第14話 新たな被害者
「タクトは早く装備を買いませんの?」
「いや、この店もやめよう……」
「何故ですか! ここの何がいけないって言うんですか!」
「まぁ俺の趣味だけで言うなら、あながち間違いではないんだけど。もう少し服らしい服が売ってる店にしてくれないか?」
「ふっふっふ、残念ですね! 私はこの店以外の店を知りません!」
エレナがいつものように決めポーズを取った。
「威張って言うことか! ってかお前らこの町でいつも何を買ってるんだよ! くそぉ、これが異世界の買い物ってやつなのか……。なぁ、取り敢えず服はまた今度にしないか?」
それを聞いたオリヴィアは一度困った素振りを見せたもののすぐに頷いた。
「では仕方がありませんの。タクトの服はまた今度ということにしましょう」
「悪いな、時間取らせちまって」
「いいんですの。おかげでいい買い物ができましたわ」
気が付くとオリヴィアが何やら長方形の箱を抱えている。
「オリヴィア、それって?」
「これは果物ナイフにしますの」
「いつの間に買って来たんだよ!」
次の瞬間、エレナが勢いよく二人の前に出た。
「では、そろそろ活動開始ですね!」
「ええ、始めますの」
エレナとオリヴィアがお互いの顔を見て頷く。
「始めるって何をするんだ?」
「あら? タクトは一体何をするためにここにいますの?」
「情報収集に決まってるじゃないですか! まずは聞き込みです!」
「はぉ、俺の苦手分野だ……」
何はともあれ、妹を探さない訳にはいかない。三人はそれぞれ周囲の店に聞き込みを開始した。
「あの〜この辺りで黒い髪をした女の子って見ませんでしたか?」
「黒髪だぁ? 悪りぃけど知らねぇな。それより兄ちゃん、見ない格好だな。異国の人かい? どうだい? うちの店見てってくれよ。今ならお安くしとくぜ?」
「あぁ〜それはありがたいけど、今は持ち合わせがないって言うか……」
「何だと! 兄ちゃん一文無しか! だったら商売の邪魔だ! さっさと失せやがれ!」
さっきからずっとこの調子だ。もう十軒近くも聞き込みを行なったが全く目撃情報すらない。それだけ広い町ということなのだろう。どこの店に行っても商品を無理やり売りつけてくるわ、だからと言って一文無しだと言えば忽ち追い返されてしまうわ、何とも手厳しい町だ。
疲れ切ったタクトが辺りに目を向けるとエレナがとある店の前で座り込んでいた。どうやら、薬屋のようだ。
「おい、こんな所で何やってんだ?」
「ん? タクトですか……ちょっとこれを見てください」
エレナが商品の並んだ棚を指差した。そこには包帯やガーゼなどが置かれている。
「お前、どこか怪我でもしてるのか?」
「いいえ、この包帯……」
「包帯? 包帯がどうしたんだよ?」
すると、いきなりエレナが左腕を押さえながら苦しみ始めた。
「うぅ……うあぁ……」
「おい! 大丈夫か!」
「カッコいいです! うおぉー! 早く! 早くこの包帯を巻かなければ! 私の左腕に封印されし黒き稲妻を抑えきれなくなってしまいそうです!」
ち、中二病かよ! 本気で心配しちまったじゃねぇか!
「あーそうか。勝手にしろ」
「しかし! 今の私の持っている財力ではこの包帯を手に入れることが叶いません! うぅ……どうすれば……」
「ただ金が足りないだけだろ!」
「こうなったら止む得ません! オリヴィアとお小遣い交渉です!」
そう言うとエレナは走り去っていった。
「オリヴィアも大変だな……」
それからしばらく聞き込みを続けてはみたものの、やはり目撃情報の一つすら聞こえて来ない。タクトは一旦、オリヴィアたちと合流することにした。
「おーい! オリヴィア!」
オリヴィアは一人、近くの店で買い物をしていた。
「あら? タクト、妹さんについて何か分かりましたの?」
「いや、残念ながらさっぱりだ」
「こちらもさっぱりですわ。あとこれを持ってくださる?」
オリヴィアが当然のようにタクトに荷物を渡す。
「そう言えば、エレナは一緒じゃないのか?」
「先ほど、お小遣いが欲しいとせがまれましたわ。断ったら、どこかへ行ってしまいましたの」
「子供かよ!」
「子供ですの」
「いや、確かにそうだけど。探さなくていいのか?」
「エレナなら心配いりませんわ」
「随分と信頼してるんだな」
「当たり前ですわ。家族ですもの」
オリヴィアがそう言って自慢げに答えたその時だった。
「待てーーー!」
近くの路地からエレナの大声が響き渡った。
「なぁ、聞いてもいいか?」
「何ですの?」
「もしかして、あいつは毎日手当たり次第に人を襲うのか?」
「まさか、月に多くて3〜4回程度ですわ」
「もう一度聞くぞ。オリヴィアはエレナのこと信頼してるんだよな? 大丈夫なんだよな?」
「ええ、時と場合によりますわ……」
「ダメじゃねぇか!」
タクトとオリヴィアが慌てて路地を進む。