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第7話 実は俺は

 そこは一歩足を踏み入れると真っ暗で何一つ見えない。そんな中、オリヴィアは入り口に置いてあったランプに火を灯し、当たり前のように奥へ進み始めた。


「今奥の部屋から明かりを取って来ますわ。二人は少しここで待っていてくださいですの」


 そう言って歩き出したオリヴィアの姿が忽ち闇に飲み込まれるように消える。すると、いきなりエレナがタクトの後ろにくっついて来た。


「何だよ。離れろよ……さては、お前怖いのか? さっき人のことをあれだけビビりとか言ってたくせに怖いのか?」


「な、なな、何を! そ、そんな訳ないじゃないですか! 私はただビビりのタクトが怖がらないように近くにいてあげてるだけです……」


 エレナの体が明らかに震えている。


「お前、毎日ここに住んでるんだろ? だったら別に怖いことなんてないだろ?」


「だ、だから、怖くなんてありませんよ!」


「そうだ、お前異能があるだろ! 電気だよ! お前の異能を使って手をピカーって光らせれば明るく出来るんじゃないのか?」


「出来たらとっくにやってますよ! 我が最強の異能、駆け抜ける閃光(サンダーボルト)はそんな無駄遣いは出来ません! それにそもそもこの異能はそれ程長時間は使えないんです! 電池切れで……」


「つ、使えな! ってか電池式だったのか?」


「そんなことはどうでもいいでしょ! それより、この屋敷……出るんですよ……アレが」


「おい、何言ってんだよ。アレって何だよ。それってまさか……」


「ええ、幽霊です」


「二人とも何のお話をしてますの?」


 突然、オリヴィアの顔が暗闇から現れた! それを見たエレナとタクトがギャーっと同時に悲鳴を上げる。


「ってなんだよ! オリヴィアか……」


「べ、別に私はビビってませんから! 少し驚いただけです……」


「エレナったらまた冗談を。この家に幽霊なんていませんの。いるとすれば生霊ですわ」


「いや、笑えねぇよその冗談……」


「はい、これを」


 オリヴィアがエレナとタクトにそれぞれ明かりのついたランプを一つずつ手渡した。


「では、早速エレナは夕食の準備をお願いしますわ。私はまずタクトを部屋まで案内して来ますの」


「了解です」


 そう言うと今度はエレナが闇の中へ消えて行った。


「タクト、こっちですの」


 呼ばれたタクトはオリヴィアの後を付いて行く。どこまで進んでも暗く長い廊下が永遠と続く。まるで同じ所を何度も通っているかのような感覚に襲われそうになる。途中、いくつもの写真や絵画が飾ってあるのが見えた。

 ある部屋のドアの前でオリヴィアが足を止める。


「タクトの部屋はここですわ」


 オリヴィアが部屋のドアを開く。そこは高級ホテル宛らの驚く程立派な部屋だった。部屋の中はかなりの広さでテーブル、ベッド、クローゼット何もかもが一人用の部屋とは思えない大きさだ。それだけではない、洗面所、トイレ、バスルームまで完備されている。もしこの部屋にテレビとパソコンついでに冷蔵庫があれば完璧だ。そんな事を考えながらタクトがベッドに腰を下ろす。


「本当にこんな立派な部屋を使ってもいいのか?」


「ええ、構いませんの。私はエレナと夕食の準備がありますから、暫くしたらまた呼びに来ますわ」


 オリヴィアが部屋を出て行くとタクトはベッドに仰向けに倒れた。カーテンの隙間からは星空が見える。


「星はこっちの世界も変わらないんだな。はぁ〜、一日目で何とかなって良かった〜」


 そのまま目を閉じる。



 気が付くとタクトは真っ黒な何もない空間に立っていた。


「ここは?」


 タクトの目の前には一人の少女がこちらに背を向けて立っている。黒髪に見覚えのある後ろ姿。黒のセーラー服を着ている。


 ――間違いない。


「い……ろは……イロハ! 何でお前がここにいる! だってお前は確かに二年前……」


 タクトが少女の元へ歩み寄ろうとするが一向に近づくことができない。それでもタクトは諦めずに走り出した。そして叫ぶ。



 ――届かない名前を……。



 はっ! ベッドの上でタクトが目を覚ます。すぐ横にはジト目をしたエレナが立っている。


「やっと起きましたか? 私たちが夕食の準備をしている間、寝てるなんて全くいい御身分、いいえ、ゴミですね! さっさと行きますよ!」


「あれは夢だったのか……」


 部屋を出てエレナの後を付いて行くと、大きなドアの前に辿り着いた。ドアを開けると、巨大な長方形のテーブルの端でオリヴィアが夕食を並べている。どうやらここは食堂のようだ。


「悪いな、手伝うよ!」


「当然ですわ」


 オリヴィアが笑顔で答える。

 それから三人はテーブルの端に仲良く? とにかく並んで食事を始めた。お嬢様と魔法使いとジャージ姿の男が並んで食事しているのだ。普通に考えるとかなりカオスな絵面である。


「やっぱり、この世界にもパンってあるんだな」


 目の前の皿からパンを手に取ったタクトが驚いたように言う。


「何当たり前のこと言ってるんですか?」


「タクトはこの世界ではない世界でもご存知ですの?」


 タクトの言葉を聞いた二人が不思議そうな顔をして尋ねる。


 あっ! ヤバい! いや、でも待てよ? あの時路地で俺を襲った男は異世界を、俺にとっての現実世界を知っていた! だったら、こいつらなら、エレナとオリヴィアなら俺のいた世界のことについて話せば理解してくれるかもしれない……。


「なぁ、お前らに話があるんだけど……」


「何ですか? おかわりですか?」


「どうしたんですの? タクト?」


「実は俺は……異世界から来たんだ!」


 それを聞いた瞬間、エレナとオリヴィアの手が止まった。


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