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始まりの地へ

「ウィン、バリアだ。いってみろ、バリア。」


「わうぃわ」


「ちがう、バ・リ・アだ。」


「わ・うぃ・わ」


「うぉおお、なんでじゃ、なんで言えんのじゃぁあ!」


リンダは馬車の中でウィンにバリアの魔法を使わせようとしている。


この世界にも悪人はいっぱいいるからな、可愛いウィンを守るためだ。


ウィンの左腕にはバリアが使えるようにカスタマイズされた指輪が嵌っている。


ウィンの腕は人間の指よりも少し太いくらいだったので、指輪が腕輪となってそのまま嵌ったのだ。


そして、リンダの指輪はバリアが無駄に作動しないように外されておれの手元にある。


キーワードはどうも、オレの世界の言葉で正確に発音しないといけないらしい。翻訳リングをする前でもクリスさんの魔法発動のキーワードである[ウォーター]や[ヒール]は普通に聞こえてたからね。


しかし、基本、犬であるウィンにカタカナ英語を正確に発音するのは難しそうだな。普段話してる会話も翻訳リングを外して聞くと、ワンとかキャンの羅列としか思えないからな。


……そうだ。


オレはリンダの翻訳リングをノートPCにUSB接続した。





「リンダ、こっちの指輪をウィンにつけさせて、やらせてみて、」


オレはもともとリンダが嵌めていた翻訳リングを渡した。


「ん? なにか細工してくれたのか?よし、ウィン、これに交換するのじゃ。」


ウィンは素直に腕にした指輪をつけかえた。


「よし、いくぞ、ウィン、バリアだ。」


「わうぃわ」


「ちが……ん?」


ウィンのした翻訳リングは光を発し、その光はウィン全体を包み込み、やがて消えていった。


「バリアが発動した……のか?」


リンダは試しにウィンの頭を軽く叩くそぶりを見せた。


カン!


リンダの手は見えないなにかに阻まれた。


しかし、ウィンはリンダが腕を上げたことが恐怖だったようで、悲しそうな顔をしてリンダを見ている。


「おぉ、成功なのじゃ! ……ウィンそんな顔をするな、これもお前を守るためなのじゃ、機嫌を直せ。」


リンダはウィンを抱きしめてわしゃわしゃした。バリアは何処に判断基準があるのか良く分からないが、やさしい接触には干渉しない。悪意ある敵の攻撃のみ防ぐ。そして、内から外への攻撃も通す不思議仕様なのだ。


「リンダ、怖くなくなった。なでなで気持ちいい。もっと!」


「ああ、いくらでもしてやるぞ! それにしてもマサル、なんで急に成功したのじゃ?」


リンダはウィンを撫でながらオレに聞いてきた。


「なに、簡単なことさ、オレにはウィンが[わうぃわ]と言っているようにしか思えなかったから、発動キーワードを[わうぃわ]にしたのさ。」


「そうか、ウィンが言いやすい言葉にすれば良かっただけか、なるほどな。よし、ウィン、これからは、敵に会ったら、そのバリアをスグに使うんじゃぞ!」


「ワン! わかったよ!」





馬車は懐かしい場所を通過していた。ダイダロスとゼータの丁度中間の馬車の休憩場所だ。


「ここで、リンダと初めて会ったんだったなぁ。まだ1月ほどしか経ってないけど、なんか懐かしいよ。」


「そうじゃな、捨てられた子犬のような目をして、小さくて、丸くて、かわいい男だと思ったもんじゃ。」


「な、なな……」


リンダは可愛い顔してそんなこと考えてたのか……

しかし、そういえばあの時、狼に襲われた直後だったんだよな。何処か分からないところに放り出されて、死ぬ思いをして……

そうだな、捨てられた子犬のような心境だったかもしれない。


「リンダ……ありがとな、あの時、オレを拾ってくれて……」


オレは冷静になって、真剣にリンダを見つめてお礼を言った。


「な、なんじゃ、やけに素直ではないか。今のマサルはそこそこ、かっこいいぞ、我の、こ、恋人にしてやってもよいぞ?」


何故かリンダが真っ赤になって告白してきた。


「いや、オレが好きなのはクリスさんだから、クリスさんもオレのこと受け入れてくれてるし、知ってるよね? リンダ。」


「ぐぬぬぬ、良いではないか、女2人くらい幸せにする甲斐性くらいもてなのじゃ!」


「無茶言うなよぉ。」


「ええい、わかったのじゃ、我がマサルを女の2人や3人や4人や5人、幸せにできる甲斐性のある、強い男にしてやるのじゃ、覚悟するのじゃ!」


「……ふ、じゃあ、クリスさんも含めて皆が幸せになる未来が見えれば、考えようかな?」


「その言葉、しかと覚えておくのじゃ!」





馬車は小高い丘にさしかかっていた。


「リンダ、あれはなんだ?」


オレは丘の上にある小さなピラミッドのようなものを指さした。3階建てのビルくらいの大きさだ。


「あれは、古い遺跡のようじゃ。ただ、各地に同じようなものがいくつかあるが、どれも頑丈で中に入れず、調査が進まずに、結局よくわかっておらんのじゃ。」


オレが狼に襲われずに、あのまま上を目指していれば、ここに到達していたかもしれないな……


「リンダ、あれを調べてみたいんだけど……」


何故か、無性にあれの内部に入らなければならない気持ちになった。


「ん? そうか、じゃあ、ちと早いがここで、野営をするか。おーい、デイジー! 止めてくれぇ!」


ピラミッドに隣接した街道部分が丁度、休憩所になっていたので、リンダが馬車を止めてくれた。


皆が馬車から降りる。


「我とデイジーはここで野営の準備をしておくから、マサルとクリスはあれを調べてこいなのじゃ。」


「分かった。ありがとう。……じゃ、いこう、クリスさん。」


「ええ。」


オレはラフな布の服を着ている。そこに護身用の短剣をベルトに刺す。勿論、指にはカスタム魔法が使える指輪をいっぱいしている。そしてPCバッグを肩にかける。


クリスさんは、皮鎧に2つの短剣を佩びて、弓を背負った。


よし、では、ピラミッドを探検といきますか……

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