初心者殺しの森にて
俺達は狩場の相談をしていた。
かといって俺はレベルをガンガン上げるつもりは無い。
とりあえず、俺の目標はスキルを手に入れることくらいしか無い。
ベータテスターである俺に狩場の場所を決めるのを一任されたのだが、俺はベータの時はレベル上げに固執しなかった分場所を決めかねていた。
「しゃあない、ラアルの森にしようか。」
ラアルの森、ベータの頃は初心者殺しの森と呼ばれていたその場所は初心者が行き交うテール平原をまっすぐ進んだ先にぶち当たる森だ。
ベータの頃はノリや慢心から森に入ってデスペナもらっている奴が結構いた。
それでも入ってみようかなと思うようかなという距離なので、間違って入る人は後が断たなかったという。
まぁ、足場が不安定な場所の戦闘などが出来る人は基本的にはテール平原よりちょっと強いだけなので生き残れる。
しかし、カンナはいいけどトオヤは大丈夫かな?
という不安が拭えなかった。
「そういえば、二人ともスキル構成はどうなってる?」
「俺は確か、最初に『必要経験値10倍』『VIT補正EX』『風適正EX』最後に『HP補助&補正EX』をもらったな。
後はチュートリアルの時に『両手剣』スキルとそのAS『ガード』が手に入ったな。」
なんともまぁ、バランスのいいことで。
しかし、こいつの方がEX系スキルが多いことが気にくわないが、まぁいい。
「カンナの方は?」
「はい!
私は『獲得経験値10倍』『獲得ステータスポイント50倍』『物理補正EX』それと確か…『DEX補正EX』だった筈です。
それと確か…。
兄さん、ステータスの見方を教えて下さい。」
カンナに関してはあたふたしながら最初に手に入れたスキルを言うが、ステータスの見方が分からなくて上目遣いで聞いてくる。
妹よ…何処でそんな技を…。
「そういえば、俺も知らないんだよ。
システムコールで獲得したことは分かったんだけど…。」
お前もか…。
いや、でも知らないのも当然か。
「valdil」
俺はこのゲームに存在する特殊言語を唱える。
このゲームの書物や扉に書かれている古代文字みたいなものなどは、このゲームのみに存在する特殊言語を用いられる。
俺の目の前にステータス画面が現れるが二人には見えない。
「clrutia tures」
これらはNPCから聞いた言語いや、文字だけ教えられる。
しかし、読み方が分からずにベータでは始まって暫くの間誰一人としてステータスを見ることが出来なかった。
俺は今二人にステータスを見せるように特殊言語を放ったので二人は俺のステータスが今見えているはずだ。
ーーーーーーーーーー
コシキ LV1(150)(0.01%)
職業:魔法使いLV1(150) (70.00%)
ステータス
HP:100/100(1)
MP:100/100(1)(+0)(+1)
STR:10(1)
VIT:10(0)
INT:10(1)(+0)(+0)
MND:10(0)(+0)(+0)
AGI:10(1)
DEX:10(0)
LUK:10(0)
スキル(29.99%)
『魔法補正LV1』
『必要経験値10倍EX LV1』
『分配EX LV1』
『限界突破LV1』
ーーーーーーーーーー
このような形に変わっていた。
ステータスの横にある新しく出来たものは補正の値である。
補正されるものにしか付かないので意外と分かりやすい。
確か職業の方が前の方にくるんだっけな。
「valdil…。
やった!出ましたよ兄さん。」
カンナが俺の言葉を正確に唱える。
なんとまぁ、恐ろしい記憶力と天才的な頭だ。
この瞬間で正確に言葉を覚えてその中の役割を想像するのはかなり難しい。
確かにこの言葉を放った後は少しの間、間があってもそれだという判別は難しい。
もし、俺がカンナの立場だったらもう二つの予想をつける。
まず、最初に言った言葉が前段階に必要な言語として最後の二つでステータスとパーティー認証だと。
他には最初にパーティー認証で後はステータスを開くための言葉だと予想できる。
けど、よくよく考えたらヒントがあったか…。
さっき、フレ申の時などにも唱えてメニュー画面を開いてからフレ申するものである。
もし、その時の言葉を覚えていたら…。
その時、パーティーという言葉を特殊言語を使って一度言った。
そうなると、選択肢は一つに絞れてしまう。
本当に凄いなカンナは…。
「凄いなカンナ!」
「そんなことは無いですよ兄さん。」
カンナは恥ずかしそうにしながら答える。
「そうそう、スキルは『剣』『縮地』ASに『一線斬』がありますね。
あと、PS?に『剣の極意』くらいですね。」
俺達二人は苦笑いしか出来なかった。
いや、俺もベータの頃は入手したよ。
ただ、一番の問題は『縮地』である。
これは入手するのに多くのプレイヤーを苦しめたと名高いスキルで俺は『剣術の山』と呼ばれる剣士職になることができる場所で先生と戦って手に入れたものである。
それを、いとも簡単に手に入れるカンナはやはりとんでもない奴だと実感させられる。
因みにPSはパッシブスキルのことであり、常時発動スキルのことを意味する。
後で教えておこう!
「何か、凄いな。
もう、勝てる気がしない。
それで、どうやって見るんだよ!」
トオヤが叫ぶことにより俺は現実 (ゲームだけど…)に引き戻される。
その後、移動中の殆どがトオヤに教えることに注ぎ込まれた。
俺達は無事に『ラアルの森』、別名『初心者殺しの森』にたどり着く。
案の定、今は人がいなく狩には持ってこいの状況だ。
そして、森に入り数分が経った頃3匹のゴブリンを見つけた。
「トオヤ、カンナ敵発見!
敵は3、位置はあの木と木の間の少し開けた場所。
距離は10、行動は恐らく採取中、警戒は1。
作戦は挟み討ちオーケー。」
「いや、いいけど何だ?
その喋り方。」
「それは、兄さんの唯の雰囲気出しです。」
確かにこのしゃべり方は雰囲気出しだけどしっかり伝わるだろ。
と思ったが口には出さずにゆっくり歩く。
「俺は…あの高台から行くからカンナは後ろから、トオヤは正面突破だ。
合図は俺がする。」
俺は少し高めで状況を理解しやすい高台を見つけそこに行く。
因みにカンナは俺の指示が終わった瞬間に回り込みの準備を始めて移動していた。
そして、俺は二人の行動とゴブリン達の行動をしっかりと見る。
俺はベータの頃何度も見た初歩の魔法を見様見真似で詠唱する。
「基礎
我は火を求める
その力を発現し放出せよ!
『フレア』」
詠唱が終わり俺の掌から火が放出される。
そして、放出された火が俺とゴブリンの距離の半分に差し掛かった瞬間、ゴブリンは火が迫ってきていることに気付く。
しかし、それと同時に俺も二人に合図を送っていた。
ゴブリンの中の二匹は上手く避けたが、そこにはそれぞれカンナとトオヤがいる。
そして、焼けた筈のゴブリンはギリギリで生き残っていた。
俺はすぐにゴブリンのところまで走り出し、トドメとして剣で斬る。
今の一撃でゴブリンのHPが無くなったのか倒れて、ゆっくりと消えていく。
「二人共終わったか?」
「あぁ、慌てて回避して倒れたところにグサッと一撃で。
そうそう、チュートリアルと比べたら無茶苦茶弱いな。
チュートリアルのゴブリンはあれくらい難なく避けて反撃するのに…。」
「はい、思っよりあっけなかったです。」
「まぁ、チュートリアルは特別だからな…。」
二人はどうやら終わったようで何かチュートリアルに疑問を思っている。
確かにチュートリアルのゴブリンなら、あれくらい同じ地形でも簡単に避けるだろう。
実際、『フレア』の攻撃範囲は狭く一網打尽の技としてはあっていないのだ。
3匹とも避けると思ったが1匹だけヒットしたのは嬉しい誤算だった。
いくら範囲が狭くても動きにくく場所が狭い森の中だからこそできる戦法である。
その後、俺達は何度か交戦をして解散した。
俺とトオヤは一つもレベルが上がらず、カンナはどんどんと強くなっていく様を眺めていた。
それぞれの読み方です。
valdil ヴァルディル
clrutia クルルーティア
tures トゥレース
読んで頂きありがとうございます。
面白いと思って頂けたなら幸いです。