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第13話 カルチャーショック

「おい! それどういう意味だよ!」


「あら? そのままの意味ですの」


「何でエレナの格好はセーフで俺のジャージがアウトなんだよ!」


 タクトがエレナを指差す。するとエレナがポーズを決めて言い返した。


「私のどこがおかしいって言うんですか? これは私の故郷に古くから伝わる由緒正しき正装ですよ!」


「どう見ても完全にお前の趣味だろ!」


「これはタクトのためでもありますの。異能を持っているエレナならともかく、いくら私たちがいるとは言え無能のタクトが悪目立ちするのは危険ですわ」


 その言葉を聞いたタクトはテミスの忠告を思い出した。


「悪目立ちは早死にのもとってやつか……分かったよ。お前らがそこまで心配してくれてるなら服を買えばいいんだろ。ってか買ってもらうんだから文句言えねぇしな」


「では行きますの」


 三人は大衆に紛れて街中を進む。通りの脇では何軒もの屋台が軒を連ねて賑わっている。まるでお祭りのようだ。おそらく日本ではお目にかかれないであろう何やら物騒な店までちらほら見える。


「なぁ、まさかこの町って奴隷とかも売ってたりするのか? 人身売買的な?」


「いきなり何ですか? そりゃ、どこかでは売ってるんじゃないですか? 一応、騎士団の支部がある町ですからね、表立ってそんな商売はできません。売っているとしたら裏ですよ」


「あら、何ですの? タクトは奴隷が欲しいんですの? 奴隷の分際で?」


「おい! いつから俺が奴隷になったんだよ! 違くてさ、そういうのって違法じゃないのか?」


「何を言ってますの? 勿論違法ですわ」


「お前ら、よくそんな町で平気な顔して暮してられるな! これがカルチャーショックってやつなのか……」


「正直、そんなに珍しいことじゃありませんからね。タクトも人攫いには気を付けることです。でもまぁ、タクトを攫う奴らなんていればの話ですけど」


「確かに、いない方が俺も助かるよ。でも妹は別だろ?」


 立ち止まった三人の顔色が変わる。


「若い女性は需要がありますからね……」


 エレナのその一言で一気に険悪な空気が漂う。そんな中、一番最初に口を開いたのはオリヴィアだった。


「もし本当に人身売買で売られているなら。それは寧ろ手間が省けるというものですわ」


「どういう意味だよ。それ……」


「簡単なことですの。タクトの妹さんを私たちで買えばいいんですわ」


「何言ってんだよ! それじゃ犯罪だろ!」


「犯罪が何ですの? 違法が何ですの? タクトの妹さんへの思いは、覚悟は、その程度ですの?」


 オリヴィアが問いただすような目でタクトを見つめる。


「とは言っても……これはもしもの話ですわ」


「そうですよ! まだ決まった訳ではありませんからね!」


 オリヴィアとエレナが慰めるようにタクトに優しく語りかけた。


 覚悟が足りなかった……最悪の事態だって十分にあり得ることを分かってはいたはずなのに……。


「オリヴィアの言う通りだ。俺はいつも口先だけで覚悟が足りなかったのかもしれない……俺決めたよ! 何があっても諦めねぇ! だから、必ずどんな手を使っても妹に会いに行く!」


「まあ、その意気ですわ」


「心底、シスコン野郎ですね。気持ち悪いです。生きててもいいですけど」


「あれ? 前となんか少しセリフが違くないか?」


「気のせいです。死んでください」



 それから大分町の中心部に近づいた頃、漸くオリヴィアに案内され服屋らしき店に到着した。はずだったのだか……。


「さぁ、タクト。好きなものをどれでも一つお選びなさいですの」


「って言われてもな……」


 そこはまるで宮殿の一室のように華やかな見た目をした店で、見渡す限り煌びやかな高級ドレスがずらりと並んでいた。


「いや、こういうのは……」


「何も遠慮はいりませんの?」


「タクト……お似合いですよ……」


 エレナがオリヴィアの隣で必死に笑いを堪えている。


 そう言えば、そうだ。オリヴィアがドレス以外の服を着ているところを俺は一度も見たことがない! いや、まだ会って二日も経っていないのだから当然と言えば当然のことなのかもしれない。けど、もしかしてこいつはずっとドレスだけを着てるんじゃないのか? 待て待て、貴族でもそんなことしないだろ! どうなってるんだ! 一体、この世界の服装に対する概念はどうなってるんだ!


「オリヴィアさん……俺にはちょっとドレスは無理かなぁ……せめてタキシードとかにしてもらえない?」


 そう言ってタクトが振り向くとオリヴィアが首を傾げた。


「それはどんなドレスなんですの?」


 やっぱりか! オリヴィアは! オリヴィアだけは普通だと信じていた自分がバカだった!


「悪いけど、ここじゃない他の店に行こう……」


「どうしてですの? 何がいけないんですの?」


「エレナ、お前なら他の店知ってるだろ?」


「ええ、もちろん知ってますよ」


「案内してくれ……」


 店を出たエレナとタクトの後を首を傾げながらオリヴィアが追う。


「何がいけなかったんですの?」


 次に三人はエレナに案内され見るからに危険な雰囲気の漂う店に到着した。そこは剣、棍棒、槍、斧から弓矢までありとあらゆる武器が棚に並べられ店の前にはいくつか鎧が置かれている。


「ここです!」


「いや、ここですじゃねえだろ! どこが服屋なんだよ! どう見てもただの武器屋じゃねぇか!」


「いいえ! 武器だけではありませんよ! 鎧からマントまで冒険者の装備は全てここで買い揃えることができます! 冒険者の強い味方です!」


「おぉ、すげぇ! 流石エレナだ! 俺こういうのに憧れてたんだよ! ってなるか! もっと普通に服を売ってる所に連れてけよ!」


「何を言ってるですか! これが私の普通です!」


「タクト! これを見てくださいですの!」


 突然、オリヴィアに呼ばれたタクトが振り返る。


「このナイフよく切れそうですの! エレナのお陰でいい店を見つけられましたわ! ふふ」


 そう言ってオリヴィアは嬉しそうな笑顔でナイフを握り締めていた。


「怖ぇよ!」


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