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第32話 敵襲

 突然、深夜の廊下に誰かの走る足音が響き渡る。足音の数からして一人ではないようだ。足音は真っ直ぐにタクトのいる部屋へ向かって来る。しかし、疲れ切って熟睡中のタクトは目を覚ます様子がない。すると、いきなり部屋のドアが勢い良く開き何者かが部屋へ入って来た。その音を聞いたタクトが目を覚まし慌てて起き上がる。暗闇の中、息を切らした人影が二人、タクトに迫り来る。


「だ、誰だお前ら!」


「のんきに寝ている場合ではありません! 敵襲です!」


「タクト! 急いで逃げるの!」


 この声は、エレナとマキナだ。


「どうしたんだよ二人とも? 敵襲って?」


「説明は後です! 今はとにかく逃げるんですよ!」


 この二人の慌てようと言い、緊張感と言い、ただ事ではない。すぐに二人とともにタクトが部屋を飛び出し月明かりだけを頼りに暗く長い廊下を駆け抜ける。


 一体、何が起こってるって言うんだ?


 その時、タクトが何かを思い出したようにエレナに尋ねる。


「オリヴィアは? オリヴィアは一緒じゃないのか?」


「説明は後です! 今は安全な場所に隠れましょう!」


 何言ってんだこいつ? まさかオリヴィアを一人見捨てて来たって言うのか? 冗談じゃないぞ! 仲間を簡単に見捨てるなんて俺には出来ない! 況してオリヴィアは能力者じゃないんだぞ!


「俺はオリヴィアを助けに行って来る!」


 足を止め廊下を引き返そうとした次の瞬間、タクトの腕をマキナが掴んだ。


「何すんだよ! オリヴィアを早く助けに行かないと!」


「今は逃げるの!」


 マキナまで何言ってんだよ? まさかオリヴィアはもう敵にやられたって言うのか?


「おい、オリヴィアはどこにいる! 何で誰も助けに行かないんだ!」


 暗闇の中、表情まではっきりと見えない上にマキナは質問に対して何も答えない。しかし、彼女の手はタクトの腕を掴んだまま離そうとしなかった。


 何なんだよ! そんなに何から逃げるって言うんだよ!


 その時、足を止めている二人の様子を見兼ねたエレナが廊下の先から引き返して来た。すると、何かに気付いた様子で近くの部屋のドアを開けて無理矢理二人を押し込む。部屋の入り口に三人が挟まる形で入るとエレナが急いでドアを閉めた。


「おい! いきなり何すんだよ!」


「しーっ! 静かにしてください! 気付かれてしまいます!」


 エレナが小声でそう言うとタクトの口を押さえる。


 気付かれる? 何に? まさか敵が来たのか?


 エレナの手を外してタクトが小声で話し始める。


「一体何から逃げてるって言うんだよ?」


「分かりません。しかし、あれは……」


「来た!」


 ドアを少し開いた隙間から敵の姿を確認したのかマキナがタクトとエレナの二人に何者かの接近を知らせる。その声を聞いたタクトとエレナも頭を縦に並べてドアの隙間を覗き込む。月明かりに照らされた廊下の先からコツコツと靴底が床に当たる足音が聞こえて来る。


 足音の一定の間隔からして推測するに歩幅はそれ程広くない。いや、寧ろ狭いと言える。つまり身長もそれ程高くはない。敵は子供? まさかA.E.S.の連中? だとしたらどうやってここを特定したんだ? やっぱり狙いは俺なのか? ん? 待てよ……いや、この足音は!


 突然、何かに気付いたタクトがドアを開き廊下に出た。それを見たエレナとマキナが必死に呼び戻そうとするが無視してタクトが足音のする方へ歩き出す。遂に窓から差し込む月明かりが足音の正体を照らし出した。青く長い髪にドレス姿。どうやらオリヴィアのようだ。


 やっぱり、この足音はオリヴィアだ。


「オリヴィア! 良かった無事だったのか! この家の中に敵がいるらしいんだ! 早く逃げるぞ!」


 オリヴィアはタクトの声が聞こえないのか全く返事をしない。無言のままゆっくりとタクトへ歩み寄る。その右手には月明かりを反射し輝いたナイフが握られていた。


「どうしたんだよ? 早く逃げ……」


 次の瞬間、手に持ったナイフを振りかざしオリヴィアがタクトに向かって襲いかかった。


 え……。


 目の前の状況が理解出来ず唖然とするタクトの首を目掛けてオリヴィアがナイフを振り下ろす。咄嗟に後ろから現れたエレナがタクトの体を床に押し倒しナイフの刃を寸前で躱した。


 はぁ、はぁ、はぁ……な、何で? オリヴィアが俺を……。


「死にたいんですか! 敵はオリヴィアですよ!」


 は? 何言ってんだよエレナのやつ? オリヴィアが敵な訳ないだろ?


 混乱したタクトがエレナの後方、攻撃を躱されたオリヴィアがナイフを逆手持ちに持ち替えエレナの背中目掛けて再び振りかざす姿を目にする。どうやら標的はタクトだけではないようだ。


 嘘だ! あのオリヴィアがエレナまで襲うなんて有り得ない! そんなことより、このままじゃエレナが!


 突如、背後から現れたマキナが後ろからオリヴィアのナイフを持った右手を掴んだ。その隙にタクトとエレナが立ち上がる。


「二人とも早く逃げて!」


 違う! それじゃマキナが危ない! オリヴィアはまだナイフを隠し持っている! 俺だけはそれを知っている!


「オリヴィアのナイフは一本だけじゃないぞ! マキナ!」


 タクトの声と同時にオリヴィアが左手でスカートの中から素早く果物ナイフを取り出しマキナに斬りつけた。タクトの声を聞いたマキナが瞬時に警戒し距離を取ろうとしたその時、マキナの左肩をオリヴィアの果物ナイフの刃先が切り裂く。しかし、マキナは怯まずにオリヴィアから間合いを取った。血が床に滴りマキナが苦しげな表情を浮かべる。オリヴィアは無表情のまま何も言わずに両手にナイフを構えた。


 何でオリヴィアがマキナを! 俺たちを襲うんだよ! 俺たちは仲間じゃなかったのかよ!


「あれは私たちの知っているオリヴィアではありませんよ、タクト。いえ、体は確かにオリヴィア本人のものです。それはまず間違いありません。しかし、何者かが異能で操っているか憑依していると見るべきでしょう。相手の異能も分からない今、オリヴィアにこちらから手を出す訳にはいきません。一先ずここは逃げるしかありませんよ」


 エレナが普段からは想像も出来ない程の冷静な口振りで現状を速やかにタクトに告げた。


 何者かの異能だって? くそぉ、よりによってオリヴィアが相手か。おそらく、エレナの異能を使えばすぐにでも倒すことは出来る。でもそれじゃあ、オリヴィアがただじゃ済まない。何よりエレナにその気はないだろう。かと言ってこの状況をマキナ一人でどうにか出来るとは到底思えない。俺だってオリヴィアをこのまま見捨てて逃げるなんてことはしたくない。つまり、戦うしかない。こっちからはろくな反撃一つ出来なくとも何とかナイフさえ取り上げて無力化してしまえば、まだ勝ち目はある。マキナの手当ても急がないといけないし、それ程時間をかけてる暇もないか。


「俺たちで何とかオリヴィアを止めるぞ!」


「何言ってるんですか! この状況でどう戦えって言うんです! もしオリヴィアに何かあったらどうするつもりですか!」


「今、その何かが起きてるから助けるんだろ?」


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