ウィングドッグのウィン
「キャンキャウウーン、キュンキュン!」
犬の悲しそうな鳴き声のようなものが聞こえて目が覚めた。
目の前には小さな足があった。オレはそれをどけて起き上がる。
ここは馬車の道の休憩所、通称[馬車の駅]だ。昨晩はここで野営をしていた。
横を見るとパジャマを着たリンダが大の字で寝ていた。
野営では、またリンダと同じテントを使うことになっていた。リンダの強い希望でこうなっている。なんでこの子はオレと一緒にいたがるんだろうね、オレに惚れた? まさかね?
オレがテントから這い出て横を見ると、クリスさんも同じようにテントから出てくるところだった。
「おはようクリスさん。」
「おはようございます。マサルさん。」
「キャンキャン! たすけてぇ!」
「?! 今の聞こえました? クリスさん。」
「ええ、急いで行ってみましょう。」
オレとクリスさんは、声のした方へ急いで向った。
オレたちが張った結界と草原の境界に狼が3頭、白目をむいて倒れていた。そしてその狼の隣に白いなにかがいた。
なんだこれ? 鳥? 犬?
大きさは1メートルくらい、小型犬くらいのサイズだ。そう、真っ白なミニチュアダックスフントといえばシックリくる。しかし、その背中に犬には無いはずのこれまた真っ白な翼があった。
「ウィングドッグね。この草原に少数生息していることは聞いていたわ。あたしも見るのは初めてだけど。」
「キャウウーン!たすけてください。このご飯、食べようとしたら、体が痺れて動けなくなったの。」
「な……犬がしゃべった?」
「マサルさん……あたしたちがしているこの翻訳リングの影響かもしれないわ。」
クリスさんも、今は万一の時にバリアを張れるように翻訳リングを左手の小指にしている。
「そうか、でも……すると、この犬は人と同じくらい知能があるってこと?」
「そうみたいね、とりあえず。この子の話を聞いてみましょ。」
「うん、わかった。えと、きみは、その横で倒れてる狼を食べようとしてたの?」
「そうなの。ここに偶然倒れているのを見つけたから食べようとしたの。」
「オレたちを襲おうとした訳じゃない?」
「人間を食べようと思ったことはないよ。人間美味しいの?」
「いや、美味しくない、不味いよ。絶対。仲良くしよう。」
「うん、そうだよね。仲良くしよう。」
「よし、オレたちに害意はないみたいだから、助けてあげてもいいよね?クリスさん?」
「そうね、助けてあげましょう。」
「よし、では……ヒール。」
オレの左手の人差し指の指輪が白く輝き、光の玉が目の前に現れ、それが移動し、ウィングドッグを包み込み、そして染み込むように光が消えていった。
「ワフ!? うごける! ありがとぉ!」
ウィングドッグは立ち上がると翼をパタパタさせて飛び回った。
「いやいや、こちらこそ、なんか罠にかけたみたいになってごめんね。じゃあ、クリスさん、狼を回収してテントの方に戻ろう。」
「ええ。」
オレたちが狼を引きずってテントの方に向うとウィングドッグもついてきた。
「どうしたの?」
「そのご飯、僕の……」
「え?」
「…………」
「…………」
「……一緒に食べてもいいよ?」
「……じゃあ、一緒に食べようか?」
「うん!」
「なんだそれ、可愛いではないか。」
テントに戻るとリンダとデイジーちゃんも起きて、焚き火をしていた。
リンダがウィングドッグを捕まえて抱きしめている。
「きみも可愛いよ、ワン!」
ペロペロ
ウィングドッグもリンダに抱かれるのは嫌じゃないようで、顔を舐めている。
「おお、じゃべった?!」
「リンダ、多分、翻訳リングしてるからだよ。」
「おお、そうか、最近は万一に備えてつけっぱなしにしておったの。それにしても話せるほど知能があるとは、この子は賢いんじゃなぁ。」
リンダとウィングドッグがじゃれあっている間にクリスさんとデイジーちゃんが狼をテキパキと捌いて、とりあえず食べる肉を焚き火の上に置いてくれた。
それを涎をたらしながら見つめる幼女とウィングドッグ。……どっちも可愛いな。
「よし、ウィンも連れて行くぞ!」
ウィングドッグと仲良く朝食を食べた後にリンダが宣言した。
「え? ウィンって、そのウィングドッグのこと?」
「そうじゃ、ウィングドッグのウィンじゃ。」
「いや、その名前は安易すぎるんじゃ……」
オレはウィングドッグの方をちらりと見た。
「ウィン? それ僕の名前?僕はウィン! 僕はウィン!!」
ウィングドッグは大はしゃぎしている。
……まぁ、本人がとっても喜んでいるみたいだからいいか。
こうして、オレたちの旅に新しい仲間が加わった。




