ある設計士の物語
「よし、OKだ。よくがんばったな、相田。」
「はい、ありがとうございます。」
私は、相田 小夜、中堅建築設計事務所の若手社員だ。
今日、やっと自分が最初から手掛けた設計図に課長のOKがでた。クライアントの最終確認が残っているが、要望は全て盛り込んであるから問題ないだろう。私が設計したビルが、ついに建つんだ。
その日の帰り、るんるん気分で私は駅のホームでスキップしていた。
ドン!
「あ?!」
後ろから、走って来た人にぶつかられ、私はふっとばされ、ホームから下に落ちてしまった。
プアアアン!
特急電車が猛スピードで入ってきた。
そこで、私の意識は途切れた。
「……!」
聞きなれない言葉が聞こえる。何これ? 英語じゃないし、 ドイツ語? ロシア語? まぁ、どっちも良く分からないけど……
目を開けると、私の顔を心配そうに覗き込む、金髪のおじさんの顔があった。
私は、首を振って、分からないって意思を示した。
すると、おじさんは、透明な石のついた指輪をとりだし、私に渡してきた。
え? なにこれ? 嵌めろって?
私はその指輪を左手の小指に嵌めた。
シュ!
おぉ、なにこれ、嵌めた瞬間、ピッタリになったよ、不思議。
「これで話が通じるかな? お嬢さん。」
「あ、はい。」
「オレぁ、ビル・ブライアン。このダイダロスの街で大工をやってるものだ。あんたは?」
「私は、相田 小夜、サヨです。」
これが、私とビルさんとの出会いだった。
どうやら、私は異世界に来てしまったらしい。
前の世界の私は、あのままだと電車に轢かれて、即死だったと思うんだけど……もしかして生まれ変わり? それとも死後の世界がここだったり?
まぁ、どちらでも良いか、とにかく、私はアバタール王国のダイダロスって街に突然出現したらしい。
私が現れたのは、ビルさんの家の庭先だったらしく、親切なビルさんが助けてくれたのだ。
「すごいじゃないか? サヨ、この斬新なデザイン、お客さんに大好評だったぞ。」
「はい、よろこんでもらえて、よかったです。」
1ヵ月後、私はビルさんのところで、建物の設計の仕事をやらせてもらっていた。
この世界は、日本の明治時代くらいのレンガ造りの建物がはやりだした感じで、前の世界で私が勉強のために頭にたたきこんだ設計図を描いて、ビルさんに渡すと大喜びしてくれた。
「よし、じゃあ、うちの新しい社屋の設計、デザインもサヨに頼もうかな?」
「え、本当ですか?」
「ちょっと待ってくれ、そいつあ、オレに任せてくれる約束じゃねぇか?」
先輩設計士であるケンさんが異議を唱えた。
「そういえば、そうだったな。しかし、それを決定した時にはサヨはいなかった訳だし……よし、では、こうしよう。2人に基本設計図とパース図をつくってもらって、それを比べて、皆で良いと思った方に投票して決めよう。」
「……そんな。」
ケンさんの顔は絶望に染まった。
新しい社屋の設計条件は、私が前の世界で最後にやっていた仕事に酷似していた。
あの時、やれなかった仕事を今度こそやる……そんな思いで、私は基本設計図とパース図を作った。
結果は、私の圧勝。
鉄筋コンクリートによる新工法に加え、洗練されたデザインのパース図は誰もが見ほれるくらい美しかった。
「やってられるか!」
ケンさんは、製図版を叩き割って、事務所を出て行った。
10ヵ月後、新社屋の完成直前にビルさんは、路上で刺された。
刺したのは酒に溺れて、慢性アルコール中毒になっていたケンさんだった。
カリスマ経営者を失ったビルさんの施工事務所は、あっというまに空中分解し、私は職を失った。
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「………ってことがあったんですよ。」
「ちょっと待って、刺された前のオーナーってビルさんのこと?」
オレは領主館の客間リビングでユーレイのお姉さんの話を聞いていた。
「そうですよ。」
「でも、あのビルで、『私のビルを勝手に売るなっ』とか叫んでたじゃない。」
「私が設計したんだもの、私のビルであってるでしょ?」
「………」
「………」
「まぁ、それは、ひとまずおいておくか。じゃあ、なんでサヨさんはユーレイになってるの?」
「ビルさんと職を失った私が自宅の賃貸アパートで酒を飲みながら、『おのれ、ケンめぇ……呪ってやるぅ。』って、ずっと思ってたら、いつのまにかこの姿になってたのよね。」
「それで、ケンさんを呪い殺したの?」
「いえ、私が呪う前に、自分で首つって、死んでたわ。」
「……そう、じゃあ、なんで、あのビルの受付に居たの?」
「なんか、もとに戻れなくなっちゃったから、なんとなく手持ち無沙汰で? あと、夜になると、少しは物を動かせたりできたから、下見で泊まってた人たちを脅かしてたりしてたの。あのビルは私のだもん、変な奴に使わせないわ!」
「……とにかく、サヨさんの賃貸アパートに行ってみましょう。」
サヨさんのアパートの部屋に行くと、衰弱しきっているものの、まだ息のある体があったので、ヒールを魔力補充しながら10回ほどかけると回復し、ユーレイも本体に戻ることができた。
結局、本物のユーレイじゃなくて、幽体離脱の幽体だった訳ね。
でもなんで、オレだけ、幽体のサヨさんをハッキリ見ることができたんだろ? 同じ世界の人間だから波長みたいなものが合ったのかな?
「ってことで、設計士のサヨさんです。」
「サヨ・アイダです。よろしくお願いします。」
黒髪黒目の美女がペコリと、お辞儀した。
サヨさんは、自分が設計したこのビルに愛着があり、ここで働くことを強く希望したので、うちに来てもらうことにしたのだ。
「うむ、マサルのいた世界の設計士なら、期待できそうじゃな。よろしくたのむぞ!」
ここは、サヨさんがユーレイとして受付にいたビルの一室だ。すでにキャメロン商会の本社ビルとして整備されている。下見をしてから3日しかたってないのに、リンダは仕事が速いね。
サヨさんには、ここで建物だけじゃなく、各種部品なども設計してもらおうかと思っている。
ロックの魔法があれば、モデリングデータをすぐに出現させられるからね。
とにかく、オレたちは、現代日本の設計士を手にいれた。




