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イナゴ撲滅大作戦

草原に100人ほどの揃いの皮鎧を着た兵士たちと思われる集団ががいた。


彼らは10メートルくらいの一定間隔を開けて、広く横一列に並び、立っていた。


右端の男が右腕を前に突き出した。


「フェロモンミスト!」


男が叫ぶと、その右手の指に嵌った2つの指輪が黒色と緑色に輝いた。すると、その男の右手から黒い霧のようなものが広範囲に噴出し、そして草原に染み込み、消えていった。


「フェロモンミスト!」


左隣の男が同じように叫び、また右手から黒い霧が噴出し、草原に染み込み、消えていった。


作業を終えた男たちは列の左端に移動した。


その隊列は黒い霧を草原に染み込ませながら徐々に左に移動し、草原を横断していった。





「道しるべフェロモン?」


その様子を領主館の応接室で、壁に映し出されるサテライトシステムの映像で見ていたガロンさんが首を傾げた。室内には、ガロンさんと、我々キャメロン商会の4人だけだ。


「ええ、昆虫には他の個体を誘引する物質を分泌するものが多々いるんです。その誘引物質のことをフェロモンと呼んでいます。特に、群れをつくり、社会を形成するものは、ほとんどこれを持っています。道しるべフェロモンとは、1つの固体が餌場を発見したときに、仲間への道しるべとして分泌するものです。」


「ああ、アリなんかが行列をつくっているのは、もしかしてその道しるべフェロモンの上を通っているのか。」


「そうです。先日、オレがタイタン周辺まで行って、とってきたサンプルから検出できたんです。そしてもう1つ、集合フェロモン。」


「それが、別働隊が枯れた谷川に沿って散布しているものかい?」


壁に映された画面が切り替わり、もう100人ほどの集団が枯れた谷川沿いに同じような黒い霧を散布している様子が映し出された。


「はい。集合フェロモンは交尾、産卵をするために、とにかく集団を作るためのものです。闇の魔法リングにはサンプリングしたフェロモンを再現する魔法が組み込んであります。そしてそれを散布する風魔法と組み合わせたものが、今回開発したフェロモンミストの魔法です。」


「なるほど、お? どうやら、それぞれ散布を終えたようだね。」


数キロに及ぶ草原を横断するように道しるべフェロモンを散布し終えた兵士たちと、その道しるべが行き着く先の枯れた谷川に集合フェロモンを散布していた兵士たちが合流して谷の対岸へと上っていった。


すべて兵士たちが対岸の崖の上に登り終えた頃、草原のタイタン側から地を這う黒い雲のようなものが現れた。イナゴの大群だ。全ての植物の葉や実、そして茎や木の幹の一部さえも食い散らかして進軍してくる。


その死の行軍が草原の半分ほどの所で妙な動きをしだした。見えない何かに誘われるように草原の進軍を止め、一斉に枯れた谷川の方へ進路を変えて進み出した。


「見事に1匹の漏れもなく、道しるべに導かれているようだね。」


「ええ、奴らは基本、本能で動きますから、本能に訴えかけるフェロモンには逆らえないんですよ。」


フェロモンに導かれたイナゴたちは、やがて枯れた谷川に出て、その枯れた流れ沿いに貯まりだす。折り重なって、下の固体が押しつぶされようと、お構いなしに次々とイナゴの川を作っていった。何匹いるのだろう? 何千万匹? もしかして億を超えているかもしれない。


やがて、ほぼ全てのイナゴが枯れた谷川沿いに集まった。


その様子を対岸の崖の上から見ていた兵士のリーダーらしき人物が上流へ向けて手を振り、合図を出した。


少し流れを遡った位置の崖の上にいた5人ほどの兵士の集団が水が崩落によって塞き止められている方向に向って右手をかざした。


「「「「「バレット!」」」」」


それぞれの手の指輪が黄色と緑色に輝き、岩の砲弾が形成され、勢い良く射出されていった。


ドゴゴゴゴゴーン!


岩の砲弾が集中して当たった場所が砕け散り、水が漏れ出す。最初は少しだったその流れは、周りの水を巻き込み、やがて大きな濁流となって、勢い良く流れ出した。


ドドドドドドドドド!


濁流が枯れた谷川を一気に流れ落ちていった。


やがて、濁流はその下流に貯まっていたイナゴの大群を容赦なく飲み込んでいった。


「「「「「ブリザード!」」」」」


対岸でこの様子を見ていた兵士たちが一斉に右手を掲げ、叫んだ。


兵士たちの右手の指輪は水色と緑色に輝き、その手から極寒の嵐が吹き荒れた。


これにより、空を舞っていたイナゴたちも全てたたき落とされ、氷漬けとなって死んでいった。


やがて、谷川の流れが平常の穏やかなものになった頃、イナゴは綺麗さっぱり、文字通り洗い流されていなくなっていた。





「すばらしい!」


ガロンさんは、立ち上がり、オレとリンダの手を握って振り回した。目には涙が見える。


「ダイダロスの作物は救われた。君たちのおかげだ。ありがとう! 」


「いえ、兵士の皆さんも合わせた全員の勝利ですよ。」


「そうじゃ、我らだけでは、全然人手がたりなかったのじゃ。」


「ああ、兵士たちも良くやってくれた。彼らには特別ボーナスを出そう。君たちにも何かお礼をしたいんだが……」


「ガロンおじ、我らは商人じゃ。それなら、今回、イナゴを撃退した、このシステムを買ってくれんか? ああ、念のために言っておくがこの監視しているサテライトシステムは含まんからな、今回、兵士たちが使っているもの全てと、その運用マニュアルじゃ。」


「え? そりゃ、今後も同じような危機がくるかもしれないことを考えると、私としても、それは望むところなんだけど……いくらだい? 」


「今回、想定された農業被害はいくらぐらいなのじゃ? 」


「そうだね、現在栽培されている作物が全滅していたとなると、恐らく3000億Gくらいにはなったと思うよ。」


「では、その1割の300億Gでどうじゃ? 」


「それは……いや、今後の対策費もあると考えると高くはないか、むしろ、あのバレットやブリザードはイロイロと応用が効く……」


「まあ、できるだけ軍事転用はして欲しくないところではあるのじゃが……その辺はガロンおじの裁量に任せるのじゃ。 」


リンダはガロンさんを見てニヤリと笑う。


「ふ……ふはははは! リンダちゃんにはかなわないな。分かった、この技術は、この街を守るためだけに使うと約束しよう。人に向って使われることがあるとしても、あくまでも、この街の防衛のためだけだ。その上でこのシステム、300億Gで買わせてもらうよ。」


「まいどありぃ、なのじゃ。」


リンダとガロンさんは、がっちりと握手した。


こうして我がキャメロン商会はダイダロスの街をイナゴの脅威から救い、その防衛システムを領主に売ることによって300億Gの売り上げを得たのだった。

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