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第18話 寝言

「ってかお前、よくも俺の携帯電話をぶっ壊してくれたな」


「知りませんよ……触ったらいきなりビリっときて爆発したんです」


「お前の体はどうなってんだよ」


「何ですか……セクハラ発言ですよ」


「そういう意味じゃねぇよ」


「タクト? さっきから何をぼそぼそ言ってるの?」


 タクトの様子に気付いたマキナが隣からこっそり話しかけてきた。


「別に何でもない。ただの独り言だよ。それより、もうすぐオリヴィアの家が見えてくるはずだ。すっげぇ豪邸だから絶対マキナも驚くと思うぜ」


 それを聞いたマキナが心配そうな表情でタクトの顔を見る。


「え、そうなの? どうしよう、私何もお返しできるものなんて持ってないけど大丈夫かしら?」


「心配いらないって。まぁ、俺みたいに多少扱き使われるかもしれないけど」


 冗談交じりにそう言うとタクトが両腕の荷物をマキナに見せつけた。


「それ本当に大丈夫なの?」


 程なくして林を抜けると、四人の前にアンティークなデザインをした高さ3メートルはある鉄格子の門が現れた。その両側からは白く高い塀がどこまでも続いている。門扉の隙間から奥を覗き込むと広い庭の先に城を思わせるような豪邸が佇んでいるのが見える。


「うわ、やっぱりすげぇな。そう言えばオリヴィアの家を明るいうちに正面からちゃんと見るのは俺もこれが初めてか」


「ここが……オリヴィアの家なの?」


「ええ、ここが私の家ですわ」


 驚いた様子の二人を差し置いてオリヴィアが門を開いた。


「何をしてますの? 二人とも行きますの」


 門を潜り豪邸の玄関先まで到着するとオリヴィアがタクトに尋ねた。


「エレナはまだ眠っていますの?」


 その言葉を聞いたタクトが思い出したようにエレナに声をかける。


「おい、起きろ。着いたぞ」


 何度か声をかけたが全く返事がない。タクトの胸の前にはエレナの腕が力なくぶら下がっている。


 え、まさか……死んでる? いやいやいや、そんな訳ないってさっきまで普通に話してたじゃん。これって俺のせい? 俺のせいなのか? おい、嘘だろ……頼む! 頼むから目を覚ましてくれ! おい! エレナ! エレナー!


「エレナ起きませんの?」


「あ、あぁ、そうみたいだな……」


 オリヴィアが困った表情を浮かべる。


「それは困りましたわ。さっそく仕事を頼もうと思っていましたのに」


「ど、どの道エレナのやつ怪我してるんだしさ、仕事なら俺が代わりにやるから今はゆっくり寝かせといてやろうぜ」


「それもそうでしたわ。では、タクトはまずエレナを広間のソファにでも寝かせて来てもらえますの? 私はその間にマキナを部屋に案内して来ますわ」


「わ、分かった」


 必死に平然を装いながらタクトが返事をする。


「タクト。じゃあ、また後でね」


 マキナが小さく手を振った。タクトもそれに小さく手を振り返し、早足で広間へ向おうとしたその時、後ろからオリヴィアが呼び止める。


「タクト、呉々も……」


「分かってるって、何もしねぇよ」


 オリヴィアの警告を途中で遮り、タクトは真っ直ぐ広間へと向かった。

 すぐに広間に到着したタクトはドアを閉め、誰にも見られていないことを確認すると両手から荷物を降ろし、速やかにエレナを近くのソファに寝かせる。

 そして、タクトが恐る恐る震える手でエレナの頭からゆっくりと帽子を脱がせた。


 すると――気持ちの良さそうな顔でエレナが爆睡していた。


 よかった! 生きてた!


「って驚かせやがって! 本気で死んだかと思ったじゃねぇか!」


 タクトが手に持った帽子をエレナに投げつける。


「お父さん……お母さん……」


 帽子が床に落ちるのと同時に小声でエレナが寝言を言った。


「ん? 何だ寝言かよ。ったく何の夢見てん……」


 そこまで言いかけた途端、落ちた帽子を拾おうとしたタクトの手が止まる。


 エレナの両親って……。


 タクトが黙ってエレナの寝顔を見つめる。すると、一滴の雫が頬を伝いソファに落ちた。それを見たタクトは無言のまま帽子を拾うとエレナの傍にそっと置き広間を後にした。



 ――数時間が経った。


 オリヴィアに頼まれた仕事を全て終えたタクトは日が暮れてすっかり暗くなってしまった部屋の中、ベッドの上で力尽きていた。


「オリヴィアのやつ……人使い荒過ぎだろ……」


 今日俺は結局のところ、それなりに聞き込みを行ってはみたもののイロハについての情報は何も得ることができなかった。あれは、あの時俺が見たのは、本当にイロハだったのだろうか? いや、まだ諦めるには早い。だって、これってば異世界召喚だぜ? この世界に来たのだって、きっと何か理由があるはず。それにアルレキアの町はかなりの広さだ。まだ、どこかにイロハは必ずいる。


 胸に手を当てて今日を振り返りながらタクトが自らに言い聞かせた。


「別に魔王とか勇者とかはいなくても、これはこれで異世界ライフなんだし……」


 コンッコンッ


 誰かが部屋のドアをノックした。


「タクト? もう少しで夕食の準備ができるらしいから声を掛けに来たんだけど」


 マキナの声だ!


「分かった。今行く」


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