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第11話 二日目の朝

 バンッ!バンッ!バンッ!


 タクトは痛みで目を覚ました。窓からは眩しい程の日が差しているのが見える。そのすぐ横で、その日に照らされながらエレナが箒でタクトの体を容赦なく叩きまくっていた。


「ふふ、いいざまです! いいざまですよ!」


「ん〜なんだよ〜朝から……ってやめろー! 痛いだろうが!」


 タクトが飛び起きてエレナの箒を躱した。


「いつまでも寝てるタクトが悪いんですよ! オリヴィアからは起きないようならそのまま永い眠りにつかせてもいいと、許可をもらいました」


「嘘つけ! オリヴィアがそんなこと言うはずないだろ! そもそも俺は今まで毎日昼まで寝てたってのに、いきなり起きろって言うのが無理な話しなんだよ!」


「どれだけ自堕落な生活してたんですか! よくそんなんで今まで生きてこられましたね! どうせ、タクトのことです。周りの人間に頼りっぱなしだったんじゃないんですか!」


 それに関しては確かに一つも反論できない……。


「そんなことより私は今忙しいんです! オリヴィアと日課の掃除や洗濯をしなければなりません! タクトもその汚い服を早く脱いでください! でないと私が困ります!」


「え、これを? いや、着替えとか持ってないし別にこのままでいいって……」


「早く脱いでください!」


「だから別にいいって……」


「脱いでください!」


「いいって……」


「脱げ〜」


「脱がない!」


「では仕方がありません……」


「分かったらもういいだろ」


「力尽くで脱がせます!」


「え?」


 エレナがタクトに飛びかかり、ジャージを思いっきり引っ張る。タクトは必死でそれに抵抗した。


「やめろー! 破れるだろー! 他に服がないんだよ! これが俺の一張羅なんだよ!」


「服なら買えばいいじゃないですか! その汚い服を脱いでください!」


「これはもうこの世界のどこにも売ってないんだよ! 俺のジャージが汚いって言うなら、お前のマントだってぼろぼろだろうが! 人のこと言えないだろ!」


「これはいいんです! このマントは父の! 家族の! 形見なんです! そんな汚い服と一緒にしないでください!」


「お前が先にそのマントを脱いだら俺もこのジャージを脱いでやる!」


「そ、そんなことできる訳ないじゃないですか!」


「お前が脱がないなら俺も脱がないからな!」


「何をバカなことを言ってるんですか! 早く脱いでください!」


 二人が揉めていると丁度その時。部屋の前の廊下をオリヴィアが通りかかる。ベッドの上で服を脱がせ合っている二人の姿を見た途端、オリヴィアは顔を真っ赤にして無言のまま早歩きで立ち去った。


 オリヴィアのやつ何か勘違いをしてないか……?


「ち、違うぞ! オリヴィア! お前のせいで面倒臭いことになったじゃないか!」


「タクトがさっさと服を脱がないからですよ! 私は悪くありませんからね!」


 エレナはベッドから飛び降りるとドアへ向かう。


「こんなことなら明日からモーニングコールはオリヴィアにお願いしてやる!」


「な、何をー! 私の何がいけなかったって言うんですか! そもそも朝に一人で起きられないタクトがおかしいんですよ!」


「悪かったな! 俺は小さい頃から目覚まし時計がないと起きられないタイプなんだよ!」


「そこまで言うなら明日からはオリヴィアに起こしてもらえばいいじゃないですか! ええ、そうしましょう! 明日の朝になれば私の優しさが身に染みて分かりますよ!」


「箒で叩き起こす奴のどこに優しさがあるんだよ!」


「それでは私は仕事があるので!」


 そう言うとエレナは力一杯音を立てるようにドアを閉めて部屋を出て行った。完全に伸びきってしまったジャージ姿のタクトがそのまま窓の外を見る。昨日の夜に初めて来た時はかなり驚いたが、改めて見ても驚くほど立派な庭がそこには広がっていた。窓から下を覗くとオリヴィアが洗濯物を干している姿が見える。


「起きるか……」


 それから少しして伸びたジャージの腕をまくり、顔を洗い終えたタクトは部屋を出た。


「まずはオリヴィアの誤解を解かないとな」


 洗濯物を干していたオリヴィアの元へ向かう。タクトが庭に到着した時、オリヴィアはまだ洗濯物を干していた。


「……オリヴィアおはよう。今日もいい天気だな」


「おそようですの」


 オリヴィアはタクトと目を合わせようとしない。


「あのさ……さっきのは違うんだよ……」


「分かってますの。全ては私が原因ですわ」


「はい?」


「私が何も考えず、お年頃の男女を一つ屋根の下に住まわせてしまったばっかりに……。それは間違いだって起こりますわ。若気の至りですの」


「だから、そうじゃないんだよ! エレナの奴が俺のジャージを汚いから脱げって言って聞かなくて少し揉めてただけなんだよ!」


「あらまあ!」


 オリヴィアが顔の前で両手を合わせた。


「分かってくれたのか?」


 申し訳なさそうな表情でオリヴィアがタクトの顔を見る。


「それはさっき私がエレナにお願いしたことですの……」


「犯人はお前かよー!」


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