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第4話 再会

 テミスと別れてからタクトは再び行く当てもなくただ街を彷徨っていた。結局のところ、最初とあまり状況は変わっていない。分かったことと言えば、この世界には異能と呼ばれる力が存在し、その力が自分にも秘められている可能性があること。災厄の天使たち(フェイリアチルドレン)と呼ばれる何やらヤバい連中がいること。今自分がいる町の名前がアルレキアと言うこと。そして最後に騎士団は自分を助けてくれそうにないということだ。


 ――はっきり言って絶望的だ。


「折角、異世界召喚されたんだぞ! 俺の異能で世界を変えるまで死んでたまるかー! おー!」


 そんな決意も虚しく、タクトは早くも諦めモードに入っていた。


「はぁ、こんなことならいっそのこと牢屋にでも泊めてもらった方が……。いや! それはだめだ!」


 ぶつぶつと独り言を口走りながら道を歩くタクトに対して道行く人々が冷たい視線を向ける。


「なんだなんだ、そんなに黒髪って珍しいのか? 日本じゃこれが普通なんだぞ。あっ! それともこのジャージか? そんなに珍しいもんなら高く売れたりして! そしたらその金を元手に大量生産して大金持ちってのも悪くないな……」


 ふと、タクトはある店の前で足を止めた。店の方を見ると、見覚えのある後ろ姿の少女二人が買い物をしている。


 こいつらは確か……。


「あー! お前ら!」


 大声を上げタクトが二人を指差す。その声を聞いた少女たちが同時に振り向く。


「あー! あなたは! さっきの変質者!」


「まあ、また会うなんて奇遇ですわ。変質者さん」


 そこにいたのはタクトを路地裏で襲ったあの少女二人だ。


「俺は変質者じゃねぇ! 危うくお前らのせいで本当に牢屋に入れられるかと思ったんだぞ!」


「何ですか? 脱走ですか? それとも私にやられに来たんですか?」


「あらまあ、脱走はいけませんわ。すぐにお戻りなさいですの。変質者さん」


「お前ら! いい加減にしろ! 人のこと変質者扱いしやがって!」


「なんなら今ここで逝かせてあげましょうか?」


 金髪の少女が怪しい手つきでタクトを挑発する。


「やれるもんならやってみろ! 俺は絶対お前らなんかに負けねぇ! 手始めにお前から経験値にしてやる!」


 タクトが金髪の少女に向かって構える。


 その時だった。タクトの目があるものを捉えた。大通りの向かい側を歩く一人の少女の姿だ。長い黒髪、見覚えのある横顔。それは彼にとって二度と見ることの叶わないはずの姿だった。咄嗟にタクトは届くはずもないその少女に向かってゆっくりと右手を伸ばした。



 ――イロハ?



 完全に思考が停止してしまったタクトがその場に立ち尽くす。その様子を見ていた金髪の少女が気味悪そうにタクトを見つめる。


「な、何ですか! 遂に見た目だけでなく頭までおかしくなりましたか!」


「いろ……は……イロハ!」


 突然叫ぶように声を上げるとタクトは全力で走り出した。


「な、何なんですか!」


「お知り合いでもいたんじゃないですの?」


 タクトが人混みをかき分けて進む。


「イロハ! 待ってくれ! イロハー!」


 そんなはずない! そんなはずないんだよ! だって! あいつは! あついはもう!


 タクトが大通りの向かい側に到着した時。そこには既に黒髪の少女の姿はなかった。どうやら、この通りにはもういないようだ。


「どこに行った?」


 それから諦めずに探し続けているとタクトは、またしても一本の細い路地裏の前で足を止めた。昼間だと言うのに薄暗い、見るからに危ない雰囲気と異臭が漂った細い道が続いている。


 まだそれ程遠くへは行っていないはずだ。もし大通りから脇道に入ったならここしかない。行くか……。


「待ってろよイロハ」


 タクトは意を決して、その路地に足を踏み入れる。

 そこはまるで細い路地が迷路のように入り組んだ場所だ。しかし、タクトは迷うことなく進む。

 突然、何かを感じたタクトが足を止める。すると、道の脇から何者かが現れた。

 黒装束を身に纏い、フードを深くかぶっていて顔まではよく見えない。


「イロハ……なのか?」


「おい、お前何者だ?」


 男の声! イロハじゃない! 


 タクトが身構える。


 黒装束の男がフードを脱いだ。その瞬間、タクトの体が凍りつたかのように固まった。目には見えないが男の体からは瘴気のようなものが漂っているのを感じ取れる。年齢はタクトと同じくらい、深緑色の髪に中性的な顔。そして、その顔とは裏腹に悍ましい目つきをした男がそこには立っていた。

 男はまるで虫けらでも見ているような目でタクトを見る。


 こいつ何なんだよ! ヤバい、ヤバい、ヤバい!


 タクトはそんな男の目に今までにない恐怖を感じていた。

 そして、その場の空気に耐えきれないと悟ったタクトが逃げ出そうと背を向けた次の瞬間。


 速い! 


 一瞬で両腕を背中で拘束され地面に押さえつけられてしまった。


「放せ! 俺はイロハに! 妹に会うんだ!」


 それを聞いた男がタクトの顔を地面に押しつける。


「黙って質問にだけ答えろ。ん? ……お前……まさか黒髪か? こいつはおもしれぇ。そう言えば、いつかオッドのやつが言ってたな。黒髪は異世界から来た存在だって……」


 タクトはその時、確かに聞いた。


 こいつは異世界を知ってる?


「それどういう意味だ!」


「質問してるのはこっちだ!」


 男はタクトの頭を地面に叩きつける。


「俺たちのメンバーにも一人いたな……」


「イロハを! 妹を知ってるのか! 妹はどこにいる!」


 その時だった。路地の前方から黒装束の男目掛けて電撃が襲いかかる。しかし、男はそれを軽々と躱し、電撃はそのまま後方の壁に当たると黒煙を上げた。

 タクトが顔を上げると、そこにはあの少女二人が立っていた。


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