ボス戦
ボスの前の扉のところで俺たちは着いた。
道中、モブが思った以上に少なく戦闘も殆どなくここまで来れた。
どうやら先客がいるようで6人の男女が扉の前で休んでいた。
「先客がいるな」
「まぁ、一応ボスですからね」
俺が意外そうにそう呟くとカスミは苦笑いをしながらそう答えた。
俺はそれもそうかと納得して扉の前で腰を下ろす。
「お、あんたらもボス攻略かい?」
俺が腰を下ろしたことで休んでいた男の一人がそう聞いて来た。
「まぁ、今日攻略予定ではあるな」
「へえ、にしては少ない気がするんだが…」
「気にするな、なんなら少数精鋭だと思ってくれ」
俺の一言に男だけではなく他の休んでいる人達も眉を寄せる。
どうやら、少数精鋭という言葉に反応したようだ。
しかし、嫌味のような視線はそこには無く、ただの心配のようだ。
「ボス攻略というのはそんなに簡単なものじゃないぞ」
「わかってるよ」
「それならいいんだが…」
「それで、先を譲ってもらってもいいかな?」
俺がそう言うと男は他の仲間に相談をしてから快く先を譲ってくれた。
「んじゃ、二人とも行くぞ」
「「はい!」」
二人の返事を聞いて俺たちはボス部屋の扉をくぐる。
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「えーと、通路ですか?」
「この扉をくぐればすぐにボス部屋じゃ無いんですね」
カスミ、ミミカの順でそう呟く。
そう、俺たちは扉を潜ると木々で覆われた通路に出たのだ。
これはこのゲームの仕様で、出来るだけフィールドから離れたポイントになるようにボス部屋を設置する為の処置なのだ。
「ここは安全だが、早く行くぞ」
「ああ、わかった」
「すいません、少し戸惑ってました」
「まぁ、気持ちはわからなくも無いけど…」
そうして、俺たちは通路を歩いて行くとひらけた場所に出た。
そして、その真ん中には中ボスのフォレストベアと比べると一回り大きい熊の姿があった。
「あれが…」
カスミはそれを見て思わず声に出ていたのだろう。
それは他のmobには無い威圧感によるものだと俺は思っている。
ボスなだけはあり、風格などは他とは比べ物にならない。
「二人とも、戦闘準備だ」
「わかりました」
「…あ、はい!」
そうして俺は剣の先で陣を描き出す。
そもそも、陣を描くのはいくつかの方法がありそれぞれの方法に利点などがある。
まず、俺が前に行った即時展開と呼ばれる方法だが、これは基本的にこれから描く陣の形を完全に覚えた上でしか使えないものである。
少しでも違うと発動しないまたは暴発などが起きる。
メリットとしてはどんな魔法陣も覚えていれば一瞬で展開できる点であり、デメリットは即時展開する分、ほんの少しMP消費量が多くなる。
次に地面や紙などに描いて使う方法である。
これなら、罠に使ったりあらかじめストックしたりできる。
しかし、陣は一度使うと無くなるため予め用意することや移動の際に陣の作成に失敗するなどと言ったデメリットがある。
次は俺が現在やっているこのゲームないの魔力というものを直接操作して陣を描く方法である。
これは移動しながらでもできて尚且つ、臨機応変な魔法を組み立てることができる優れものである。
そして、一番最初の方法の前提条件でありMP消費量もそこまで多くない。
最後に陣化という手段である。
俺としてはこの方法はあまりオススメできない。
何故なら、一度魔法式を描いた後の最後に特殊な魔法言語『agriet(陣化)』を入れるのだ。
一応、これは詠唱でも適応されるがその式の長さに応じたMP消費量で実質3倍近く消費する。
おまけに紙か地面か魔力として起こすかの違いでも消費量が変わるため、正直これを使うなら詠唱魔法を使う方がいいのだ。
まぁ、現在俺が使ってるのは三つ目で何だかんだでその陣が完成する。
「『オールアップ』っと」
俺はそう言って発動させると俺たち三人のHPとMP以外が強化される。
これは教会の方で教えてもらったステータス強化系魔法の改良版、全ステータスアップ魔法の『オールアップ』である。
因みに教会のGMであるティリアさんにはその魔法を見せた瞬間に泣かれた。
『こんなにも凄い魔法を作ったのに何で名前がそんなに安直なの…』
って言われて…。
まぁ、仕方ない。
だってティリアさんのつける名前って…『…welgrae(上昇)』という特殊言語で構成されてるのである。
後にエフィアさんから聞いたのだが、特殊言語を作ったのはティリアさんとあともう一人とか…。
「凄いですね」
「これほどのものまで持ってるのか…」
「まぁ、その代わりMP消費もバカにはならないけど…とりあえず、戦闘開始だ」
その瞬間、俺がまず前線に立つ。
ハイフォレストベアはそれを見て動き出す。
軽いジャブを撃つような感じなのか俺に向かって爪が迫る。
なんとかそれに対して俺は剣でいなすが僅かに来る圧でHPが削れる。
ここまで紙装甲だとむしろ笑えてきてしまうほどだが、油断すればかすっても死んでしまうようなHPしか今の俺にはない。
慎重に俺はハイフォレストベアの攻撃をいなしつつも隙を見て回復用の魔法陣を描いていく。
攻撃はミミカがうまく立ち回って安全に攻撃しており、カスミは現在詠唱中で大きな問題は現在無い。
あるとすれば俺の紙装甲かつ極端に低いHPだろう。
それも今のところは回復用の魔法陣と直撃どころかかすりもしないようにすることによってなんとか耐えることくらいだろう。
ハイフォレストベアのHPを着実に減らす中、時折ミミカの方にハイフォレストベアが向くがなんとか俺の方に向き直るように攻撃をすることもあった。
「いきます!」
カスミのその声と共に俺たちは下がる。
逃さまいと俺に向かってハイフォレストベアは向かって来るがカスミの『マルチスピア』餌食となるべく向かってるようなものだ。
なぜなら、俺とハイフォレストベア、カスミの位置関係はハイフォレストベア→俺→カスミという一直線の位置関係を織り成しており、俺はタイミングよく伏せるか横に逸れるかすればいいのだ。
先ほどのカスミの掛け声は詠唱の準備が終えて位置取りも出来たことを伝えるための声であった。
「いまだ!」
俺はそう叫んでカスミとすれ違う。
その瞬間にはカスミは杖をハイフォレストベアに向けており、『マルチスピア』が展開される。
『マルチスピア』はハイフォレストベアにあたり0.5割くらいのダメージを与える。
ハイフォレストベアは大きなダメージに仰け反る。
そのタイミングでミミカがハイフォレストベアに連撃をする。
仰け反り怯んだタイミングのハイフォレストベアはすぐに反撃出来ずに攻撃をされるがままに受ける。
しかし、少し経ったタイミングで立て直してきて反撃を行い始める。
ミミカに爪を振るい攻撃を行いミミカの方に着実にダメージを与えるハイフォレストベア。
ミミカも必死に応戦するが大きくダメージを与えることが出来ずにHPは残り4割を切っている。
そんな中、俺は先ほど大量に消費したMPとHPの回復のためにポーションを飲んでおり、手を出すことができない。
それにミミカもタイミングを見計らってポーションを飲んでいる。
これが俺たちの作戦である。
技量のある前衛二人と後衛一人だからできる戦法。
基本的にタゲは前衛の二人で交互に取り、後衛が強力な魔法をぶつける。
という戦法である。
そのため、前衛への負担は大きいがそれをカバーするためにタゲを取らない前衛が適度に遊撃をする。
しかし、この作戦には問題は沢山ある。
まず、タゲを取る為のヘイトの管理、さらにはタゲを取る前衛のHP管理、最後に後衛職にヘイトが向かないようにもしなくてはならない。
まぁ、要するに前衛が極端に苦労する作戦なのだ。
そこらへんは今の所はなんとかなっており、しばらくが経ち三分の一までHPが削れた。
「今から風魔法も来るから気をつけろ!」
「「わかりました!」」
二人がそう返事すると共に次の作戦に移る。
風の魔法が使われることにより直線的、要するに延長線上のポイントはダメージをくらう可能性がある。
距離を下手に離した状態でヘイトが向いてしまうと避けるのが困難になる。
次に俺たちは二人でタゲを取る。
そして、カスミは俺たちと一直線上にならないように動く。
もしも一直線上になってハイフォレストベアが魔法を使った場合は攻撃の初動が後衛のカスミが確認をうまくすることが出来ずに被弾する可能性が高い。
因みにここからはカスミには弱くて発動しやすい魔法を使うようにしてもらってる。
ここでは主に俺とミミカでハイフォレストベアに攻撃をしている。
俺たちは避けては攻撃、いなしては攻撃、もう一人の方にタゲが向かえばもう攻撃を繰り出す。
そうして、なん度も繰り返し少しは引いてカスミの魔法を被弾させて…。
そして、最後の決め手となったのがカスミの魔法だった。
『フレイム』がハイフォレストベアに直撃して残り三割を切った瞬間だった。
急速にハイフォレストベアのHPが回復する。
そして、赤いオーラを纏ったハイフォレストベアがそこに立っていた。
「え?」
「うそ、なんで…」
二人は驚いたように目を見ひらく。
俺も驚いて思わず立ち止まる。
「…っ!
まさか…」
そうして呆然とした時、俺はある可能性に気がついた。
それは…
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狂化を乗り越えし者 R5
敵が時折、狂化になる。
狂化の制御法の使用許可
狂化の状態になってる相手に僅かな特攻が付く。
取得条件
スキル【狂化無効】の取得
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それは一つの称号だった。
もう年末ですね。
なんとか書き上げることができてよかった…