メートル先の的にも矢は放物線を描いて飛んでいき、見事に真ん中に命中した。
ビシュ! …………ドン!
『600メートルの的の真ん中に命中!』
拡声器みたいな物から声がした。この距離になると、的のどこに当たったか、視認するのが困難なので、係員の人が見て、魔道具で伝えてくれるのだ。
ビシュ! ……………………ドン!
『800メートルの的の真ん中に命中!』
「金色弓姫が800メートル先の的に当てたぞ!」「「「おおおぉぉ!」」」
ギルドのロビーからついてきた野次馬どもが騒いでいる。
ビシュ! …………………………………………ドン!
『1000メートルの的の真ん中に命中!』
「誰も当てられなかった1000メートルの的の真ん中に金色弓姫が当てたぞ!」「「「「おおおおおおおぉぉぉ!!!」」」」
射撃訓練場はお祭り騒ぎになった。




