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人魚の水先案内人

オレはリビングで自分の身分証を眺めていた。


天秤のマーク、ラクダのマークとあって、よく分からない文字。


このよく分からない文字は自分の名前である[マサル・ヒラタケ]と書いてあるらしい。


そして、その下に[899,000,000]その下に[1,000,000]とある。上が商業ギルドに預けているお金で、下がこのカードにプールされているお金だ。


魔石の再生事業でキャメロン商会に出た利益は約30億Gだった。


オレは利益の3割を受け取る約束をリンダとしていたので、9億Gを受け取った。


大金をずっとカードのプール部分に置いておくのは不安だったので、100万Gだけをプール部分に残して、大半を商業ギルドに預かってもらった。


因みに、預金処理はフロント横に置いてあるスリット付の水晶を操作すれば誰でも簡単にできる。


身分証を紛失しても再発行してもらえるが、その際、プール部分のお金から手数料として1割とられるので、プール部分には必要最低限のお金しか置いておかないのが常識らしい。


「マサル、いつまで稼いだ金を眺めてにやけているのじゃ!金もはいったことじゃし、ちゃんとした服を買ってこい。お前、ちょっと臭うぞ?」


リンダの遠慮のない叱責の声が飛んだ。


「え? マジ?」


オレは自分の服に鼻をつけてにおいをかぐ。正直自分では良くわからん。


ここに来て、下着だけは買ってもらって、できるだけ着替えるようにしていたが、シャツやスーツは1回洗っただけだった。ズボンとかは狼に噛まれた穴が開いちゃってるし……ちょっとまずい?


クリスさんの方を見てみると、ちょっと困った顔をしている。おぉ、これはいかん。優しいクリスさんがあんな顔をするってことは、かなり酷いんだ。


「じゃあ、ちょっと、服を買いに行ってくる。いこ、クリスさん。」


「はい。」





クリスさんと連れ立って商業ギルドの建物を出た。


クリスさんはデニムの上下に皮鎧を装着している。


腰には両側に短剣を佩びている。弓を得意とするクリスさんだが、近接戦闘では短剣の二刀流らしい。


「なんですか? マサルさん、そんなにじっと見て……はずかしいです。」


クリスさんが赤くなって、両腕を前にもってきて、もじもじしている。くぅ、この子はいちいち、かっこ可愛いいなぁ。


「あ、いや。その姿もかっこよくて良いんだけど、可愛い服のクリスさんも見てみたいなぁ……って思って、ねぇ、クリスさん、よかったら、服をプレゼントさせてくれないかな?」


「マサルさん……はい、ありがとうございます。でも、先にマサルさんの服を買いにいきましょうね?」


「はい。じゃあ、行きましょう。」


オレが手を差し出すと、クリスさんは真っ赤になりながら、それを握ってくれて、そのまま恋人つなぎで歩き出した。





「おあついですね、お二人さん。」


商業ギルドの広場に面している水路の橋にさしかかったあたりで、突然声がかかった。どこだ?!


「こっちよ、した下!」


下を見ると、水路の中に下半身が水につかった美女がいた。緑色のロングヘアーでYシャツを着ている。


「あの、そんな所にいて、寒くないんですか?」


いまのゼータの気候は日本の春くらいかな?たぶん気温20度くらいだろう。水浴びが気持ちいい温度じゃない。


「ああ、大丈夫よ。だって……」


ざぱ!


その美女は水路にあった桟橋に上がった。


「あたし、人魚だもの。」


その下半身は魚だった。


おぉお! 人魚だぁ、やっぱり、ここはファンタジー異世界なんだな。


それにしても……


改めて人魚のお姉さんを見る。


緑色のロングヘアーが水に濡れてなんとも色っぽい。濡れたYシャツが肌にピッタリくっついて、その下にある豊かな胸を強調している。ボン、キュッ、ボンのナイスボディだ。


「あの……そんなに見られると流石に、恥ずかしいんだけど……彼女もちょっと怒ってるわよ?」


「え?」


クリスさんの方を見ると、プクっと頬を膨らませている。


「ああ、いや、これは、ちょっとめずらしかったから見ちゃっただけだから、クリスさんが、オレにとって、一番だから、一番可愛く思っているから……ね?」


「え、そんな、一番可愛いだなんて……」


クリスさんは、また真っ赤になって、オレの手を握ってきた。


「はは、やっぱりおあついわねぇ、ところで、あたしのゴンドラに乗ってかない?」


「え? ゴンドラ?」


「ええ、あたしはここで水上タクシーをしているのよ。」


人魚さんは桟橋にある小船を指差した。これをここではゴンドラと言うらしい。


「ゼータには水路が網の目のように張り巡らされているからね、ゴンドラで何処にでもいけるのよ。」


「へー、クリスさん、せっかくだから、乗っていこうか?」


「はい。」


オレたち2人は人魚さんのゴンドラに乗り込んだ。


「じゃあ、人魚さん。まずは紳士服の店に行ってください。」


「はあい。」


人魚さんは、再び水の中に入り、小船の前に回りこんだ。そこに備え付けられたリヤカーの引き手のようなものを握って泳ぎだす。


これは、なかなかシュールな光景だ。流石異世界と言うべきか?


イタリアのベネチアのような水路が張り巡らされた街を人魚が引くゴンドラで進む。


10分ほどでゴンドラは止まった。


「ここがあたしのお勧めの紳士服店よ、となりにはレディースの店もあるわよ。」


水路のすぐ横には2階建ての洒落たつくりの紳士服店とレディースファッションの店が並んでいた。


「じゃあ、人魚さん。しばらくここで待っていてもらえるかな?」


「ええ、わかったわ、」





「へぇ、2人とも見違えたわねぇ。」


30分後、オレとクリスさんは、それぞれの店で買った服をそのまま着て人魚さんの前に立っていた。これまで着ていたものは紙袋に入れて持っている。


オレは黒のズボンに白いシャツ、それに赤い上着を着ている。胸には黄色いスカーフ。なかなか上品な感じを出せたと思う。これで身長があればなぁ。


クリスさんは、シンプルに白一色のワンピースだ。頭にも真っ白な帽子を被っている。


「クリスさん、とっても可愛いよ。」


「ありがとう。マサルさんもカッコイイですよ。」


「なんだか、新婚のカップルみたいだねぇ。それで、このあとどうするの?」


新婚かぁ、良い響きだ。クリスさんを見ると俯いて顔を赤らめている。満更でもないようだ。


よし、この際、新婚気分で観光を楽しもう。


「じゃあ、人魚さんお勧めの観光スポットをまわって下さい。」


「わかったわ、まかせといて。」


オレたちは、人魚さんのゴンドラに再び乗り込んだ。


人魚さんの泳ぎは軽快で、そこそこの速度は出ているのだが、揺れはほとんどなかった。


水路から見る街は幻想的だった。巨大な寺院、塔、そして水路にかかる巨大な橋。全て水面にも逆さの景色が映り、下の景色はゴンドラから出る波でかすかに揺れ動いていた。


橋の下を通る時、上を見上げすぎて、後ろに倒れて落ちそうになった。


危ないところで、クリスさんが抱きとめてくれた。


「もう、やっぱり、マサルさんは危なっかしくて放っておけないわね。」


思わず見つめ合う。よし、もうここは勝負するタイミングだ。いったれぇ!


「オレ、クリスさんがいないとダメみたいだ。ずっとそばにいてくれないかな?」


クリスさんは、一瞬目を見開いた。そしてその瞳が潤む。


「しょうがないわね。ずっと守ってあげる。これ、本当は男が女に言うセリフよ?」


クリスさんは、そのままオレを抱きしめてキスしてくれた。


いつのまにかゴンドラを止めた人魚さんは、そんな光景を微笑ましく見ていた。

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