ユーレイのお姉さん
オレはソファに寝転がって自分の身分証にあるお金を見ていた。
[16,032,410,000]と商業ギルドに預けてある部分にある。
160億G。
この世界では、ほぼ1Gイコール1円と考えて良い。
つまり、オレは160億円もっている。
魔石の再生事業、魔法袋の拡張、製塩事業、イナゴ撃退の防衛システムの構築などで、キャメロン商会は莫大な利益を得た。
そして、オレはリンダと出た利益の3割をもらう完全歩合制の契約をしていたので、これだけの報酬を積み上げることができたのだ。
「いっぱいお金ありますね。」
膝枕をしてくれているクリスさんがニコニコしながら言った。
ここは、ダイダロスの領主館の中にある客間に割り当てられたリビングルームだ。
オレたちは、イナゴ退治をしたあと、3日ほど、ここでゆっくりしている。
「うん、これだけあれば、一生遊んでくらせるね。」
「そうですね。」
「あの、クリスさん。よかったらオレと……」
バタン!
勢い良くドアが開けられてリンダが入ってきた。また、邪魔しやがって、おじゃまむしめ。
「マサル! ビルの下見に行くぞ、つきあえ。」
「ええ?! オレ、今、忙しいんだけど……」
「バカップルがイチャついとるだけにしか見えぬわ。いいから、早く準備しろ。下見に来ぬと、クリスと別々の部屋にするぞ?」
「はい!すぐ準備します。」
オレは飛び起きて、準備した。
オレたちは地元ダイダロスの不動産屋の案内で、ここでのキャメロングループの拠点となるビルを下見していた。目の前には、木造3階建ての大きな建物があった。
「ここですと、土地込みで2億Gでお譲りできます。」
小太りで頭の禿げた不動産屋が揉み手をしながら、リンダに説明している。
「いくら広くて、安くても、やっぱり木造はダメじゃな、防犯上問題がある。」
「そうだな。」
オレもリンダの意見に頷く。うちには、イロイロ、機密にしなければならないことがあるからな。木造建ての建物じゃ、セキュリティが万全にできない。
それから、2件ほど見てまわったが、小さすぎたり、大きすぎたり、なかなか希望通りの物件がなかった。
今日はもうダメかな……と思い始めた4件目の物件を見て、オレは大きく目を見開いた。
コンコン!
これは、コンクリートか?
「みたこともない素材でできておるな。不動産屋、これは何じゃ?」
「はい、これは鉄の芯を中心にして、それをコンクリートなるもので固めて造られています。なんでも異世界の技術で、鉄筋コンクリートと言うそうです。」
そう、正に目の前には鉄筋コンクリートの4階建ての建物がそびえたっていた。
「ほう、丈夫そうで、なかなか良いではないか。広さも丁度良さそうじゃ。早速中を見てみようぞ!」
「いらっしゃいませ!」
トビラを開けて中に入ると、そこに受付があり、黒髪黒目の美女が座っていた。
しかし、リンダと不動産屋は、それを無視してズカズカと中に入って行く。
ん? 無視した? いや、あの様子は見えてないのか?
あ、受付のお姉さんの額に青筋が出てる。
「中もなかなか綺麗で良いではないか。」
「はい、ほぼ新築ですから、前のオーナーはこの建物の完成を見ずして、部下に刺されて非業の死を遂げましてねぇ……」
「ほう、それは気の毒にのう……」
「ちょっと、私のビルを勝手に見ないでよぉ!」
受付のお姉さんはリンダたちを追いかけてきて、文句を言っている。
しかし、やっぱり、リンダたちには見えていないし、声も聞こえてないようだ。
この子は……ユーレイ……なのかなぁ?
「して不動産屋、このビルはいくらじゃ?」
「はい、土地コミコミで5億Gでいかがでしょう?」
「なんじゃ? 安すぎるのではないか? レンガ造りでもこの大きさで、この新しさなら10億Gは下るまい?」
「ええ、最新の鉄筋コンクリートで、丈夫さもピカイチなので、本来なら20億G以上で売却したいところなのですが……」
「ん? なにかあるのか? 」
「ええ、実は、このビル……でるんですよ。」
不動産屋は、両手をダランとさせてジェスチャーした。幽霊を示すジェスチャーはこっちでも変わらないのか……
「は? ユーレイか? そんなもん、街中におる訳がなかろう。」
「……そ、そうですよね! で、いかがでしょう?」
「よし、買った。早速、事務所に帰って契約なのじゃ。」
「はい!」
「ちょっとぉ! 私のビルを勝手に売るなぁ、このハゲデブ!」
黒髪のお姉さんは、不動産屋を殴ろうと拳を振り回しているが、スカスカとすり抜けている。
お姉さんの努力空しく、不動産屋とリンダは熱心に話しながら、ビルを出て行ってしまった。
殴り? 疲れたのかお姉さんはガックリと肩を落とし、膝を床について、蹲ってしまった。泣いているのか、嗚咽のようなものが聞こえる。
「あの……」
オレは気の毒になって、思わず声をかけてしまった。
「え?」
お姉さんは顔を上げ、オレの顔を見た。
「……あなた、もしかして私が見えているの?」
もしかして、これ、悪霊にとりつかれちゃうパターンか? 早まったかなぁ? でもほっとけないよなぁ……
「ええ、見えています。もし、良かったら、話を聞かせてくれませんか?」
お姉さんは、涙が溜まった瞳を大きく見開き、ぱぁっと花が咲くような笑顔を見せた。
う……ユーレイなのに可愛いじゃないか……




