コブリン討伐
コブリンの生首に睨まれて泣きついた情けないオレをリンダは優しく頭を撫でながら慰めてくれた。
「人型の魔物を倒すのは、心にくるものがあるからの。マサルがそうなるのもムリもない。しかし、この世界では、それに立ち向かえないと早死にしてしまう。前世の我のようにな。」
オレは涙に濡れた目でリンダの顔を見た。その顔はすごく悲しそうだった。
「リンダの前世って……」
「前世の我は街中で魔人に食い殺されてしまったのじゃ……」
「え? でも、ピートたち6人を魔人から元に戻したじゃないか……怖くなかったのか?」
「怖かったさ、泣き叫びたかった。逃げ出したかった。しかし、それでは前世と同じじゃと思って歯を食いしばって頑張って立ち向かったのじゃ。」
「……そうか、こんな小さなリンダが頑張ってるんだ。大人の男のオレが泣きごといってられないな。」
「マサル、我は大人じゃからな?」
「心は……だろ?」
「ぬぬぬ……今に見ておれ、魅力的な大人な体になって、マサルに我を好きだと、言わせてやるのじゃ!」
「はいはい、その時を楽しみにしてるよ。」
その光景をニコニコと見守るクリスさんの姿がオレの目に映った。
「あ、クリスさん。オレが好きなのはクリスさんですからね? クリスさんが一番好きですよ?」
「はい。でも、あたし、お嬢様も、マサルさんも同じくらい大好きですから……」
ガバ!
クリスさんが、オレとリンダをまとめて抱きしめてきた。
「マサルさんも、お嬢様を好きになってくれて、皆で愛し合えるのが一番幸せですよ?」
え? なにそれ? まさかの浮気推奨宣言?
ガバ!
そこにデイジーちゃんも抱きついてきた。
「なんだよ、あたいも仲間に入れてくれよぉ。あたいだって、お嬢とクリスのことが大好きなんだぜ? その2人が好きなマサルも絶対好きになれると思うからよぉ。」
おぉ? まさかのハーレム状態? いやいや、落ち着けオレ、小心者のオレに複数の女性とつきあう甲斐性などあるものか。
とにかくオレが好きなのはクリスさんなんだ。クリスさんの幸せが一番! ……でもそのクリスさんが望むなら、リンダとデイジーちゃんとも……ってありなのか?
そんなことを考えていると、コブリンに対する恐怖など、すっかり消えていた。
よし、頑張って、コブリンを倒そう。でも、オレ、この娘たちに拾われて本当に良かったなぁ。
通路の先に6つの影があった。コブリンだ。
「リンダ、ここはオレにやらせてくれ!」
「ぬ? 大丈夫なのか? マサル。」
「ああ、やってみせる。コブリンなんかに負けるか!」
「……よし、まかせたのじゃ! マサル。」
「マサルさん頑張って、でもムリしないでね?」「がんばれよ、マサル!」
「ああ、ムリはしないで、頑張る。」
オレは、PCバッグを通路の脇に置いて、魔法ブレスレットのついた左腕を前に突き出す。コブリンどもはまだ気付いていない。
「バレット!」
岩砲弾がオレの目の前に現れ、コブリンどもに飛んでいった。
ドゴーン!
「ギャアアアア!」
2匹のコブリンがまとめて吹き飛んだ。1つは首が弾け、1つは下半身がなくなった。上半身だけになった奴はまだ苦しそうに動いている。うぇ、グロイ。
「グギョオオオ!」
残った4匹のコブリンが目を血走らせて、オレに駆け寄って来た。ふん、そこまで近づけばこれが使えるぜ!
「ブリザード!」
オレの左腕から極寒の冷気を含んだ竜巻が発生して、コブリンどもを凍りつかせた。
しかし、1匹だけ、範囲外にいたようで、変わらずに突っ込んでくる。
「フライ!」
オレは黒い光と風に包まれる。
フッ!
突っ込んで来たコブリンの前から一瞬で姿を消す。
オレを見失ったコブリンはキョロキョロとあたりを見回している。
上空に逃れていたオレは腰の短剣を抜き、構える。
ドン!
上からコブリンを串刺しにして地面の岩に縫い付けた。
「ギョエェェェ……」
胸を刺されたコブリンはしばらくオレを睨みつけていたが、やがて、その目がうつろになり、光の粒子となって消えていった。あとには、小角と魔法の指輪が残っている。
見たか! 運動音痴のオレでもフライを使えば、これくらいのことはできるんだぜ! 完全に魔道具の魔法頼みだけどな!
「マサル! よくやったのじゃ!」「マサルさん、かっこよかったですよ!」
「おぅ!」
リンダとクリスさんが褒めてくれるのに、オレは片手を上げて答えた……が……
「おぅええええ!」
コブリンのスプラッタシーンが脳裏に蘇り、吐いてしまった。
「マサルさん……大丈夫? 今日はもう帰る?」
クリスさんが、オレの背中を優しくさすりながら聞いてくる。
「……いや、大丈夫。今日はせめて、この階層のボスを倒しておきたいから、もう少しがんばろう。」
それから、4匹の集団と5匹の集団のコブリンを皆で倒し、ボス部屋に向かうことにした。




