翻訳リング
草原を2人の美女について歩いていると道が見えてきた。
道といってもアスファルト舗装されたものではなく、そこだけ草が生えていない土の道だ。幅は乗用車が無理なく行き違いできるくらいか?
その道の途中に休憩所みたいなスペースがあり、そこに1台の馬車が止まっていた。
2頭立ての幌付き馬車だ。
馬車の手前では、石に座って、焚き火をしている小さな人影があった。
「…………!」
おさげさんが声をかけると、その人影がこっちを向き、立ち上がって手を振ってきた。
綺麗なプラチナブロンドの長い髪が揺れた。
その人も女性……と言うか幼女で、チェニックのような服にレギンスのようなものを履いていた。
身長は120ちょっとくらいかな?
その幼女と、おさげさんが、時々オレの方を見ながら話した後、幼女は馬車の中に入り、なにかゴソゴソ探していたかと思うと、しばらくして出てきて、オレの前まで来た。
「………………」
左手の手のひらを上に向けてオレに差し出してくる。そこには指輪があった。
オレはその指輪を受け取り、観察する。
幅は5ミリくらいでアルミの金属みたいな感じだ。透明な石が嵌っていて、その両側に2つずつLEDのインジケーターのようなランプが灯っている。側面を見ると小さな穴が開いている。ん? これってマイクロUSB端子? 指を入れる穴は大きめでどの指でも一応入れることができそうだ。
「………………」
幼女が、それを指に嵌めろって感じのジェスチャーをして話しかけてくる。相変わらず何を言ってるのか分からないけどね。
オレはそれを左手の小指に嵌めた。指を入れた瞬間、嵌められた石がピカっと光って、全体がシュッと縮まり、ピッタリになった。これも魔法なのかな?
「どうじゃ? これで話は通じるようになったかの?」
いきなり幼女が日本語を話してきた。
「あ、はい。日本語、話せたんですね?」
「ニホンゴ? それはそなたの国の言葉かの?我はずっとこの大陸の共通言語を話しているぞ。」
「え? でも……」
「今渡した指輪は翻訳リングといって、相手の言葉を自分の国の言語に聞こえるようにしてくれて、自分の言葉を相手の国の言語に聞こえるようにしてくれる魔道具なのじゃ。」
「え? これが?」
オレはまじまじと自分の左手小指に嵌った指輪を見た。そんな便利グッズがあるんだ。
「それがないとお互い不便じゃから、当分貸しておいてやる。」
「ありがとうございます。」
「それじゃあ、とりあえず皆で自己紹介といこうかの。おーい、クリス、デイジー、こっちに来るのじゃ!」
おさげさんと赤髪さんがこっちに来た。
「じゃあ、自己紹介するぞ。我はリンダ、リンダ・キャメロン。行商人をしているのじゃ。」
リンダと名乗ったのは幼女だ。外国みたいにファーストネームを先に言うんだな。オレもその例に倣うか。幼女は、まあ寸胴の幼女体型だ。8歳くらいだろうか? しかし、幼女なのに行商人? 天才なのか? それとも見た目通りの年齢じゃないのか?
「あたしはクリス、クリス・マクレガーよ。リンダのキャメロン商会専属の護衛をしているの。よろしくね。」
おさげさんはクリスと言うらしい。やっぱりこの子、スラっとしてて、かっこいいよなぁ、可愛いし。20過ぎくらいかな?
「あたいはデイジー、デイジー・ランスロット。同じくキャメロン商会専属の護衛よ。よろしく。」
赤髪さんはデイジーか、この子はなんと言うか、肉厚だ。決して太っている訳ではなく、筋肉の上に女性らしい柔らかさをまとった感じ……とでも言えばいいのだろうか? その結果、出るところは出ているが腰なんかは見事にくびれてる。歳は18くらいだろうか?
「オレは……マサル、マサル・ヒラタケです。SE、システムエンジニアです。クリスさん、さっきは本当にありがとうございました。」
オレは、クリスさんの右手を両手で掴み、上目使いに見上げた。
「え、ええ、困った時はお互いさまよ。気にしないで。」
クリスさんは、真っ赤になって、オレを見つめている。お、これは脈ありか?
「いえ、このご恩は一生忘れません。」
オレはクリスさんの目をじっと見つめる。クリスさんもオレの目を見て、その瞳が次第に潤んできた。
「こほん! 我らもいるんじゃがの?」
リンダが、大きく咳払いをして注意をひく。オレはしぶしぶクリスさんの手を放した。くそ、おじゃまむしめ。
「それにしてもSEなんて職業、初めて聞いたのじゃ。マサルは、もしかして転移者なのかの?」
おじゃまむしが、右頬に人差し指をあてて、こてんと首をかしげる。……うん、少しは可愛いと認める。
「転移者?」
「ああ、時々いるのじゃ、遠い場所、下手をするとこことは全然違う世界から、ランダム転移に巻き込まれてこの世界に来る人が……」