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第12話 アルレキアの町

 誤解が解けて安心したタクトはそのままの流れでオリヴィアと洗濯物を干し始めた。


「そうだ、オリヴィア。頼み事があるんだけど?」


「何ですの?」


「明日からモーニングコールはオリヴィアにお願いしたいな〜なんて?」


「エレナだけでは飽き足らず、今度は私ですの? もし私が異能を持っていないことをいいことに甘く見ているのなら。その時は……」


「ち、違うって! エレナだと容赦なく箒で叩き起こされるからオリヴィアにお願いしたいんだよ」


 なんて言ったが、年下の可愛いらしい少女に起こしてもらえるシチュエーションなど滅多にあるものではない。だったら、この機会に違うバリエーションも見ておきたいなんて心のどこか片隅で思ってしまった自分がいることは決して誰にも言えない。いや、言えるはずがない!


 オリヴィアは少しの間考える素振りを見せた後に小さく頷いた。


「分かりましたわ。いいですの」


 ッシャー! タクトの中のもう一人のタクトがガッツポーズを決めた。


 仕事を終えたオリヴィアとタクトが屋内へ戻る。二人が玄関に着いた時、オリヴィアがタクトに声をかけた。


「そろそろタクトも出掛ける準備をした方がいいですわ」


「え? その前に朝食は?」


「あら? 今何時だと思ってますの? 私とエレナはとっくに食べましたわ」


「俺の分は無しかよ!」


「だって、いつまでも寝てるタクトがいけないんですの。でも心配はいりません。タクトの分はエレナが美味しく頂きましたわ」


 その言葉を聞いたタクトの頭の中に疑問が生じる。


 ん? 待てよ? 朝食が既に済んでいるってことは、エレナは朝食後に俺を起こしに来たってことか? それって何かおかしくないか?


「なぁ、オリヴィア。エレナって俺のこと何回起こしに来たんだ?」


「確か朝食前に一度呼びに行ったはずですの。その後は仕事で服を洗わせるように言って……二回ですわね」


「やっぱりか!」


 つまり、あいつは一度無防備な俺を気が済むまでいたぶってスッキリしてから人の分まで朝食を喰い。さらに朝食後に仕事と称して暴行を加えてたってことか。いや、待てよ。一度目の時に既に俺の朝食を狙っていて、わざと起こさなかったってことも十分に考えられる。しかし、食べることと中二病ぐらいしか能がないあいつが果たしてそこまで計画的な犯行をするだろうか? まぁどっちにしろかなりの横暴であることは間違いない。

 ふと目に入った玄関に置いてある大きな鏡の前でタクトがジャージを捲った。脇腹から腰や背中にかけて箒の形をした跡がくっきりと残っている。


「あいつー!」


 気が付くとそこにオリヴィアの姿はなく、タクトは一人玄関に立っていた。それからタクトは部屋に戻り使い道のない携帯電話と財布だけを持ってと言うか、それしか所持品はないのだが、再び玄関へ向かう。

 暫くそこで待っていると廊下の奥の方からオリヴィアとエレナが楽しそうに会話をしながら現れた。


「エレナ! お前なー!」


「何ですか? 仕返しですか? いいですよ受けて立ちます」


 タクトとエレナが互いに構え、二人の視線が火花を散らす。そんな二人の様子を見兼ねたオリヴィアが大人の対応で間に入る。


「二人とも、これから楽しい楽しいお出掛けですの。喧嘩は私が許しませんわ」


 エレナがオリヴィアの陰に隠れた。


「よかったですね。今回はオリヴィアに免じて見逃してあげます。これからも仲良くしましょうじゃないですかタクト」


 エレナはそう言ってオリヴィアの陰から顔を出し、タクトに向かって不敵な笑みを浮かべる。どうやら反省の色は全くないようだ。


 ともあれ、三人はアルレキアの町へ出発した。



 ――オリヴィアの話しによると。


 アルレキアと言う町は栄光の騎士団アルレキア支部があることからも分かるように、この国で有数の大きな都市の一つらしい。場所が丁度国の中心から東側に位置すること。近くに大きな川が流れていること。自然や資源が豊かなこと。安定した気候であることなど。いくつかの好条件が相まって昔から交易、工業、林業、商業が盛んに行われた。その結果、今では国を代表する程の豊かな町、商人の町として発展を遂げたのだと言う。町の中心部には大小様々な建築物が所狭しと建ち並び、まるで迷路のような路地が無数に存在しているらしい。勿論、良いこと尽くめではない。町が発展した反面、人の出入りが増加しそれに比例するように犯罪件数も増加した。事件や騒ぎは決して少なくはないらしいが、オリヴィアはこれでも騎士団の支部の存在が犯罪を抑制していると言う。さらに近年の物価の高騰により貧困層の人々は次々と居住地を失い遂にはこの町を追われる形となった。おそらく、テミスさんが言っていたのはこのことに関係しているのだろう。

 そんな危険な町なら尚更、イロハを早く見つけ出さなければならない。


 タクトが気を引き締めた。


 長話を終えると三人は町の大通りに到着した。半日ぶりだが、いつ見ても見渡す限りカラフルな人混みだ。あちらこちらで多くの店が賑わっている。この中からたった一人の人間を探し出すのかと考えるだけで気が遠くなりそうだ。


「ところで俺は全然金を持ってないんだけど?」


「ええ、分かっていますわ。だからタクトは私から離れてはいけませんの」


「最初から完全に荷物持ち要員かよ!」


「ふっふっふ、私はちゃんと持っていますよ!」


「エレナもまた勝手に遠くへ行ってはいけませんの」


「分かっています分かっています」


「ではまず服を買いに行きますわ」


 それを聞いた途端タクトが項垂れる。


「はぁ〜なんかいきなり待たされそうな予感……」


「何を言ってますのタクト? あなたの服を買いに行くのですわ」


 思わぬ言葉に驚いたタクトがオリヴィアの顔を見る。


「え? オリヴィア……お前……」


「勘違いしないで欲しいですの。その姿では一緒に歩いているだけで、こちらの品格まで疑われるからですわ」


 オリヴィアが真顔で答える。


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