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第22話 絵師

「てめぇの石頭響いたぜ……名前何て言ったっけか?」


「……タクト」


「そうか、タクトか……ナイスな名前じゃねぇか。親に感謝しろ。そして、死んでいけ!」


 ノットが足を振り上げたその時。何者かが後ろからノットの肩に手を置いた。それに気付いたノットが驚いたようにその手を振り払って振り返る。そこには調味料らしき瓶がぎっしりと入った紙袋を持ったマキナが立っていた。


「あの、その人私の知り合いなんだけど……」


 マキナが困った表情でタクトを指差した。


「マキナ……どうしてここに……」


「町を歩いてたら急にタクトの声が聞こえた気がして来てみたの」


「何だ? こいつの知り合いか? 悪りぃな、怪我したくなかったらさっさと失せな! 今から俺はこいつと男と男の決着をつけなきゃなんねえんだ!」


「あなたのことはどうでもいいけど。タクトが怪我しているのは見過ごせない」


「だったら何だよ?」


「マキナ! 逃げろ!」


 ノットがマキナに容赦なく回し蹴りを入れようとした。その瞬間、一瞬にしてマキナの姿が消えた。


「マキナ……」


「どこに行きやがった!」


「タクト? その怪我大丈夫? 痛い?」


 タクトが見上げると傍らでマキナがタクトの顔を覗き込むように見ていた。


「マキナ!」


 タクトの声にマキナがゆっくりと頷く。


「うん、分かってる。能力者でしょ?」


 そう言って立ち上がるとマキナは視線をノットに向ける。


「お前も能力者か?」


「ええ、そうよ。それにあなたの異能じゃ私には絶対に勝てない」


 それを聞いたノットが舌打ちをする。


「チッ…………瞬間移動系の能力者か。分が悪いな……今日のところは一旦引いてやる! けど、いつか必ずお前と決着をつけてやるからな。その時まで首を洗って待っていな!」


 ノットがタクトを指差しながらそう言い残すと自慢の俊足で颯爽とどこかへ消えて行った。すぐさまマキナがタクトに目を向け状態を確認する。


「タクト! しっかりして! 何があったの!」


「やっぱりマキナはすげぇよ…………」


 ――タクトが気を失った。



 次に目覚めた時、タクトは見覚えのある部屋のベットの上にいた。窓からは静かに夕日が差し込んでいる。


 知ってる天井だ……ここはオリヴィアの家か……。


 首を捻って辺りを見渡す。そこはオリヴィアの家、しかもタクトの自室だ。


「どうして……痛っ!」


 タクトの全身に激しい痛みが走る。気が付くと腫れ上がった顔面には湿布が、上半身には見覚えのある包帯がぐるぐる巻きにされていた。ベッドの傍らではマキナが疲れ果てた様子で眠っている。


 マキナ……俺を一人でここまで運んで来てくれたのか……。


 タクトが手を伸ばしマキナの髪に触れようとした丁度その時、マキナが目を覚ました。


「んん……タクト……大丈夫?」


「お陰様で何とか……」


 腫れ上がって歪んだ顔でタクトが笑った。


「一人で町を歩くのは危険だから気を付けないとダメでしょ」


 そう言ってマキナも優しく微笑む。


「でもマキナが助けに来てくれた」


 タクトの言葉にマキナが目を瞑り首を横に振る。


「ううん、今回はたまたま運が良かっただけ。そう言えば、帰って来る途中にオリヴィアたちに会ったわよ。二人ともすっごくタクトのことを心配してた。その包帯だってエレナが快く貸してくれたんだから」


「そうだったのか……俺ってば皆んなに迷惑かけたな……」


「早く元気になってその分お返ししないとね。あとエレナが言ってたんだけど、その包帯には異能の術式が組み込まれていて普通よりも傷の治りが早くなるらしいからタクトもすぐに良くなるって。一度しか効き目はないみたいだけど。後でちゃんとタクトもエレナにお礼を言ってね」


「エレナのやつ、やっぱりいい趣味してるな……」


 まるで俺がこうなることを予想していたみたいだ。まぁ、エレナに限ってそれはないか。


「じゃあ、私は頼まれた仕事があるから。オリヴィアたちももうすぐ帰って来ると思う」


「悪いな」


「いいの」


 マキナは笑顔のままそう言い残すとタクトの部屋を出た。身動きが取れないタクトはマキナを目で見送るとそのまま目を閉じる。



 眩しい夕日が照らし出す林の中。買い物を終えたオリヴィアとエレナが二人で荷物を分担し、いつものようにオリヴィアの家の門前まで帰って来た。


「タクトときたら少し目を離した隙にこれですよ! お陰でお小遣いを叩いて買った私の包帯がマキナに取られてしまいました!」


「エレナ、あれは誰ですの?」


 何かに気付いた様子でオリヴィアが足を止める。オリヴィアの言葉を聞いたエレナも同じく足を止めた。


「何ですか?」


 エレナが顔を上げると、オリヴィアの家の門前に一人の少女が豪邸の方を見つめながら立っていた。見た目はオリヴィアたちと同じくらいの年齢。赤茶のベレー帽をかぶった深紫色のおかっぱ頭、朱色をした蝶ネクタイとチェック柄のスカート、背中にはパレットを背負い、腰には何本もの大小様々な筆を下げている。スケッチブックまでは持っていないが、どうやら絵描きのようだ。オリヴィアとエレナの二人がすぐ側まで近づいても全く気付く気配がない。


「私の家に何かご用ですの?」


 オリヴィアが声を掛けるとようやく二人に気付いたのか少女が視線をオリヴィアに向けた。


「いや、余りにも立派な屋敷故に少々見入ってしまっていただけじゃ。お主らがここに住んでおる者たちか?」


「ええ、そうですわ」


「儂はイチマツイズコ。放浪の傍ら絵師をやっておる者じゃ。道に迷っていたところ、何やら一際高い壁に行き当たりその周りを回っておったらこの門の前に辿り着いた次第。決して怪しい者ではない」


 そう言うとイズコは深々と頭を下げた。


「よろしければ上がって行きますの?」


「誠に良いのか?」


 オリヴィアの言葉にイズコが驚くように顔を上げた。


「ええ、構いませんわ。ねぇ、エレナ?」


「私は別にいいですよ?」


「かたじけない!」


 オリヴィアとエレナがイズコを連れて門を潜る。


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