第5話 仲間にされた?
「お前ら!」
黒装束の男は一度、少女二人を睨みつけると再び視線をタクトに向ける。
「……まぁ、いいだろ。どの道今は騒ぎを起こすつもりはない。じゃあな、また会おうぜ。黒髪」
そう言い終える頃に、そこに男の姿はなかった。まるで最初からそこにはいなかったように一瞬にして消えてしまったのだ。
解放されたタクトがふらふらと立ち上がる。
「どうして……」
すぐに青い髪の少女がタクトに駆け寄る。
「大丈夫ですの? 実は気になってこっそり後をつけて来ましたの」
「あぁ、大丈夫だ。それより今の電撃って……」
「我が最強の異能、駆け抜ける閃光です! どうやら敵は我が異能を前に逃げ出したようですね!」
金髪の少女がまたしても決めポーズを取った。
「あれはエレナの異能ですわ。エレナと言うのはあの子の名前ですの。私はオリヴィアと言いますわ」
「お、おう……俺は櫻見奏人」
「それにしてもあなた、虫けらのように非力なのですね。その様子だと、どうやら本当にエレナが探していた相手ではないようですわ」
それを聞いていたエレナが反論を唱える。
「いいえ! まだ分かりませんよ! 非力だからと言って怪しい者じゃないなんて保証はどこにもありませんからね!」
「お前ら、人のことを非力非力言いやがって……まぁ助けてもらっといて否定はできないか。取り敢えず、マジ助かった。ありがとな。俺は行かなきゃいけないんだ」
「行くって? そんなに急いでどこへ行くつもりなんですの?」
「妹を探してる。まだきっとこの近くにいるはずだ」
「あなた一人行くのは危険ですわ。それにもうすぐ日が暮れますの。これ以上はもう……」
見上げると細い路地裏の壁の隙間から茜色の空が見えた。
「いや、行くんだ! 俺はどうしても妹に、イロハに会わなきゃいけないんだ。会って確かめたいんだ……だってあいつは……」
そんなタクトの前にエレナが立ちはだかる。
「何だかよく分かりませんけど、行かせませんよ!」
「今はマジでお前の相手してる場合じゃない! 退いてくれ!」
「無謀ですわ」
「たとえ無謀でも俺はあいつに会いたいんだ……」
タクトの揺るがない意志に折れたのか。何か感じ取ったようにオリヴィアが頷いた。
「分かりましたわ。そこまで言うなら私たちもできる範囲で協力しますの。だから今日はもう一旦諦めるべきですわ」
「オリヴィア! 私は絶対反対ですよ! こんな得体の知れない奴に協力なんてしませんから!」
「エレナ…………」
オリヴィアがエレナを真っ直ぐに見つめる。しかし、エレナは下を向いて黙ったまま目を合わせようとしない。
「エレナ……私を信じてくださいですの。この人は、タクトは、きっと悪い人ではないですわ」
渋々、エレナが顔を上げる。
「…………オリヴィアがそこまで言うなら。でも少しだけですからね! もし変な真似をしたらその時は容赦しませんよ!」
「エレナ……ありがとうですの。それにもしかしたらエレナの探してる相手も見つかるかもしれないですわ」
それから二人の少女はお互いの顔を見て少し笑った。それを間近で見ていたタクトだが、いまいち二人の関係が分からない。
「それでいいですわね? タクト」
「精々扱き使ってやるから覚悟して下さいね! タクト!」
二人が同時にタクトの顔を見る。
「何か、かなり強引に仲間入りしたって感じになってるけど……ってかお前ら呼び捨てかよー!」
こんな時、効果音の一つも鳴らないところがなんとも現実的で悲しいが、二人は俺に協力してくれるらしい……。でも本当に信用していいのか?
そんなことより、きっとイロハはこの町のどこかにいる……。
「イロハ……俺は必ずお前に会いに行く。だから待っててくれ……」
決意を固めるタクト。それを横で見ていたオリヴィアが尋ねる。
「そう言えば、タクトはどこに住んでいらっしゃるんですの? あまり見ない格好をしていますけど……もしかして旅人か何かですの?」
「そうですね! まずは身元をはっきりさせてもらいましょうか?」
急な二人からの質問の答えに困るタクト。
「あ……あぁ……そう! 旅人だよ! ちょっと遠いとこから来たって感じかな〜。住んでる場所って言うか〜泊まってる場所って言うか〜。そういうのは〜……」
頬を人差し指で掻きながらタクトが答える。
「まあ! 旅人でしたの!」
「何だかますます怪しいじゃないですか!」
エレナがタクトに向かって両手を構える。その様子を見たタクトが慌てて降参するかのように両手を上げた。
「わ、分かった。本当のこと話せばいいんだろ。よく分かんねぇけど気付いたらこの町にいた。一文無しで正直どうしたらいいのかさっぱりだ。お前らさ、この辺りでタダで泊めてくれそうな場所とか知ってたら教えてくれよ?」
それを聞いたエレナとオリヴィアがタクトの方を見ながらひそひそ話を始めた。
「おい、なんだよお前ら……」
話を終えたオリヴィアとエレナが少し怪しげに微笑む。
「では、私の家にいらしたらどうですの?」
「オリヴィアの家に? いいのか?」
「ええ、問題ありませんわ。ねえ? エレナ?」
「そうですね、仕方ありません」
あのエレナがやけに大人しいところが何とも怪しいが、このまま野宿になるくらいなら。
「本当にいいんだな?」
「ええ」
「じゃあ、泊めさせてくれ」
「決まりですね」
タクトの返事を確認するとエレナとオリヴィアが顔を合わせた。
「助かりましたわ……でわ、タクト」
「ん?」
「あちらに買い物の荷物がありますの。持ってくださる?」
オリヴィアが路地の来た道を指差す。
「お前ら最初からそれが狙いかー!」