第8話 覚醒の条件
二人が大きな瞳をぱちくりさせながらタクトの顔を見る。
「頭大丈夫ですか? どこかにぶつけましたか?」
「まあ、メルヘンチックな冗談ですこと」
何事もなかったかのように二人は淡々と食事を再開する。
ダメだったー! やっぱり無理だったかー! 絶対今の発言で俺のこと頭のおかしな奴だと思われたー!
「ち、違うんだよ! そう! 冗談だよ! 冗談! 少し面白いかなって思って言ってみただけなんだよ。ほら、エレナの中二病みたいな……」
「私のどこが中二病だって言うんですか!」
「あら、エレナのお仲間でしたの?」
「オリヴィアまで……」
エレナがしょんぼりと椅子に凭れる。
「そんなに嫌なのかよ! だってお前ライトニングマスターとか、一族の仇とか、中二病みたいなこと言ってただろ?」
それを聞いた二人の表情が曇る。それからオリヴィアが呟く。
「タクト……エレナに謝るですの」
「え?」
「ライトニングマスターはともあれ、エレナの家族や一族の話は全て本当ですわ……」
「本当って……殺されたのか?」
オリヴィアが静かに頷く。
「そんな! なんで!」
はっ! 次の瞬間、ある名前がタクトの脳裏を過る。
「災厄の天使たち……」
「エレナはこれまでずっとたった一人で復讐のために生きて……」
「もう! その話はいいです!」
エレナがオリヴィアの話を遮った。
「ごめん……悪かった……」
「分かったらもう中二病なんて言わないでくださいね」
エレナが二人に向かって笑って見せた。しかし、タクトもオリヴィアもそれが表面上だけの微笑みで実際には無理をしている顔であることを瞬時に理解した。
「騎士団には頼らなかったのか? 異能があれば騎士団にだって入れるんだろ?」
「エレナも最初は頼ろうとしましたわ。でも騎士団は何も助けてくれませんでしたの」
「あんな無能集団に頼ったところで何も解決しませんよ」
エレナの言う通りなのかもしれない。確かにテミスさんの話によれば騎士団はチルドレンの情報を何一つ掴めていないと言っていた。それに騎士団は悪人を裁くことは出来ても善人を助けることはしない。これは既にタクトも身を持って実感している。
だったら騎士団が守ってるものって一体……。
「それでも、一人で探すことないだろ? 騎士団の中にだって事情を話せば助けてくれる人はきっといる!」
テミスさんとか……テミスさんとか……テミスさんとか? ってテミスさんしかいないじゃねぇか!
「何ですか? まさか、あんな年増女将軍に唆されましたか?」
「え? お前らテミスさんのこと知ってるのか?」
「知ってるも何もこの町では知らない者がいない程の有名人ですわ。そうでもなければ、路地で会った時にあんな下手に出たりしませんでしたのに」
お陰で俺は助かったって訳だ……。
「それにしても、そこまでの有名人だったとは……」
「テミスと言えば騎士団の中で五本の指に数えられる程の剣豪ですの。何でも噂では才色兼備ならぬ彩色剣美とか」
「へぇ〜って何だよそれ?」
「よくは知りませんの。おそらく彼女の異能のことですわ」
「まぁ、我が最強の異能、駆け抜ける閃光に比べたら大したことはありませんね!」
「なぁ、オリヴィア。エレナの電撃ってそんなに強い異能なのか? 俺の記憶が正しければ確か躱されてたような……」
「な、何をー!」
「そうですわね。今のエレナとテミスが戦えば十中八九、エレナが負けますの」
それを聞いたエレナがまたしてもしょんぼりと椅子に凭れかかる。今度こそ魂が抜けてしまったようだ。
「ひ、酷いです……あんまりです……」
「違いますの! エレナ! エレナの異能にはまだまだ秘められた力がありますの! だから、もっとずっと強くなれますわ!」
そんな二人の姿を見ていたタクトは思った。まるで子供を励ます親のようだと……。
「秘められた力って何のことだよ?」
「異能についてはまだよく分からないことだらけですわ。それでも、強力な異能の能力者たちにはある共通点があることが分かっていますの」
「え、そうなのか? それって何なんだよ?」
「条件ですの」
「条件? どういう意味だ?」
「自らの異能に関して厳しい条件があれば、それだけ力も強くなる。単純な話しですわ」
「それはつまり、使い方が難しい異能ほど効果が強くなるってことか?」
「まあ、そんなところですわ。条件は大きく分けて三つありますの。異能を使うための発動条件、異能を使ってる間の使用方法や目的に関する使用条件、そして最後に使用後に発生する反動や代価ですわ。これまでは本来なら異能自体には条件は存在しないと考えられて来ましたの。それでも研究の結果、これらの条件を発生させることによって異能はその力を増すことができると判明したのですわ。所謂、覚醒と言われるものですの」
「覚醒……。じゃあ、エレナの電撃が電池式って言うのはその条件ってやつなのか?」
オリヴィアが首を横に振る。
「違いますの。それはエレナの体力と異能そのものの性質ですわ」
「って違うのかよ! でもなんでオリヴィアがそんなこと知ってるんだ? だってオリヴィアは異能を持ってないんだろ?」
「そう言えば、まだ言ってませんでしたわ。私の父が異能の研究をしていますの。私が小さい時は一人でいる間ずっと父の部屋に忍び込んで異能に関する研究資料を読んで過ごしていましたの」
「て、天才かよ! 恐るべし、オリヴィア……」
「だから、エレナはまだまだ無限の可能性を秘めてますの。きっと復讐も全て上手くいきますわ」
オリヴィアがエレナに向けて笑顔でガッツポーズを決める。
「いや、笑顔でさらっと恐ろしいこと言ってるんですけど!」
「そ、そうですとも! 我が異能、駆け抜ける閃光は最強なのです!」
オリヴィアの言葉を聞いていたエレナが充電を終えたかのように復活した。