旅立ち
「オーナー、あっちに着いたら、出来るだけ早く呼んでくださいよ。」
「うむ、わかっておる。」
「アニスさん、お世話になりました。」
「こちらこそ……っていっても、ちょくちょくこっちに帰ってくるんでしょ?」
「はい、その時は、またよろしくお願いします。」
「ええ、待ってるわよ。」
オレたちはゼータの街の門近くにいる。行商の荷物がそろったので、ダイダロスの街に向けて旅立つのだ。なんだかんだで、この街には1ヶ月近く滞在した。ケッコウいろんなことがあった気がする。
「そろそろ行くわよ、お嬢様もマサルさんも乗って!」
御者台からクリスさんの声がかかる。
オレとリンダがラクダのマークが描かれた2頭立ての幌馬車に乗り込むと、ゆっくりと馬車は進み出した。やがて街門を出て土の街道に出るとゴトゴトと音をたてだした。
馬車の後ろから顔を出すと、キャメロン再生社の創業メンバーであるピートとアカネ、それに人魚のアニスさん、魔道具屋のリリスさんが手を振ってくれていた。その姿が見えなくなるまで、オレとリンダも手を振り返していた。
「結界が弱くなっている?」
「ああ、本来、絶対の防音効果をもつはずの結界石の結界なのじゃが、最近僅かに外に音が漏れている気がするのじゃ。物理的な結界はまだまだ有効みたいなのじゃが、ちと不安でのう。マサル、見てくれないか?」
馬車の中でリンダに相談された。
「ああ、わかった。」
オレはリンダからピラミッド型の石を受け取った。
うーん、これって魔道具なのかな?ぱっと見たところ、USB端子は見当たらないんだけど……
結界石を裏返すとフタのような溝があった。
溝に指をつっこんで、ひっぱった。
パカ
ケッコウ簡単にフタが外れた。
そこには無色の魔石が4つ嵌められ、その横にはLEDの灯りみたいなものが16こ、そしてUSB端子があった。
LEDは16こ中2つしか点灯していなかった。こりゃ魔力切れが近いってことか?
オレはノートPCを起動して、結界石とUSB接続した。
結界石の中には[readme][config][log]の3つのファイルがあった。
[readme]をダブルクリックしてみるとメモ帳のウィンドウが開いた。
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自動結界発生器
ペアリングされた4つの発生器の中、及びその周辺を結界で囲う。
発生器同士が2メートル以内にあれば結界は解除される。
無属性の魔石だけだと物理、遮音のみの結界。
水属性と風属性の魔石があると、スタン結界も使用可能。
守護石があれば結界を自由に出入りできる。
シャングリラダンジョン
アクセスキー:n8240es
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守護石ってのはオレたちが身に着けている黄色い石のネックレスのことだろうな。
メモ帳の空ウィンドウを開き、[config]ファイルをそこにドラッグしていれた。
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環境設定ファイル
結界強度をxで[1-100]の範囲で設定します。
結界有効範囲をyで[0-100]メートルの範囲で設定します。
zでスタン結界あり[1]となし[0]を設定します。
sでペアリングナンバーを設定します。
x=10
y=0
z=0
s=9999
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x=100 y=10 z=1と設定して上書き保存した。sはそのままだ。
強度を10倍に、範囲を結界石の境界ギリギリからプラス10メートルにして、スタン結界を有効にした。
「リンダ、水属性と風属性の魔石、4つずつ、ちょうだい。」
「わかったのじゃ。」
リンダは魔法袋をごそごそやって中から水色と緑色の魔石を4つずつ取り出して渡してくれた。
結界石にセットされた魔石は引っ張ると簡単にはずれたので、一旦4つ全部外す。
カスタム魔力補充器を取り出した魔石にあてて、魔力を全て補充した。
再び結界石に魔石を水属性1つ、風属性1つ、無属性2つ、をセットした。するとLEDが16こ全て点灯した。
この作業を残りの3つの結界石でも行った。取り出してあまった無属性魔石はリンダに渡す。
よし、これでスタン結界が有効になったかな?
「リンダ、ちょっと新しい結界を試したいから、今から馬車の周囲を結界で覆うね。」
「新しい結界? ほう、面白そうじゃ、わかったのじゃ。」
オレは結界石を馬車の荷台の4隅に置いた。
ブウン!
空気が震える音がしてなにかが周囲に広がって行く感じがした。
バチ!
軽く静電気が起きた感じがした。
「これで馬車の荷台から10メートルをスタン結界が覆ったはずなんだ。イーグルとホークもこの範囲に入れることができたと思う。」
「スタン結界とはなにじゃ?」
「たぶん、この結界に人や獣が触れると、しびれて動けなくなると思う。」
「ほう、それは面白そうじゃの。試しに盗賊でも襲ってこんかの?」
ヒヒーン!
ガタタ!
イーグルの嘶きが聞こえたと思うと突然馬車が止まった。
「どうしたのじゃ?」
リンダは御者台のクリスさんとデイジーちゃんに声をかける。
「お嬢様、どうやら盗賊たちに囲まれてしまったようです。すみません。」
「ほほう……」
リンダはニヤリと笑った。
「どうやら、おあつらえむきに、モルモットどもが現れたようじゃの? マサル。」
「ああ、実験にはもってこいだな。」
オレもニヤリとリンダに笑い返す。
「よし、念のために個々にバリアを指輪で張って、そのまま進むのじゃ。」




