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第6話 毒舌と中二病

 それから迷路のような路地をなんとか抜け出し、買い物の荷物を大量に持たされたタクトはオリヴィアとエレナの後を追うように町を歩いていた。


「お前ら荷物は全部俺一人に押し付けやがって……少しぐらいは持ってくれたっていいだろ……」


 その声を聞いたエレナとオリヴィアがまたしても同時に振り向く。


「まあ、タクト。あなた言いましたわね。自分は一文無しだって。タダで泊めてあげるのですから、それなりに働いてもらいますの」


「そうですよ! タクトは男のくせに荷物も持てないんですか!」


「くそぉ、お前ら人をいいように使いやがって……」


 三人は暫く無言のまま夕焼けの町を行く。その時、思い出したようにタクトが口を開いた。


「なぁ?」


「何ですか? もう限界ですか? 全く使えませんね」


「違げぇよ! エレナって異能を使えるんだよな? さっきの電撃みたいなやつ」


「ええ、我が最強の異能、駆け抜ける閃光(サンダーボルト)です。それがどうかしましたか?」


「じゃあ、オリヴィアも何か異能を使えるのか?」


「私は異能は持っていませんの。それでも別にタクトのような無能ではありませんわ」


「さっきから思ってたんだけどオリヴィアって結構毒舌だよな……」


「まあ、全く気付きませんでしたわ」


 驚いた様子でオリヴィアが口元に手を当てる。


「つまり、今この中で異能を使えるのはエレナだけってことか……」


「ふっふっふ、どうですか! 私の凄さがようやく理解できましたか!」


「確かに電撃の異能は驚いたけど、エレナ……お前中二病だろ」


「何ですか! 心外です! 殺されたいんですか! ええ、いいでしょう! 我が最強の異能をその身を持って味あわせてあげましょう!」


 タクトの言葉に激怒したエレナがタクトに向かって襲いかかろうとしたその時。


「エレナ、いけませんの!」


 オリヴィアがタクトを庇った。


「オリヴィア……」


「やるなら荷物を運び終わってからですわ」


「いや、やるのは構わないのかよ!」



 三人はあれからだいぶ町の外れの方まで歩いて来ていた。家屋の数も減り、辺りが段々と木々に包まれる。しかし前を行く二人の様子からして一向に着く気配がない。


「なぁ、オリヴィアの家って本当にこの先にあるのか?」


「ええ、もうすぐですわ。少し町から離れた所にありますの」


 突然、何かを察したようにタクトが足を止めた。それに気付いたエレナとオリヴィアも足を止め振り返る。

 そして、タクトが恐る恐る口を開く。


「本当にこの先なのか?」


「何を言ってますの? もう少しで着きますわ」


「この先に家なんてあるのか?」


「何が言いたいんですか?」


「お前ら! 俺を人気のない所に連れ込んで殺すつもりじゃないのかって聞いてんだよ!」


 その言葉を聞いた瞬間、二人がタクトから目を逸らした。それを見たタクトがゆっくりと後退りする。その時、素早くエレナがタクトの元に駆け寄り耳元で囁いた。


「もう今更気付いても遅いんですよ……」


「おい、マジかよ……」


 やっぱり信用した俺が馬鹿だった。こうなったら……。


 タクトが拳を握り締めた丁度その時。


「ふふふ……」


 ゾッとした顔のタクトを見たオリヴィアが不気味に笑い始めた。すると、つられるようにエレナも笑い始める。


「おい! 何がおかしいんだよお前ら!」


「だってオリヴィアが……ははは」


「元はと言えばエレナが言い出したことじゃないですの……ふふふ」


「お前ら何なんだよ!」


「冗談ですわ。少し脅かしただけですの」


「何本気でビビってるんですか?」


「は?」


「わざと遠回りして驚かせようってエレナが言いましたの」


「オリヴィアだって乗り気じゃなかったですか」


 じょ、冗談かよー! 


「お、お前らー! こっちは本気で殺されるかと思ったじゃねぇか!」


「タクトが私たちを疑うから悪いんですの」


「それは悪かったと思うけど、騙す方がもっと悪いだろ!」


 タクトを余所目にエレナとオリヴィアが楽しそうに会話をしながら再び道を進み出した。


「さあ、そろそろ帰りますの」


「それにしても見ましたか? あの時のタクトの顔!」


「ええ、見ましたわ。正に傑作ですの」


「うるせぇ! 最初から真っ直ぐ帰れよ!」


 そこから少し林の中を進んだ先。突如現れた大きな門の前で三人は足を止めた。暗くてあまり良くは見えないが辺り一面が白く高い塀に囲まれている。


「ここがオリヴィアの家か?」


「そうですの」


「どうです! 驚きましたか?」


「本物のお嬢様だったのか……」


 オリヴィアが門を開けると広い庭の先にうっすらと豪邸が見える。三人はその豪邸の玄関へと続く真っ直ぐに長い道を進む。


「そう言えば、エレナは自分の家に帰らなくていいのか?」


「何言ってるんですか? 私もここに住んでるんです」


「え、そうなのか?」


「ええ、エレナは二ヶ月ほど前に道端でお腹を空かせて倒れているのを私が見つけて以来、私が飼って……いえ、一緒に住んでいますの」


「い、今! 飼ってって言ったよな!」


「あら、そんなこと私一言も言ってませんわ。死ね」


「今確実に死ねって言っただろ! 怖!」


「っと言う訳で私はオリヴィアと一緒にここに住んでいるのです」


「それってつまり居候じゃね?」


「あ? 何か言いましたか?」


 エレナが睨みつけるがタクトがそれ無視して話を続ける。


「オリヴィアの家族は何も言わないのか?」


「母はもう亡くなりましたの。父も仕事一筋で家には滅多に帰って来ませんわ」


「そ、そっか……なんか悪いな」


「別に構いませんわ。だって今の私にはエレナがいますの!」


「そうですよ! 私たちはもう家族も同然です!」


 そう言って二人は笑顔で手を繋ぐ。


「本当に二人だけで住んでるのか? 執事とかはいないのか?」


「庭の手入れは月に一度、職人に依頼してますの。それ以外は大体二人だけで何とかしてますわ。エレナがいてくれるだけで毎日が楽しいんですの!」


「よく分からないけど、なんかお前らって凄いんだな……」


 タクトがこの世界に来る前の自分の姿を思い出す。毎日何をする訳でもなく自堕落な生活を送っていた自分が何とも情けない限りだ。

 三人が玄関に到着した頃には遠回りをしたこともあってか日は完全に沈み、空には星が輝いていた。勿論だが豪邸のどの部屋にも明かりは点いていない。


「さあ、どうぞ上がってくださいですの」


 オリヴィアが両手で玄関の扉を開いた。


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