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第25話 五日目の異変

「何だよ話って?」


「儂は今からこの屋敷を出る。オリヴィア殿たちにはお主から儂の代わりに礼を言っておいてくれぬか? マキナ殿には一足先に別れの言葉を言って参った」


「まぁ、それならべつに構わないけど……」


「それと儂は今から数日間このアルレキアを離れることにした。そこでお主に言っておかねばならないことが一つあるのじゃ」


「だから何だよ?」


 タクトがイズコのおかしな様子に首を傾げる。


「儂は実はこう見えて占いを齧っておる身での――お主このままでは死ぬぞ?」


「え……」


 いきなり何言ってんだ? こいつ?


「昨晩お主の髪を借りたじゃろ? あれで何度確かめてもお主にはやはり死相が出ておる。それも並大抵のものではない。よくは分からんがお主はもうこの世にはおらんあの世の何かと強く惹かれ合っておるようじゃ。お主、危ういぞ」


 あの世の何かって、もしかしてイロハか? イロハなのか? いや、イロハはアルレキアの町で確かに見た。なら、俺が惹かれ合っている何かって何なんだよ!


「俺はどうすればいい?」


「それはお主にしか分からんことじゃろうな」


 その時、イズコがタクトの手を握り締めた。


「儂はまたお主らと変わらぬ姿で再開できる日を楽しみにしておるからの。では、オリヴィア殿たちにもよろしく頼む」


 ベッドから降りたイズコがドアへ向かう。その後ろからタクトが呼び止めた。


「よく分かんねぇけど忠告感謝するぜ」


「ただの戯れ言じゃ」


 そう一言だけを言い残してイズコはオリヴィアの家を後にした。


「あいつは一体何者だったのだろうか。預言者……なんてな」



 この時、俺はまだ知らなかった。まさか、イズコの言っていたことがあんな形で騒動に発展することになるなんて……。



 ――翌朝。


 タクトがいつものように目を覚ました。今日は生憎の曇り空だ。傷もすっかり治った様子のタクトが顔から湿布を剥し、上半身からは包帯を外す。顔の腫れは元通りだが腹部はまだ黒く痛々しい痣が残っていた。触るとまだ痛い。ジャージ姿に着替え、顔を洗い、歯を磨く。そして、やることがなくなったら二度寝。異世界に来ても二度寝だけはやっぱりやめられない。


「今日からまた只働きなんだよな。朝食まで寝させてもらうぜ」


 大きな欠伸をしてタクトが眠りに就こうとしたその時。何やら廊下から元気いっぱいと言わんばかりに足音が響く。どうやら、誰かが廊下を走り回っているようだ。


 うるさい、こんな早朝から誰だ? オリヴィア? いや、オリヴィアのドレス姿で走り回るには無理があるか? じゃあ、マキナ? いや、あの温厚なマキナがこんな足音を立てて走り回る訳がない。ってことは? やっぱり、エレナか!


「エレナ! 廊下を走るなー!」


 タクトが大声を上げる。すると、足音が徐々にタクトの部屋の前へ近づいて来る。そして、突然タクトの部屋の前で足音が途切れた。


 え、俺が怒られるのか? ん? この感じ、エレナじゃない? じゃ一体……。


 その時、タクトの部屋のドアが勢い良く開いた。


「ですよ〜!」


 可愛らしい声と共に何かがタクトの寝ているベッドの上に飛び込んで来た。驚いたタクトが慌てて起き上がる。すると、何かがタオルケットの下で激しく動き回っている。タクトが恐る恐るタオルケットを捲る。そこには、見覚えのある魔法使い姿の幼女が寝転がっていた。


「ですよ?」


「何だよジュニアか。脅かすなって。エレナならキッチンか食堂で今頃朝食の準備してるから。邪魔しちゃダメだぞ。おやすみ〜」


 幼女を余所目にタクトが眠り始める。その様子を見た幼女が頬を膨らませタクトに襲いかかる。


「ですよ! ですよ! ですよ〜!」


「うるさい! 俺は今貴重な二度寝の時間なんだよ!」


 その時、タクトが異変に気付く。幼女の髪が金髪だったのだ。


 あれ? ジュニアは確か茶髪のはずじゃ? エレナのやつは一体何人弟子がいるんだ?


「ですよ!」


「それにしてもお前、随分エレナに似て……」


 嘘だろ……こいつはエレナ? でも明らかに幼くなってる!


「お名前教えてくれないかな?」


「エレナ! ですよ!」


 やっぱり! いや、そんなことより今は何が起こっているのかを確かめないと! 早くオリヴィアとマキナにこのことを知らせないと!


 エレナと手を繋ぎタクトが慌てた様子で部屋を飛び出した。


「オリヴィアー! マキナー! 誰かいないのかー!」


「ですよー!」


 こんな朝から大声を出して誰も返事一つしないなんてやっぱりおかしい! 今この家で何かが起きている!


 異変が起こっていることを確信したタクトがエレナを連れて朝日が差し込む長い直線の廊下を進む。


「オリヴィア! マキナ!」


「ですよー!」


「誰かいないのかー!」


「お腹空いた……」


「え?」


「お腹空いたー!」


「分かったよ」


 いくら幼女とは言え元はあのエレナだ。一度騒ぎ出せばうるさくて堪らない。タクトは仕方がなく進路を変更して急遽キッチンへ向かう。その時、廊下の先で見覚えのある長い青髪をした幼女が窓の外を眺めながら立っていた。間違いないオリヴィアだ!


「オリヴィア!」


「ですよー!」


「ですの?」


 タクトはすぐにエレナと反対側の手をオリヴィアと繋いだ。これでまずは二人、後はマキナだけか。


「どうなってるんだよお前ら? 俺のこと覚えてないのか?」


「ですよ?」


「ですの?」


 おい、嘘だろ……今までのこと全部覚えてないのかよ! 忘れちまったのかよ! いや、見たところ3〜4歳程度だ。幼くなり過ぎて記憶そのものまで曖昧になってるだけかもしれない。きっとそうだ。そうじゃなきゃ困るんだよ!


 タクトが二人の幼女を連れてキッチンに到着したが、朝食の準備は全く手を付けられていない。と言うことは少なくとも二人は朝起きた時からこの姿になってしまっていたということになる。タクトはオリヴィアとエレナに手を繋がせ、その間にナイフとリンゴをキッチンから持ち出す。それから、すぐ隣の食堂へ移動して二人を椅子に座らせるとリンゴを皮を剥き始めた。


 冷静になれ。幸い俺の体には異変は起きていない。なら、マキナの体にだって異変が起きてないことだって十分考えられる。今はまずこいつらから目を離さずにマキナを見つけ出すことが先決だ。落ち着いて話が出来る年齢ならいいんだが……。


「お腹空いたー!」


「今、お兄ちゃんがリンゴ剥いてやるから!」


「パパはー?」


 パパ? オリヴィアの父親は仕事で帰って来ないんじゃなかったっけか?


「パパはお仕事頑張ってるからお兄ちゃんと一緒に待ってよう」


「待ってる!」


「お腹空いたー!」


「お前はもう分かったから!」


 タクトが皮を剥き終えたリンゴをカットしエレナに渡す。それにエレナが満面の笑みで食らいつく。


「ママはー?」


 今度はママ? オリヴィアの母親は確かもう亡くなったはずじゃ……まだ母親が生きてる頃の記憶と混乱してるのか? もしそうなら気安く死んだなんて言えないな……。


「ママはきっともうすぐ帰って来るよ」


 これでいいはず……。


「ママが帰って来るの? 早くママに会いたーい!」


 タクトが今までに見たことがない程の喜びようでオリヴィアが声を上げた。


「もっと食べるー!」


「はいはい」


 リンゴを欲しがるエレナにタクトがもう一つリンゴを渡す。


 くそぉ、いつまでこんな状況が続くんだ!


 タクトが朝から全力の幼女二人を相手にして疲れ果てていたその時。遠くから玄関の扉が開く音が聞こえた。


「はっ! マキナか?」


「ママだよ!」


 オリヴィアが元気よく玄関へ走り出した。その後をリンゴを食べているエレナの手を引きながらタクトが追いかける。


 いや、エレナがここにいるってことは俺だけが過去へタイムスリップした可能性は考えにくい。なら、きっと今帰って来たのはマキナに違いない。あとはどれだけ幼くなっているかの問題だ。それはそれでなんか変な期待をしてしまうけど、今はそんなことを言ってられる状況じゃない!


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