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第16話 約束

「どうせ、変なことでも妄想してたんじゃないですか?」


「違ぇよ……少し考え事してただけだ」


「タクトに考えることなんてあるんですか? また妹ですか? どんだけシスコンなんですか?」


「うるせぇ! 中二病!」


「言いましたね! また言いましたね! 今度という今度こそ許しませんよ!」


 調子を取り戻したタクトがいつものようにエレナと口喧嘩を始めた。そんな二人を余所目にオリヴィアとマキナが話しを続ける。


「私たちは今買い物の途中でしたの。マキナはこれから何かご予定でもありますの?」


「私? 私は取り敢えず今日泊まれる所を探してただけだから、この後は何も……」


「では、私たちと一緒に買い物に付き合ってもらってもよろしいですの?」


「ええ、それは構わないけど、私お金持ってないわよ?」


 それを聞いたオリヴィアが笑顔で答える。


「大丈夫ですの。心配いりませんわ」



 それからしばらくして四人は路地を抜け大通りを進んでいた。エレナとオリヴィアが仲良く並んで歩くその後ろを続くようにマキナと買い物の荷物を持った、いや、持たされたタクトが歩いている。


「ねぇ、さっきからどうしてあなただけ荷物を持ってるの?」


 マキナが不思議そうな顔をしてタクトに尋ねる。


「それは……男が荷物を持つのは当然のことだろ?」


「ふーん、タクトって優しいのね!」


 それ聞いたタクトが顔を赤らめる。


「べ、べべ、別に俺のことはどうでもいいだろ。それよりマキナはこの町の人間じゃないのか?」


 今度はその質問にマキナの表情が曇る。


「私……私は……えっと……旅人! 旅人なの!」


 たった今思いつきましたと言わんばかりの顔でマキナが答えた。


「そっか、旅人か! 面白そうだな!」


 タクトの予想外の言葉にマキナが驚くように聞き返す。


「信じるの?」


「え? だって今マキナがそう言ったんだろ?」


「あ、いや、そうだけど……」


「それよりさ、マキナは異能を持ってるんだよな? どんな異能か聞いてもいいか?」


「私の異能?」


「ほらさっき、能力者だって言ってただろ?」


「それは……」


「やっぱり言えないもんなのか?」


「ううん、別に隠してる訳じゃないの。ただ……」


 そこまで言ってマキナが複雑そうな表情を浮かべた。


「別に言いたくないならいいんだ。少し気になっただけだから」


「分かった。タクトは見ず知らずの私を助けてくれたんだし、だからこれはお礼。特別に見せてあげる」


「いいのか?」


「うん……その代わり一つだけ私と約束してくれる?」


 そう言うとマキナは真っ直ぐにタクトの目を見つめた。瞬間、緊張の余りかタクトの息が止まる。そして、まるでこの世界が二人だけを置き去りにして止まってしまったかのような冷たい静寂が彼らを包み込んだ。色も音も温度もない、そんな世界の中心でタクトは自らの心臓が脈打つのを感じていた。いや、それらはこの際どうでもよかった。その刹那、タクトは見てしまったのだ。


 目の前で一人の少女が泣いている姿を。


「助けて」


 今にも消えてしまいそうなその少女は声にすらならない声で確かにそう言ってタクトに助けを求めたのだ。


 マキナ……なのか?


「お……」


 タクトが声を出そうとした瞬間、刺すような激しい光と共にガラスが割れるかの如く一瞬にしてその世界は崩壊した。気が付くとさっきまでと変わらずタクトはエレナとオリヴィアの後ろを歩いていた。


 今のは一体……。


 タクトの顔を確認すると傍らからマキナが歩み寄る。


「いつかでいいから。だから必ず、あなたの方から本当の私に逢いに来て。それが約束」


 マキナがタクトの耳元で囁いた。


「え?」


 驚いたタクトが目を向けると、マキナが両手をタクトに差し出した。


「はい、これ」


 差し出された両手を見るとそれぞれ財布と携帯電話が握られていた。両方ともタクトのだ。


「俺の財布と携帯! どうして、マキナが持ってるんだ?」


「これが私の異能なの」


「マキナって……もしかして人の持ち物を盗む異能なのか?」


「ち、違うから! 別に盗んだ訳じゃないから! ちゃんと返したじゃない! 変なこと言わないでよ!」


 その声に反応してエレナとオリヴィアが同時に振り返る。


「どうしたんですか、二人とも?」


「泥棒ですの?」


「だから、盗んだ訳じゃないの!」


「盗む? 怪しいですね。その手に持っている物は何ですか?」


 そう言うとエレナが驚くほどの手際の良さで素早くマキナの手からタクトの財布と携帯電話を奪い取った。


「ほぉ、これは財布ですね。丁度いいです」


「俺の財布だよ!」


「確認します!」


 中身がないことを一通り確認するとエレナは不満そうな顔で財布を地面に叩きつけた。


「おいー! 勝手に捨てるなよ!」


「中身がないなら用無しです! で? こっちの見たこともない物は何ですか?」


 エレナが携帯電話を開いたその時だった。突如、異様な機械音と共に携帯電話が黒煙を上げて爆発したのだ。その衝撃でエレナが倒れた。


「おい! エレナ!」


「エレナ! 大丈夫ですの!」


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